2022年、日本の経済界に大きな影響を与えてきた1人の実業家が亡くなった。「京セラ」創業者の稲盛和夫さん。京セラを一代で世界的な企業に成長させ、KDDIの立ち上げや、日本航空の再建にも携わり、数々の教えを残した。そんな稲盛さんの教えは今も社会に息づいている。

今も生きる“経営の神様”の教え

稲盛さんは1932年、鹿児島生まれ。27歳で、電子部品メーカーの「京都セラミック」、現在の京セラを設立。当時、社員はたったの28人でしたが、大きな夢を持っていた。

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稲盛和夫さん(2007年当時):
今は零細企業だけど、まずは京都一の企業になろう、京都一になったら日本一に、日本一になったら世界一の企業になろう、私はあえて自分の夢を社員たちに語っていきました

その言葉通り、京セラは積極的に海外に進出。徹底的な経営管理と幅広い事業展開で、売り上げを大きく伸ばしていった。

創業からおよそ60年。現在の京セラグループは国内外に展開し、従業員が8万人を超える大企業に成長した。その成長を支えたのが“利他の心”に代表される稲盛さんの教え。「京セラフィロソフィ」と呼ばれ世界中から注目されていて、今も語り継がれている。

稲盛和夫さん:
自分がもうけよう、もうけようと思って計画を立てるのか、それとも周囲の人全てが幸せになるようにと思って事業計画を練るのかによって、事はガラッと違います

稲盛さんから直接受けた“教え”

稲盛さんから教えを受ける場として日本各地につくられた経営塾がある。その名も「盛和塾」。今でも名前を変えて残り、中小企業の経営者が多く学んでいる。

12月21日、東京都内のホテルで開かれた稲盛さんのお別れ会に特別な思いで参加したのは、元塾生の西里長治さん。製塩事業などを展開する「パラダイスプラン」の社長だ。

パラダイスプラン・西里長治社長:
盛和塾と稲盛塾長の教えがなければ、今の私はいないですし、我々の製品も世に出ていくこともなかったかもしれません

西里社長は沖縄土産の定番ちんすこうにも使用されている「宮古島の雪塩」の生みの親だ。経営について、稲盛さんから直接教えを受けていた。

パラダイスプラン・西里長治社長:
恥ずかしいこと色々相談させてもらいましたよ。ものすごく冷静に数字でもって厳しく問い詰めて判断していく経営者としてのすごみ

「工場を増やしたい」と稲盛さんに相談しました。しかし返ってきた答えは、予想外の厳しいものだった。

パラダイスプラン・西里長治社長:
塾長も京セラという製造業ですから、てっきり設備投資しなさいと言われると思ったんですよ。でも違うと。「売るのが先」と言われて、どんな古い設備でも工夫・努力次第でいいものが作れるからそんなものに頼るなと、自分の身の丈に合うものでないと思われたんでしょうね。自分の殻に合った投資をしなさいということだったと、今となっては思っています

稲盛さんのアドバイスは、西里社長も気づいていなかった会社の状況を見抜いたものだった。こうした、類まれなる経営センスを発揮したのが、日本経済史に残る2つの大事業だ。

KDDIの設立にJALの再建

1984年、稲盛さんは当時、一社独占状態だった通信事業に敢えて参入し、現在のKDDIの母体となる「第二電電」を設立。競争を生み電話料金の引き下げを実現した。

さらに2010年、日本航空が多額の負債を抱えて経営破綻した際、政府は稲盛さんに会長への就任を要請。78歳だった稲盛さんは、一度は辞退したものの受け入れた。その理由は、やはり“利他の心”だった。

稲盛和夫さん(2010年当時):
かねて人生生きていく中で最も大事なことは世のため人のために貢献することだと思い実行してきただけに、ついほろっとしまして、お手伝いしましょうかと言ってしまったことがこういうことになった。JALを再建することは日本経済にとっても日本そのものにとっても大変重要だと

航空業界については全くの素人だった稲盛さんは、何度も現場を視察。その際にJALの従業員に激励の言葉を掛ける。

稲盛和夫さん(2010年当時):
どうぞみなさん乗務員の方々、頑張ってください。お客さんを大事にしてください

情やしきたりに流されず役割を全うし、社員の徹底的な意識改革や大幅な人員削減を行った。その結果、再建は不可能とさえ言われた日本航空を、わずか2年8カ月で復活させたのだ。

数々の功績を残し、“経営の神様”と言われた稲盛さん。“利他の心”の根底にあったのはいつも「人として正しい行いかどうか」だったと元塾生の西里社長は話る。

パラダイスプラン・西里長治社長:
経営のノウハウだけではなくて、人としての生きざま、経営者以前の問題、人としてどうあるべきかという、そこは教えられましたし、経営者が人としてあるべき姿を全うして、会社を良くして、日本を良くしてというのを求められていた

人が人としてあるべき姿を追求した90年の人生だった。

稲盛和夫さん(1999年当時):
もうかるかもうからないかではなくて相手にとってそれが良いことか悪いことかを考えてみようと。自分にもいいけれども相手に悪くないなと、喜んでくれると。そのために“利他の心”がいるんです

(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月26日放送)

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