“世界最大の花”として知られる「ラフレシア」。図鑑などで見たことはあっても、実際に目にした人はなかなかいないだろう。
静岡・磐田市にある「竜洋昆虫自然観察公園」の職員・柳澤静磨さん(@UABIrurigoki)は、本の執筆のためマレーシアに取材で訪問。その滞在の中で“ラフレシア”を見ることができたことをTwitterで報告していた。

笑顔の柳澤さんの横に咲いているのが、開花1日目だというラフレシア。咲いた花は数日しかもたないため「幻の花」とも呼ばれているそう。
鮮やかな朱色の大きな花が伸び、中心部分は口のように大きく開いている。並んでいる柳澤さんの顔を飲み込んでしまいそうで、どれほど大きな花なのかが一目でわかる。

なお、咲いている数日の間でも同じ色ではないそうで、最も美しいのは咲いてから2日目までだという。柳澤さんは「森の中で凄まじい存在感を放っています。」とコメントしている。
開花1日目のラフレシアに奇跡的に出会え、美しい瞬間を撮影した投稿には、「うわーー これはすごいですね!!!!」「一生に一度あるかないかの出会いに感激」「思った以上の存在感にビックリしています」といった感動の声が多く寄せられており、8万3000のいいねが付く話題となっている(3月2日時点)。

なお柳澤さんは、開花3日目の別のラフレシアも見つけている。こちらはツタ状の植物から生えていたそうで、地面からでなく横向きに咲いていた。
開花1日目と比べると、花はしおれ、色もどこか鮮やかさをなくし暗くなっているように見える。そのぶん怪しげな雰囲気を醸し出しており、この様子には柳澤さんも「何も知らずに見たら、『人喰いの花ではないか?』と思うでしょう」とコメントしている。

開花1日目、3日目の他にも、つぼみ、咲きかけのつぼみ、開花してから8日目、そして、枯れた状態のラフレシアと、いくつかの経過が分かるラフレシアを見ることができたという。
日本では、まず見ることができないであろう花の存在に、多くの人が魅せられたのではないだろうか。
森の中に急にラフレシアが鎮座していた
ラフレシアというと匂いがすごいと耳にしたことがある。匂いや感触など、実際に見た柳澤さんに話を聞いてみた。
ーー初めてラフレシアを目にした時の心境を教えて。
本当にこんな生き物がいるんだと驚きました。写真では見ていましたが、どこか現実感が無く、実際に見たときの衝撃は大きかったです。

ーー匂いや触感はどうだった?
魚が発酵したようなにおいがしました。日数による変化はわかりませんでした。触った感想としては、質感はゴムのようでした。1日目と3日目の個体で触った感触に違いはなかったように思います。
ーー周囲の様子は?
ハエの仲間が多く寄ってきていました。森の中に急にラフレシアが鎮座しているような状況でした。

ーーつぼみ、咲きかけのつぼみ、1日目、3日目、8日目、枯れた状態と、それぞれのラフレシアを見て印象的だったのはどれ?
やはり1日目のラフレシアです。鮮やかさが段違いで、これぞラフレシアという見た目でした。
ーー投稿には多くの反響があるが?
私は昆虫館に勤めていますが、植物も大好きです。少しでも多くの方に生き物の面白さを感じていただけたのなら嬉しいです。

なお、柳澤さんにラフレシアの魅力を聞いてみたところ、大きさはもちろんのこと、「日数によって変わる色合いや少し不気味なところ」とのことだった。
実は「世界最大の花」は同じ属の別種
そもそもラフレシアとは、どのような植物なのだろうか?ラフレシアの標本と模型を展示している、京都府立植物園の担当者に教えてもらった。
ーー投稿画像のラフレシアについて教えて。
ラフレシア・ケリー(Rafflesia kerrii)というマレーシア、タイ原産のラフレシアになります。一般にラフレシアという場合はラフレシア・アーノルディー(Rafflesia arnoldii)を指し、こちらが“世界最大の花”と言われています。
ラフレシア・ケリーは同じ属の別種なので世界最大とはいえないと思います。熱帯雨林に生えますが、実際には宿主ブドウカズラの根に寄生し、根の表面に花だけを咲かせます。

ーーどれくらいの大きさになる?
ラフレシア・アーノルディー(Rafflesia arnoldii)は花の直径が60~90cmと言われます。ちなみに、ギネスブックのHPでの世界一の直径は111cmと書かれています。
ーーなぜ強い匂いがするの?
花粉を媒介するのがハエで、ハエをおびき寄せるため腐ったにおいがします。
開花するまで約9カ月、咲くのは数日
ーー開花する時期はいつ頃?
分かりません。明確な開花期は無いと言われています。
ーーどれくらいの期間で開花して、どれくらいの間咲いている?
寄生してから2~3年で地上に出てきますが、その後開花するまでは9カ月ほどかかります。数日しか咲きません。
花がしおれるため、咲き進んでいくと数日間で花の色が変化します。一般的にはハエが花粉を媒介する種類は、基本的に開花期間が短いように思います。
当園でも挑戦したがうまくいかず…
ーー食べることはできる?
分かりません。見ることすらレアであるのに加え、花が数日で枯れてしまう、なおかつ、マレーシアやタイなどの現地では観光資源として成立している(見学する際には協力金を求められます)ものを食べることはまずないのではないでしょうか。

ーー栽培することはできるの?
ラフレシアは寄生植物なので、当園でもラフレシアが寄生しているブドウカズラの枝をもらってきて、接ぎ木をしてみましたが、うまくいきませんでした。インドネシアのボゴール植物園では、同じような手法で確率は低いですが成功しているようです。
当園で成功しなかったのは、海外から送られてくるものなので“枝の新鮮さ”の点で不利だったのかもしれませんし、実施回数の問題だったのかもしれません。現時点では栽培は不可能ということでよいのではないでしょうか。
ーーラフレシアの魅力はなんだと思う?
(数日しか開花しないため)見ることが難しい、栽培は出来ない、世界最大の花、臭いにおい、こんなものが地球上にあるのか、という不思議なものです。誰もが生で見てみたいと思います。

なお京都府立植物園では、今のところラフレシアの栽培に挑戦する予定はないそう。
以前に比べ植物防疫などにより、植物の持ち出しに関するルールが厳しくなっているため、穂木(ラフレシアが寄生しているブドウカズラの枝)が入ってくるチャンスは少ないのだそう。それでも「もしチャンスがあれば挑戦したい」とも話していた。
ラフレシアは花を咲かすのに約1年かかり、咲いた花も数日しかもたないため「幻の花」と呼ばれます。
さらに、咲いている数日間は同じ色ではなく、最も美しいのは咲いてから2日目までとか。
奇跡的に出会えた、開花1日目のラフレシア。もう二度と見られないと思います。
マレーシア、最高でした! pic.twitter.com/FW4ZhhfLcv
— 柳澤 静磨 Shizuma Yanagisawa (@UABIrurigoki) February 21, 2023
柳澤さんが体験した今回のラフレシア発見の投稿は、世界にいる驚くべき“いきもの”の存在を、改めて多くの人に伝えてくれたのではないだろうか。