北日本に吹雪をもたらしている寒気が南下し、21日の東京都心はここ数日の暖かさから一転、冷え込みが強まり一気に気温が下がる見込みだ。

そんな冬の寒さに関し、北海道民は地元と東京で“感じ方”に違いがあるようなのだが、ご存じだろうか?

「真冬の本州の5℃よりも北海道の0℃の方が暖かく感じる。共感してくれる人いるかな」
「北海道より東京の方が体感寒いのなぜ」

SNSにはこのような投稿があり、ユーザーからは「道民あるあるですねーーー」「東京にも札幌にも住みましたが、東京の冬は寒くて仕方なかったです」「北海道地元で東京住まいですが、なんなら東京の冬の方が寒く感じます」などと共感するコメントが寄せられているのだ。

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寒い地域での生活を経験していないと感じることがない違いかもしれない。北海道出身の筆者も、東京の冬の方が寒いと感じることがある。

雲が少ない東京は北海道より寒い

気温で比べると明らかに北海道の方が寒いのにもかかわらず、どうして東京の方が寒く感じる人がいるのだろうか? 気になる疑問について、札幌市立大学デザイン学部の齊藤雅也教授に話を聞いた。

ーーどうして北海道よりも、東京の方が寒いと感じる人がいるの?

「北海道の冬よりも東京の方が寒い」と北海道にいるわたし自身も感じます。これは、体感温度、積雪、住宅の保温性(断熱性)、北海道民の温度感覚(想像温度)が関係して北海道よりも東京の方が寒く感じるのだろうと思われます。実際、屋外にいるか、室内にいるかによって状況がやや異なりますが、ヒトの「体感温度」からおおむね説明できます。

ーー体感温度がどう関係している?

私たちの「体感温度」は、空気温度(外気温)だけでなく「その空間を構成する面:私たちの体を取り囲む面の温度(表面温度)」の影響を強く受けます。
札幌と東京の2月の気象データ(気象庁より)を比較します。

<札幌> 2月平均 外気温度:-2.7℃ 湿度:68% 雲量:7.8
<東京> 2月平均 外気温度: 5.2℃ 湿度:53% 雲量:4.0
(2月11日時点)

単純に外気温だけを比較すると、札幌の方が東京よりも「寒さ」が厳しいと言えます。しかし、条件によっては「体感温度」が札幌と東京で同じになる。あるいはまれですが、東京の「体感温度」が札幌(北海道)よりも低くなる場合があります。

湿度よりも体感温度に強く影響するのは表面温度ですが、気象データには表面温度がありません。そこで「雲量(ウンリョウ)」と呼ばれる尺度を使って表面温度がどのくらいかを考えてみましょう。

雲量は0~10の10段階尺度で記録
雲量は0~10の10段階尺度で記録

札幌の雲量は、7.8で東京4.0の約2倍です。札幌の2月の平均降雪日数は25日ですが、札幌はほとんど毎日雪が降っている都市(雪まつりも2月初旬に開催)と言えます。一方、東京は、札幌よりも晴れの日数が多いことを示しています。

雲がないよく晴れた冬の天空温度(表面温度)は、赤外線サーモカメラで撮影すると、マイナス30℃ほどの極めて低い温度です。東京では、札幌よりも雲があまり掛かっていないのでマイナス30℃の冷たさが常時地上に降り注いでいます。

一方、札幌の冬(2月)はほぼ毎日雪が降っていて、雪を降らせる雲が天空と地表面との間にあるため、地表にいる私たちをマイナス30℃の冷たさから守ってくれている。雲は、緩衝材(断熱材)になっていると言えます。東京は、よく晴れているので空からの冷たさの影響をダイレクトに受けやすい都市と言えます。

また、東京を含む首都圏は太平洋側で、冬は「からっ風」と呼ばれる北からの冷たく乾いた強い風が関東平野全体に吹きます。この風によって体感温度はさらに低くなります。

東京の家は札幌に比べて約半分の保温性

ーー住宅にも違いはあるの?

家の中では、住宅の保温性(断熱性)の違いが「体感温度」に影響していると考えられます。道民がよく言うのは、「北海道は気温が低いけれど、家の中は東京の方が寒い」。これは、私自身(20年前に札幌に移住)も同じ体感をもっていて、毎冬、実家のある千葉に帰るととても「寒い」です(笑)

東京の家は、札幌の家に比べて平均的に言えば、約半分の保温性しかありません。つまり、エアコンやストーブで室内を暖めても、その熱が室内から外に(同じ温度差であれば)2倍のスピードで逃げていくので、すぐに冷めてしまう構造になっています。

わかりやすい部位で比較すると「窓ガラス」です。東京の家の多くはシングルガラス(1枚ガラス)+アルミサッシになっています。一方、札幌の家はペアガラス(複層ガラス)+樹脂サッシが普及していることからも違いが実感できます。

