ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過した。広島県内に避難しているウクライナ人は、2023年2月22日時点で、29世帯51人。その中から、福山市に避難して3月で1年を迎える家族の“今”を取材した。

長引く避難生活で日本語が上達

2月11日、福山市芦田町でイチゴ狩りを楽しむ家族たち。避難しているウクライナ人同士に母国語でコミュニケーションを図ってもらおうと「ふくやま国際交流協会」が企画した。福山市に避難する8家族14人のうち、今回は5家族10人が参加。これまでもブドウ狩り、広島城見学で交流を深めてきた。

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旬のイチゴを摘み取り、みんな口いっぱいに頬張っている。5歳のエヴァちゃんが大きなイチゴを手にし、思わず発した言葉は日本語だった。

エヴァちゃん:
でか!でっかすぎる!

エヴァちゃんとともにウクライナ東部ハルキウ州から福山に避難してきた母のアンナ・セメネンコさん(39)。遠くウクライナにいる夫を思い、たどたどしい日本語で話した。

エヴァちゃんの母 アンナ・セメネンコさん:
私はウクライナでイチゴの苗を3つ買いました。だから自宅にもイチゴがなっているかもしれない。それをウクライナに残る夫が食べているかもしれない

避難生活の長期化で、簡単な受け答えは日本語でできるようになった。出入国在留管理庁によると2月22日時点で、2189人のウクライナ避難民が日本で生活を送っている。

終わりの見えない戦争

取材したのは、同じくイチゴ狩りに参加したビクトリア・カトリッチさん(24)の家族。福山に来て間もなく1年を迎える。

娘と母の3人で福山に避難したビクトリア・カトリッチさん
娘と母の3人で福山に避難したビクトリア・カトリッチさん

2022年3月、ウクライナ南部ミコライウ州から母・タチアナさん(50)、娘・ソフィアちゃんの3人で福山市に避難した。あれからもうすぐ1年。ハイハイしていたソフィアちゃんは歯が生え、元気に走り回るようになった。

ビクトリア・カトリッチさん:
毎日、母と一緒に日本語を勉強しています。娘のソフィアは少し日本語がわかり、「おいしい」「すわって」などとしゃべります。日本語の「カレー」も。ソフィアはカレーが大好きです

2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻。今もなお各地で戦闘が続いていて、大勢の市民が国外へ避難している。

ビクトリアさんによると、ミコライウ州の自宅は電気・水道・ガスのライフラインがまだ復旧していないという。長期化する戦争の影響は深刻な食糧不足を招き、WFP=世界食糧計画の推計によるとウクライナ国内の3世帯に1世帯が十分な食料を確保できていないということだ。

残る父への思いと“実生活”の狭間で

ビクトリアさん家族は、福山市から生活費などの援助を受けながら市営住宅で暮らしている。親身になって3人を支え続けているのが福山市在住の斉藤かおりさん。自宅に招いて食事を振る舞ったり、福山市内のイベントに一緒にでかけたりと、ビクトリアさんたちが不安にならないよう日常生活をサポートしている。また、斉藤さんの活動を知る友人たちも生活費を寄付したり、食料や日用品を送ってくれる。

ビクトリアさん家族を支援する斉藤かおりさん(右)
ビクトリアさん家族を支援する斉藤かおりさん(右)

支援者・斉藤かおりさん:
2022年の年末に帰国したいと言っていたが帰れなかった。今年2023年の春も帰れそうにない。ソフィアちゃんを連れてウクライナに帰っても、電気がない、食べ物がない、水もないとなると大変だから日本の保育園に行かせてはどうかと話をしています

この日の昼食はビクトリアさんが作ったパンと、タチアナさんが作ったクレープ。

ビクトリアさんとタチアナさんが作ったパンとクレープ
ビクトリアさんとタチアナさんが作ったパンとクレープ

家族と支援者の斉藤さんで囲む楽しい食卓だが、気がかりなのは父・アナトリーさん(54)のこと。医師である父・アナトリーさんは今もウクライナに残り、日夜、負傷した兵士や市民の治療にあたっている。近況を聞こうと電話をかけるが…つながらない。

ビクトリア・カトリッチさん:
多分、今、電気が使えなくてネットにつながらないので電話ができない

この日の夜、父・アナトリーさんと連絡がついた。しかし、連日続くロシア軍による空爆。アナトリーさんが明日も無事でいられる保障はなく、ビクトリアさんたちはただ無事を祈ることしかできないのだ。

孫のソフィアちゃんを抱く父・アナトリーさん(右)
孫のソフィアちゃんを抱く父・アナトリーさん(右)

たった1つの夢は「戦争が終わること」

母・タチアナさん:
福山はとてもいい場所です。福山の人たちは、みんな私たち家族の生活を支えてくれています。私たちは皆さんにとても感謝しています。もちろんウクライナに帰りたい。福山での生活はいいけれど、夫が1人で待っているので早く帰りたいです。ウクライナに帰る日までに戦争が終わってほしいです

ウクライナの現状を知ってほしいという思いから、ビクトリアさんは斉藤さんと一緒に福山市内の学校を訪問したり、戦争の惨禍を伝えるイベントに参加してきた。

2月、福山市内の学校で話をするビクトリアさんと斉藤さん
2月、福山市内の学校で話をするビクトリアさんと斉藤さん

訪問した学校の生徒からプレゼントされた寄せ書きのメッセージなどが部屋に飾られている。その横に並べられた1枚の色紙。そこには、筆で書かれた「夢」の漢字一文字が…。

(Q:誰がこの漢字を書いた?)
ビクトリア・カトリッチさん:
私です。もう少し美しく書きたかったけど難しかった。私の夢は「戦争が終わること」。それが今のたった1つの夢です

ビクトリア・カトリッチさん
ビクトリア・カトリッチさん

G7広島サミットに託された希望

ビクトリアさん家族が福山に避難して3月で1年。4月からソフィアちゃんは福山市内の保育園に通い、ビクトリアさんは日本語学校で勉強を始める予定だ。

市営住宅の公園でソフィアちゃんを遊ばせるビクトリアさん
市営住宅の公園でソフィアちゃんを遊ばせるビクトリアさん

母・タチアナさんは夫の生活をサポートするため7月にウクライナへ戻る計画だという。

ビクトリア・カトリッチさん:
この1年はとても早かった。ゼレンスキー大統領のG7広島サミット参加はとても大きなサプライズです。ウクライナでは多くの人が仕事がなく、食糧も不足しています。スーパーは開いていますが、価格が高騰していて以前のように買えません。ゼレンスキー大統領には、G7参加国に対しウクライナへの援助などをお願いしてほしいです

ビクトリア・カートリッチさん:
平和…それが私の夢です

遠い異国の地で迎える二度目の春。2月のある日、ビクトリアさん家族は福山市立動物園を訪れた。母と祖母の手をにぎり無邪気にはしゃぐソフィアちゃんの笑顔。

福山市立動物園を訪れたビクトリアさん家族
福山市立動物園を訪れたビクトリアさん家族

家族そろって大好きな故郷で心から笑い合いたい…ビクトリアさんたちは1日も早く戦争が終結することを願っている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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