保育園の入所選考にAIを使う自治体が増えている。AIで選考と聞くと、不安に感じる人がいるかもしれないが、どのような仕組みなのかを広島市で取材した。また、静岡県の保育士による虐待事件以降、保育の質への関心が高まっており、園庭開放、見学など地域に開かれた園が必要という声が聞かれた。

個別の事情を点数化 1週間かかっていた選考作業が10分に

広島市内で子育てをする宮本さん。育休中でこの春、職場復帰予定で、保育園の入園希望を出していた。

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入園希望を出していた宮本厚子さん:
第一希望の園に入れました。安心して預けられるなぁということで気持ちを切り替えて、育休をあけたいと思います

宮本さんの職場は最長で2年休めるが、子どもが待機児童にならないよう、入園しやすい4月に職場復帰することにした。

入園児が多い4月を前に広島市では、その選考の形が大きく変化した。
2月上旬。4月入園の一次選考中だが、何が変わったのか?

広島市保育指導課・西村亜沙美さん:
入所選考システムを導入して、新たなシステムを構築しました

新しい入所選考システムとは、AIを使ったもの。これまでは各区役所で担当者が情報をエクセルに入力し、人の目で選考していた。

区をまたぐ調整を各区の担当が集まって、手作業で行っていたこともあり、時間外労働が増え、業務の効率化が課題になっていた。

これまで1週間はかかっていた作業がAIの導入で…

広島市・西村さん:
10分ぐらいで結果が出るそうなので、大きく作業効率が上がると思っています

新しいAI選考システムでは、まず、申し込み用紙で、細かく家庭状況を聞き取り、それをランク分けし、数値化していく。

広島市・西村さん:
就労時間が長いとか、病気の場合、自宅療養なのか、入院しているのかといった個別の事情を勘案して、ランクと点数を入れています。

広島市 西村さん
広島市 西村さん

広島市・西村さん:
加点というのもあって、きょうだいが同じ園にいたら+4点とか、育休復帰だったら+3点とか。

広島市・西村さん:
あとはきょうだいがいる場合、同じ園に一緒に入りたいか、別の園でもいいので一旦入りたいかといったような、細かなきょうだいの条件を入力しています

詳しく書いてもらった情報をAI選考システムに入力すると…

待つこと10分。
6430人分の結果が一気に表示された。

広島県内では、AI選考を尾道市と東広島市でもすでに導入していて、広島市は業務効率化で、できた時間を丁寧な窓口での対応につなげたいとしている。

こうした動きに専門家は…
安田女子短期大学保育科・橋本信子教授:
世界でも日本は労働の効率が悪いと言われる国になってしまいました。その原因の1つとして、IT化が進んでいないことがあげられる。ですからAIによる診断というのも、その動きとしては当然のことなんだろうなと思っています。それでも、お子さんと子育て家庭に寄り添う気持ちだけは忘れてほしくないなと思っています

広島市の保育園の入園希望者数は、新型コロナの感染拡大後、やや減少しているが、依然2万8千人近くが、入園を希望している。
広島市は、5年間で50園以上増設し、保育園の数は300を超えた。その結果、待機児童は、6年連続で減少し、2022年4月は5人までに。

国の待機児童の基準は厳しすぎ 認可園に入れないケースはカウントされない

ただし、ここで気を付けなければならないのが、国の待機児童の定義には、保育園に入れず、やむなく育休を延長した人や、求職活動を断念した人のケースは含まれていないこと。

これについて当事者団体は…。
保育園を考える親の会・渡邊寛子代表:
実際は認可保育園を希望したけれども、入れなかったという方はたくさんいらっしゃって、その問題点がマスクされてしまっているところが一番の問題かなと思ってます。
待機児童の数がすごい減ったから、全員が保育園に入れてるわけではないということをご理解頂くのが大事かなと思ってます

待機児童数との比較で、実際に入園できなかった人を算出すると、広島市は減少傾向ではあるものの、2022年度はじめだけでも523人に上り、実際は困っている人が多くいることが分かる。

一方で、保育園を増やすにも限界があるという。
広島市保育指導課・山崎俊治課長:
不足する地区については、新しい保育園を新設するなど、その年にゼロになるような形で推計して作っていますが、実際には新しいマンションができたりとかで、ゼロにできていない状況。
毎年のように、子供自体が減っていて、5年前から広島市だけでも8千人近く減っていて、今後どんどん減っていく中で、どんどん新しい園を増やしていくことは難しい状況

広島市保育指導課・山崎俊治課長
広島市保育指導課・山崎俊治課長

4月にはこども家庭庁が発足し、国は子育て政策に力を入れると言っているが、子育てスペースに集う母親の声をひろうと違った視点が見えてきた。

保育園がもっと地域と交流すれば、安心・安全につながる

母親A:
10園ぐらい見学して、やっぱり見学しないと分からないなあって、すごく実感としてありました

母親B:
生まれる前に見学に行ったが、もっといろいろな保育園、特に公立がもっとあったらいろいろ比較できてよかったなと思った

母親C:
園庭開放行かせていただきまして、その時に保育士さんが、焦っている様子だとか、上司の顔色を伺ってないかなみたいなところは、見させていただきました

母親D:
職員さんと話してみないと分からない。行ってみるのは大事だなって言うのは思いました。地域と交流があったりすると、たくさんの人の目が行き届いて、それが安心とか安全につながるのかな

事件を契機に保育の質への関心が高まる

例年以上に、雰囲気や、安心・安全を重視する人が多いという。
背景には、2022年11月に静岡県の園で保育士による虐待事件が発覚し、保育の質への関心が高まっていることがある。

保育園を考える親の会・渡邊寛子代表:
2022年の不適切保育の事件をきっかけに、保護者の方の目線がそこに厳しく向いているのは事実かなと思います。やはり氷山の一角で、まだまだ同じような問題が起きている園もあるので、保護者からしてみれば、やはり安全な園に預けないと安心して働けないということになる。保護者の意識が高まっているのは当たり前なのではないかなと思っています

専門家はこうも指摘。
安田女子短期大学保育課・橋本信子教授:
園庭が無くても、認可を受けられるという事情がある。受け入れ先を作っていくことと同時に保育士の確保、保育環境の質の向上ということも合わせて考えていかなければならないと思っています

国や自治体の子育て支援策には、保育現場や地域の声も反映させ、施設の数の拡充だけでなく、保育の質の向上も強く求められている。

(テレビ新広島)

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