JR博多駅前で起きた女性刺殺事件から1カ月。
被害女性は、生前警察に対し「ストーカー被害」を相談していた。ストーカーによる事件を防ぐには、身を守るには被害者と加害者、双方へのアプローチの必要性が見えてきた。

「警告」や「禁止命令」では止まらない

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2023年1月16日、JR博多駅前で女性が刃物で刺され死亡した。殺人などの容疑で起訴された男は女性の元交際相手で、男にはストーカー規制法に基づく「禁止命令」が出ていた。
ストーカー規制法に基づく措置には、警察が加害者に注意を促す「警告」と、違反すれば逮捕も可能な「禁止命令」がある。

ストーカーの元・加害者の男性は、「警告」や「禁止命令」が加害行為を止めるとは限らないと話す。

ストーカー・リカバリー・サポート 守屋秀勝さん:
固定電話に電話。1日50回から60回するなどした

守屋秀勝さん、57歳(※2023年2月取材当時)。過去に、ストーカー行為をして、警察に「警告」を受けたことがある。現在は、自身の経験からストーカー被害者や加害者の更生を支援する活動を行っている。

守屋さんは、自身が「警告」を受けた心境を語った。

ストーカー・リカバリー・サポート 守屋秀勝さん:
警察は介入してもかまわない。でも(被害者は)警察に言わないだろう。身勝手でひどい考え方だが、当時はそう思っていた

長崎県内では、警察が「警告」を出しても防げなかった事件があった。2011年に起きた西海市ストーカー殺人事件では「警告」を受けた男が、被害を訴えていた女性の母親と祖母を殺害した。

加害者へ厚生のアプローチが必要

守屋さんはストーカー事件をなくすためには「加害者の更生」が必要と訴える。

ストーカー・リカバリー・サポート 守屋秀勝さん:
厳罰化しても、警察が介入して注意を促しても、(ストーカー行為を)やる人もいる。加害者の更生や医療に対する治療の義務化など、肝心要の加害者を無力化するための必要な法改正がなされていない

守屋さんは万が一、自分が被害者になってしまった場合、ストーカー被害を受けたあと、やってはいけない行動があると話す。それは「電話やメール、SNSで加害者の着信を拒否したりブロックすること」だ。
連絡手段を絶たれた加害者は「行き場を失った」と感じ、ストーカー行為がエスカレートする恐れがあるという。加害行為を拒絶している証拠を残すため、録音など記録をすることが大切だ。

守屋さんが必要性を語る「加害者への更生へのアプローチ」を始めている機関もある。
京都府警では、2017年から「警告」や「禁止命令」を受けた加害者に無料で、カウンセリングを受けさせる取り組みが続いている。これまでにカウンセリングを受けた32人の再犯率は0だ。

京都文教大学・川畑直人教授:
(加害者の話を)共感的に理解することで、少しずつ(ストーカー行為までの)プロセスを客観的に見直す。相手の人への執着心も少しずつ減じているようにも思う

京都府警からの委託を受け、加害者のカウンセリングにあたった臨床心理士でもある京都文教大学の川畑直人教授は、取り組みには一定の効果がみられるものの、予算不足や加害者更生の理解が得られないことから、全国的な広がりには課題がある、と話す。

京都文教大学・川畑直人教授:
加害行為をする人に対して、ケアをしなくてはいけないのかと。罰すればいいではないかと、国民・市民の感情は根深くある。制度化するにはハードルがある

まずは「相談」を

長崎県警でも加害者の更生を促す取り組みが始まっている。2016年から加害者が希望した場合、精神科などの医療機関を紹介しているほか、治療した医師から加害者の対応方法についてのアドバイスを受けている。

長崎県警は、加害者への迅速な対応のため、被害者に「早めの相談を」と呼びかけているが、被害者側が警察の介入を拒んでしまうケースもあると言う。

長崎県警 人身安全対策課・近藤俊秀次席調査官:
相談をしていただく中で、警察から「対応してもらうことはない」と言う人もいる。相手を犯罪者にしたくないなど。異常を感じたときに、「もしかしたら」と一番思うのは被害者だと思うので、遠慮なく言ってもらえればアドバイスできる

ストーカー事案の解決には、警察や行政が加害者と被害者の両方にしっかりと目を向ける必要があると言えそうだ。
解決のきっかけはストーカー行為を被害者自身が自覚し、助けを求めることが大切だ。
まずは警察や周りの人に相談してほしい。

(テレビ長崎)

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