映画「ダイ・ハード」シリーズ、「アルマゲドン」などの屈強な役柄で人気を博した米ハリウッド俳優のブルース・ウィリスさん(67)が認知症を患っていることを、ブルースさんの家族が公表しました。

ブルース・ウィリスさんが診断された病は「前頭側頭型認知症」

どのような病気で、どのような症状があるのでしょうか。

専門家「変化は非常に気づきにくい」

家族が公表した声明文には、公表した理由について「メディアの注目が集まり、より多くの認知と研究が必要なこの病気に光が当たることを願っています」と書かれてあります。

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さらに、今の症状について「意思疎通の難しさはブルースが直面しているこの病気の症状のひとつにすぎません」としている。

ブルースさんの妻・エマさんのSNSより
ブルースさんの妻・エマさんのSNSより

失語症と診断され、2022年3月に俳優業の引退を表明したブルース・ウィリスさん。同年10月に撮影された映像には子どもと楽しそうに過ごす様子が映っています。普通に生活をしているように見えても、認知症の影響は出ているのでしょうか。

「めざまし8」は、アルツハイマー病研究の第一人者である順天堂大学医学部・新井平伊名誉教授に話を聞きました。

順天堂大学医学部・新井平伊名誉教授:
認知症全体に言えるのですが、軽度障害の場合は全く普通にできるんですよ。一部に変化が見えるだけなんです。

ウィリスさんの場合は失語症から始まる、側頭葉から始まるタイプなので、わりと経過は軽くて、特に普通に生活ができて変化は非常に気づきにくいのが特徴です。

主な認知症の特徴は?

日本での認知症患者の状況はどうなのでしょうか。厚生労働省によると65歳以上の認知症の患者数は2020年時点で推計600万人。2025年には700万人に増えると予測されています。

「認知症」といってもいくつかの種類があります。

割合でいうと一番多いのが「アルツハイマー型認知症」57.3%。異常タンパク質により神経細胞が減少し、海馬や頭頂葉が萎縮することにより記憶障害などを引き起こします。

次いで「血管性認知症」15.5%。脳梗塞などによって十分な血液が送られず、神経細胞が機能低下。症状は障害を受けた部位によって異なります。

そして今回ブルース・ウィリスさんが診断された「前頭側頭型認知症」の割合は10%。「前頭側頭型認知症」は異常タンパク質により神経細胞が減少し、前頭葉や側頭葉が萎縮することで、性格変化や行動障害・失語などを引き起こします。

順天堂大学医学部・新井平伊名誉教授:
一般的には行動障害がアルツハイマー型と比べて違うというところが印象づけられていますが、これは前頭葉から始まる前頭側頭型なんですね。ウィリスさんの場合は今回側頭葉から始まるタイプなので、わりと最初に失語が出てきたりしてゆっくりした感じです。前頭側頭型といってもタイプが3つくらいに分かれるんですね。なので、ウィリスさんの場合は行動障害というのはどちらかというと進行してから出てくるパターンだと思います。

性格一変や歯を磨かないなどの症状も

新井名誉教授によると、「前頭側頭型認知症」は40~65歳の比較的若い人が発症する、若年性認知症の一種です。

特徴としては、性別で差はなく、症状は軽度約5年、中等度約5年、高度5年という形で進行していくため、いきなり重い障害になることはありません。

具体的には、
・言葉の意味を理解できなくなる
・意欲が低下し日常的なことをやらない(風呂に入らない、歯を磨かないなど)
・同じ行動を繰り返す(手をたたく、同じ物を毎日食べ続けるなど)
・行動の抑制がきかなくなり性格が変わったようになる(行列に割り込む、人の物を取る、信号無視など)
といった症状がみられます。

めざまし8は、実際に夫が「前頭側頭型認知症」を発症した妻に、初期症状について聞きました。

「店先のボトルを取って飲んで…」前頭側頭型認知症支えた家族の“声かけ”

話を聞いたのは、今から19年前の2004年に夫の好夫さんが「前頭側頭型認知症」と診断された水野嘉子さん。当時、好夫さんは52歳で7年にわたり家族で病気と向き合うことに。その後、好夫さんは甲状腺の病気が悪化し、亡くなりました。

最初に夫の異変に気がついたきっかけは、“ある行動の変化”でした。

水野嘉子さん:
最初、本当にニュースを見なくなったんです。そして新聞を読まなくなったっていうのが大きかったですね。自らアニメを見るっていうことはありえなかったので、それはちょっとびっくりしましたね。

その後、好夫さんは病院で診断を受けた。

水野嘉子さん:
読み書きは本当に分からなくなるのが顕著でしたね。パソコンの文字がきちんと理解できない、読めない、きちんと打てない。(その後、症状が進行していくと)道を歩いたら大声を出したり、通行人の方を驚かしたりっていうことが度々あったりもしたので。暑くて散歩に出たときに、店先のボトルを取って飲んでしまうので、それはやっぱり万引きになるのですぐにお店の方が警察に通報された。

闘病生活を家族はどう支えたのでしょうか。

水野嘉子さん:
主人に優しく「ありがとう」とか「大丈夫」とか色んな言葉をかけていけばいいんだと吹っ切れた時に、優しくなれるんですよね。どんなにドンドンと音を立てようが大きな声を出そうが、「パパ大丈夫だよ」って声をかけたらそこは収まるんですよね、不思議と。

優しく声をかけ続け寄り添うという家族の支えについて、新井名誉教授は「薬より効果的な部分は多い」と指摘しています。

順天堂大学医学部・新井平伊名誉教授:
もちろん支えは大事ですね。脳は一部だけがダメージを受けているので、それ以外は喜怒哀楽、感情は正常なんですね。初期の場合は特にご本人が一番不安になったり落ち込んだりしています。そこをいかに周りのご家族を含めて医療者が支えるかというところが薬よりよっぽど効果的な部分は多いと思います。

これから認知症患者が増えていく予測も出ていますが、これからどのような取り組みが必要となってくるのでしょうか。

アルツハイマー治療の第一人者 順天堂大学医学部 新井名誉教授
アルツハイマー治療の第一人者 順天堂大学医学部 新井名誉教授

順天堂大学医学部・新井平伊名誉教授:
一言で言うと包括的な支援です。治療法がないというのは治す治療法がないというだけで、決して今でもまず薬物療法としても睡眠の確保や不安を和らげたり、行動異常のそういった症状に対してはは専門的な薬物療法があるし、非薬物療法的なアプローチというのがご本人とご家族を支えていくような支援体制なんです。
国もこの病気に対しては難病指定までして経済的な支援をしています。ご家族も含めて在宅でなるべくやっていきたいというご希望に関して行動障害が出てきた場合には本当に大変で、この辺が地域それから医療関係、そして行政がどうやってご家族も含め支えていくかというのがまだまだこの病気に対しては課題が十分残っていると思います。
施設に預けるという考えもあると思いますが、それに関しては緊急避難的にはご家族を守るためにも本人を守るためにも、入院が必要で薬物療法も安定剤など必要なんですが、長期になる必要は全然ないので、例えば2~3カ月で薬物療法でうまくコントロールして在宅に戻るというのが一番いいと思います。

(「めざまし8」わかるまで解説 2月20日放送より)