福岡県の博多駅で、女性が元恋人にストーカー被害ののち刺殺された事件。ストーカー被害の恐怖とは、そしてそれを防ぐ手立てはあるのか。取材班は、実際に過去にストーカー被害に遭ったことのある人に話を聞くことができた。

“禁止令”出るも防げず…博多女性刺殺事件

鑓水航記者(2023年1月16日):
JR博多駅から約200メートルの場所で事件が起きました。捜査員の姿が確認できます

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2023年1月16日午後6時過ぎ、帰宅時間の博多駅前で起きた事件。会社員の川野美樹さん(当時38)が、男に刃物で胸など十数カ所を刺され死亡した。事件の2日後に逮捕されたのが、川野さんの元交際相手・寺内進容疑者(31)だ。

被害者の元交際相手・寺内進容疑者(31)
被害者の元交際相手・寺内進容疑者(31)

警察の取り調べに、「復縁を求めたが、かなわなかったので刺した」と供述している寺内容疑者。2人は2022年の春ごろに交際を始めたが、2022年10月、川野さんが警察に「寺内容疑者と別れたい」と相談。その後、寺内容疑者のつきまといがエスカレートしたため、警察は2022年11月、寺内容疑者にストーカー規制法に基づく川野さんへのつきまといの禁止命令を出していた。

それでも起きてしまった今回の事件。
ストーカーの恐ろしさは、どれほどのものなのか。

ストーカー被害者が語る…10年たっても続く恐怖

ストーカー被害者・鈴木さん(仮名):
「どこまでも追いかけてやる」。もう10数年たってるけど、今でもその言葉は…。本当にどこまでも追いかけてきてますよね

自身のストーカー被害の恐怖を語るのは、九州に住む鈴木さん(仮名)。鈴木さんは元夫の激しいDV被害を受け、それにより元夫は逮捕。しかしその後、元夫からの執拗なストーカー被害を受けることとなった。

ストーカー被害者・鈴木さん(仮名)
ストーカー被害者・鈴木さん(仮名)

ストーカー被害者・鈴木さん(仮名):
毎日、恐怖心がありました。何か分からないけど、いるんですよ。どうやって調べるのか分からない

元夫の逮捕直後、鈴木さんは2人の子どもを連れて、警察や行政の勧めから、一時的にシェルターへ避難した。シェルターでは衣食住が確保されるが、ストーカーに居場所を悟られないために携帯電話などは使えず、本人もどこにいるのかは分からない状態で、約2週間の避難生活を送った。

ストーカー被害者・鈴木さん(仮名):
2週間のうちに、遠くに逃げる方法を役所の方がとってくれたり、シェルターの弁護士の方がとってくれたりする

なんとか新しい生活の基盤を作ることができた鈴木さんだが、10数年たち再婚した今も、いつ元夫が現れるかと恐怖にさいなまれていると語る。

ストーカー被害者・鈴木さん(仮名):
本当、疲れちゃって。引っ越しも遠くにも行けない。子どもも大きくなって、もういいやってなって、日々、ずっと怖い思いをしながら

“逃げることは難しい”…「通報装置持っていても無理」

今回被害に遭った川野さんは事件直前、寺内容疑者と2人で歩いている姿が防犯カメラにとらえられていたが、被害者の心理状況として、危険を感じていても逃げることは難しいと鈴木さんは語る。

ストーカー被害者・鈴木さん(仮名):
目の前に現れた時は、逃げようがない。どうしていいか分からない。相手の怖さを知っているので、頭の中は何も考えられてない状態なので、歩き続けるしかできない。通報装置を川野さんは持っていたけど、それさえも無理だと思います

事件直前の防犯カメラ映像
事件直前の防犯カメラ映像

「誕生日や記念日は危険」ストーカーの“傾向”

さらに、事件の数日後が川野さんの誕生日だったことについて、鈴木さんは…。

ストーカー被害者・鈴木さん(仮名):
ストーカーたちは、何かイベントごとに近寄る傾向があって。例えば、お祝いした誕生日だったり、付き合った日だったり、子どもの誕生日だったりとか、そういうイベントごとに火が付きやすい、近づきやすいというのが経験者としてあります

絶えることのないストーカー被害について、被害者のカウンセリングの専門家は、一時的な避難だけでなくストーカー側へのアプローチが必要だと話す。

「NPOヒューマニティ」小早川明子理事長:
警察は被害者をよくパトロールしてくれて、様子を見て連絡してくれるが、被害者としては、加害者を見張ってほしいし、加害者の様子も知りたいし、警戒心を持たせてほしい気持ちもあるので、そのへんは議論してほしい

また、早い段階で医療的なアプローチをすることで、行動の抑制につながると続ける。

「NPOヒューマニティ」小早川明子理事長:
禁止命令を受けた人には、心理士や医師の受診をするというところまで命じることができるようになるといい。ごく一部の欲求が理性では止まらない衝動性の強いストーカーに対しては、行動制御能力の疾患があるとみて、精神保健福祉センターとかがもっとしっかり受け入れ態勢を考えて、警察と連携を取ってほしい

なかなか減ることのないストーカーと、それによる被害者。被害者保護の観点だけでなく、ストーカーへのアプローチが今後、問題解決の鍵を握るかもしれない。

凄惨な事件を繰り返さないためのストーカー対策について、さらに議論を深めていく必要がある。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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