昭和の時代、狭いたばこ屋で真剣に駄菓子を選んでいた子どもたち…。そんな“子どもの居場所”が減っている今、「未来の駄菓子屋」を思い描く女性がいる。瀬戸内海を望む小さな町に、心がほっこりする店を見つけた。

駄菓子屋が消えた町に…

美しい瀬戸内海の景色を一望できる広島県呉市川尻町。

この記事の画像(16枚)

この町に、子どもたちが走ってやってくる場所がある。町にただ一つの駄菓子屋「大田笑会」だ。

店には、きなこ棒やヨーグルなどの懐かしい駄菓子が100種類以上並んでいる。

昭和の香りがする懐かしい駄菓子
昭和の香りがする懐かしい駄菓子

店主の大田恵美さん。3人の子どもの育児が一段落したのを機に、2022年8月、この店をオープンした。

大田笑会・大田恵美さん:
元々は家の倉庫として使っていました。息子が野球をしていたので、雨でも練習できるようにティーバッティングのスペースにしたり。駄菓子屋をするつもりはなかったんですけど、友達の子どもから「最近、川尻には駄菓子屋さんがなくなっている」と聞いて、じゃあ駄菓子屋さんにすると子どもたちが気楽に寄れるのではないかと思って

この地区には、5年ほど前まで駄菓子などを販売する店が数軒あった。しかし、店主の高齢化や新型コロナウイルスの影響も重なり、子どもたちが気兼ねなく立ち寄れる店が町からなくなってしまったのだ。

大田笑会・大田恵美さん:
川尻に集まる場所がないってことが大きな問題で、子どもたちが集まる場所になってほしい

子どもたちの”居場所”になっている「大田笑会」の店内
子どもたちの”居場所”になっている「大田笑会」の店内

代金を自分で計算し“現金”で

開店時間は午後3時。学校の授業を終えた小学生や中学生が次々とやってくる。この店では子どもたちに1つ、“課題”を与えている。

子ども:
85円です

大田笑会・大田恵美さん:
30円、30円、15円、10円でなんぼ?85円ね。オッケー

「お金の重みを感じてほしい」と、大田さんは子どもたちに購入する商品の金額を自分で計算させているのだ。

大田笑会・大田恵美さん:
コンビニでもスーパーでも電子決済で、現金を扱うことはあまりないですよね。1つずつ自分で計算しながらお菓子をかごに入れると、お金のありがたみもわかるし

“おむすび”で生まれる笑顔

この店には、駄菓子屋にしては“珍しい物”が売られている。

子どもたち:
おいしいです

彼らがおいしそうにほお張っているのは手作りの「塩むすび」。大きいのは100円、小さいのは50円。さらに、中学生以下には週1回無料で振る舞っている。

(Q:なんで、おにぎりなんですか?)
大田笑会・大田恵美さん:
おにぎりではなく“おむすび”って言ってもらいたいです。人と人を“結ぶ”とかけて。本当は、毎日無料にしてあげたい。お金がある子は食べられるけど、お金がない子はおなかが空いていても食べられない。でも、子ども食堂にすると来づらくなるので、子どもたちが気軽に「おむすびちょうだい」って言える環境を作れたらなって

週に1回、子どもたちに無料でおむすびを振る舞う大田さん
週に1回、子どもたちに無料でおむすびを振る舞う大田さん

笑顔でおむすびを食べる姉と弟の姿も。

小4の弟:
大田さんの温かさが伝わります

中1の姉:
みんなが1つになったって感じ。おにぎりを通して、みんなが笑顔になる感じがします。川尻に「大田笑会」ができて、年齢問わずいろんな人が一緒に楽しめる場所ができてうれしいです

おにぎりをほお張る小4の弟と中1の姉
おにぎりをほお張る小4の弟と中1の姉

「温かいものを食べてほしい」という大田さんの思いは、子どもだけでなく親にも伝わっている。

姉弟の母親:
大田笑会さんのおかげで私たち母親も交流できる。いろいろなことを共有できるので、すごく良い場所だなと

誰もが立ち寄れる「未来の駄菓子屋」

大田さん自身も、まわりの人たちに支えられて店を切り盛りしている。

大田笑会・大田恵美さん:
看板を作ってくれる友達もいれば、無料でお米を提供してくれる農家の方、いろいろな方に支えてもらうことしかないです

「大田笑会」は子どもたちにとって特別な場所。大田さんはそんな子どもたちに癒されるという。そして、さらに”その先”を見つめている。目指すのは、子どもも大人も利用できる”新しい駄菓子屋”のあり方だ。

子どもだけでなく、大人も集まる駄菓子屋を目指して
子どもだけでなく、大人も集まる駄菓子屋を目指して

大田笑会・大田恵美さん:
子どもたちの相談もなんですけど、若いお母さんたちの相談、おじいちゃん・おばあちゃんの困っていることも聞けるような、誰でも気軽に入れるお店を目指していきたいです

川尻の町によみがえった駄菓子屋。今の時代だからこそ、その存在意義は大きい。「大田笑会」の名前のとおり、誰もが笑顔になれる…そんな場所になる日も近いかもしれない。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。