スマホの使いすぎで、脳の機能に異常をきたす人が増加しているという指摘が、医師や研究者から相次いでいる。
「脳過労」とも呼ばれ、“認知症の初期症状では”という議論さえある。
これから本番を迎える受験生は、特に注意が必要だ。

あなたも「脳過労」かも?! まずはセルフチェックを

まずは、以下のセルフチェックを試して欲しい。

【脳過労セルフチェック】
• スマホをいつも操作してる
• 常に忙しい
• 物忘れが増えた
• よく眠れない
• 仕事・家事の段取りが悪くなった
• 単純ミスが多くなった
• 意欲・興味がわかない
• イライラして怒りっぽくなった

※3つ以上、当てはまるモノがあれば、「脳過労」の可能性あり。

「脳過労」とは、スマホの使いすぎによって機能低下した状態のこと。
そして、その機能低下は一時的なものではなく、“認知症の初期症状”ではないかと危惧する脳神経外科医もいるほどだ。

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以前、東北大学が「スマホの使用時間が長い子どもの大脳には、発達の遅れが見られる」との研究結果を発表したが、大人の脳にも大きな影響を及ぼしているようだ。

なぜ、スマホも使いすぎると、「脳過労」につながるのか。
スマホを見ていると、小さな画面の中にたくさんの色や光、文字、映像などがあり、一度に大量の視覚情報が飛び込んでくる。
その過剰な刺激に慣れてくると、次にもそうした刺激が欲しくなってくる。
脳は高速でそれらを処理しなければならず、脳内に疲労が蓄積していくことになる。

「脳過労」になると、こんな症状が…実は思い当たることが?

では「脳過労」に陥ると、どういった症状が出るのか。

脳の中で疲れやすいのは「前頭前野」という非常に重要な部分。
ここは「脳の司令塔」とも言われ、記憶・学習・言語・感情を制御して、人の価値判断や意思決定をつかさどる。
その機能が低下することで、以下のような症状が出る。もしかしたら思い当たる症状があるかもしれない。

情報の処理能力が低下するため、「もの覚えが悪くなる」。脳が疲れているので、新しい情報が入りづらくなる。これは、認知症の症状とも似ている。

また、感情コントロールする力が低下して、「ちょっとしたことで怒りが抑えられなくなる」。イライラしたときに、ブレーキをかけるのも前頭前野の働きだからだ。

そのほかにも、ネット広告で見た商品をよく吟味せずに買ってしまうといった「判断力の低下」や、「何をするのも面倒に感じる」ということもあるだろう。

「ながらスマホ」は厳禁!

人間の脳が特に疲れやすいのは、「マルチタスク=複数の作業を同時にしている時。
実は、脳は複数のタスクを同時にこなすことが出来ない。マルチタスクというと、「複数のタスクを同時に進めている」と思いがちだが、実際には同時進行ではなく、脳は一つ一つの作業を細かく分け、高速で切り替えながら処理している。こうした繰り返しは脳にとって大きな負担となる。

「テレビを見ながら、スマホで調べ物」「勉強しながら、SNSでメッセージを送る」「家事をしながら、スマホを見る」など、 “ながら作業”はすべて「マルチタスク」になる。
自分でも他者でも日常的に見かける姿だが、脳の健康面からは、やりすぎは禁物。なるべく「マルチタスク」は避けて、一つ一つの行動に集中するほうが良い。

脳の情報処理には、3つの段階がある。
情報を入れる「インプット」。次に情報の「整理」。そして、「アウトプット」。
しかし、情報の「整理」が行われないと、脳がまるで、情報の「ごみ屋敷」状態になってしまう。

脳の「メンテナンス」する神経回路がある

脳内には、脳のメンテナンスをする「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という、少し変わった神経回路がある。

通常、人の脳は、何か考え事をしているときに活発に活動するものだが、「デフォルト・モード・ネットワーク」は、そうしたときには活動を潜めている。
逆に、無目的で何も考えていない時、言わば脳が“アイドリング”状態のときに、活発に活動する。
そのとき、脳内で何が行われているかと言うと、情報・記憶の整理をしたり、しっかりと休憩して疲労から回復させたりしている。
つまり、「脳過労」からの機能回復のカギが、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」なのだ。

情報が整理されることで、「ゴミ屋敷」から、スッキリとクリアな状態に。それぞれの情報や記憶が結びつきやすくなることで、創造性も高まる。

しかし、仕事でパソコンに向かい、プライベートでも四六時中、スマホを手にするような生活では、DMNが機能する機会が奪われる。そして「脳過労」に陥ってしまう。
そこで、「脳過労」を改善・予防するためには、以下のようなことが効果がある。

・スマホを手放す時間を増やす
…トイレ・浴室・寝室で使わない。食事中や会話中にはスマホを出さない。「ながらスマホ」をしない。

・ぼんやりする時間をつくる
…散歩・ゴルフの素振り等の単調なリズム運動や、皿洗いや拭き掃除等の単純作業

・睡眠を十分にとる
…15分程度の昼寝。椅子で5分ほど目を閉じて深く呼吸するだけでも、DMNの効果あり

最初は“禁断症状”があるかもしれないが、まずはスマホを意識的に手放すことから始めてはどうだろうか。

(小林晶子 医学博士・神経内科専門医)

小林晶子
小林晶子

今後ますます重要性を増す在宅医療を中心に、多くの患者さんの治療に当たっています。
また産業医として、企業で働く方々の健康管理も行っています。
これらの経験を、様々な疾患の解説に生かせればと考えています。
東京女子医科大学卒業。
東京女子医大病院等を経て、在宅医療専門クリニックに勤務。
医学博士。
日本神経学会認定神経内科専門医。
日本医師会認定産業医。