複数窓イメージ
複数窓イメージ

仮に、エアコンやストーブの出力を強めて、札幌と東京でのそれぞれの室温を20℃に維持していたとしても、東京の家では壁や窓ガラスの表面温度が15℃以下(窓ガラスの表面温度:12~13℃で結露している)になることが多く、札幌の家は室温と同じ20℃前後を維持している家が多いです。

つまり、東京の家では、東京の屋外の天空からの冷たさを受ける状態と同じ状態が家の中でも起こっています。

壁や窓の表面温度がマイナス30℃までにはなっていませんが、室温の20℃よりも5度低い15℃前後の面に囲まれているヒトと、室温と表面温度が同じ20℃に保たれた面に囲まれているヒトの「体感温度」に差があるのは明らかで、5度低い面に囲まれているヒト、つまり東京の方が「寒さ」を感じやすいと言えます。


ーー「体感温度」はみんなそれぞれ違うの?

理論的にはみんな同じになります。しかし、実際に同じ室内にいるヒトに「いま何度と思うか?」を申告してもらうと同じ温度にはなりません。ヒトによって多様です。私は、この温度を「体感温度」と区別して「想像温度」と呼んでいます。

「想像温度」は、「体感温度」と同様に寒さ・暑さ感に直結するのですが、地域特性や季節特性、個人のライフスタイルの違いによる影響によって決まる温度であることが、わたしたち札幌市立大学チームのこれまでの研究で明らかにされました。

“雪”が作る「断熱材」の役割

ーー寒く感じないことについて、雪が関係したりしているの?

具体例をあげると、雪で作る「かまくら」があります。外にいるときよりも「かまくら」の中の方が温かく感じます。気温は「かまくら」の中と外でそれほど変わらないのですが、「かまくら」の中の方が温かく感じるのは、「かまくら」の雪が固まってできた天井(屋根)や壁が天空からの冷たさ(放射)を遮ってくれるからです。

先日、偶然、大学内で「かまくら」を制作しました。実際に「かまくら」の内外の気温はあまり変わらないのですが、中での体感は温かさを感じました。つまり、札幌の冬の雲は、「かまくら」の天井や壁の役割と同じで、雲が少ない東京の冬の方が札幌よりも寒いと感じる要因になっていると考えられます。

2月11日、札幌市立大学芸術の森キャンパスに作ったかまくら(提供:大学院生  堤晴季、本多いづみ、福田大年 講師、鬼塚美玲 講師)
2月11日、札幌市立大学芸術の森キャンパスに作ったかまくら(提供:大学院生  堤晴季、本多いづみ、福田大年 講師、鬼塚美玲 講師)

また、積もった雪の直接的な影響の代表例として、屋根に積もった雪が「断熱材」の役割を果たしています。北海道の家の屋根や壁には、新築物件ほど断熱材が厚く入っているのですが、屋根の上に積もった雪も「かまくら」の例にも示した通り、雪が天空からの冷たさを抑える緩衝材として、室内に冷たさを持ち込ませないのに加えて、室内で発生した熱を外に逃がしにくくしています。

また、屋外にいる人にとっては降り積もった雪が風から身を守ってくれている影響があるかもしれません。札幌の市街地では2月は道路わきの雪山が2m以上になることが普通です。

ーー「北海道より東京の方が寒く感じる」は“道民あるある”なの?

はい、共感します。大学の卒業生が就職で東京に移動すると、決まって最初の冬は家もお店もどこもかしこも「寒くて毎日が大変です」とメールを寄こしてきます。これは、東京の家やお店の保温性が札幌に比べて低いことがもたらしていると言えます。

また、物理的な「体感温度」に加えて、道産子の彼らの意識のなかに培われた「想像温度」の特性が重なり合って「寒さ」感を形成したのだろうと考えられます。


ーーこの体験が東京の人に共感されないのはどうして?

道民は、北海道特有の寒冷気候の中で、東京に比べて保温性(断熱性)の高い住宅に住んでいます。また、オフィスや学校なども同じで熱に対するストレスをあまり抱えないで日々暮らしています。ですので、慣れない東京に出張や受験などで行くと、自身の「想像温度」の物差しは通用せず。出会ったことのない性質の「寒さ」を感じて、ひどい場合は風邪をひくなんてことになります。これは海外旅行に行った時に体調を壊すのと同じでしょうか。

逆に東京のヒトは、そのような熱環境が屋外も室内も日常なので、普段からほとんど違和感がなく「冬ってこんなものだよね」と受け入れて過ごしているように思います。

北海道と東京によって「寒さ」の感じ方が異なるのは、さまざまな要因が関係していた。それぞれ地域の特徴を理解することで、より快適な冬を送ることができるかもしれない。

(イラスト:さいとうひさし)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。