「人生最期の時を、住み慣れた我が家で過ごしたい」、京都の医師が始めた全国初の取り組みが、悔いのない最期を迎えたいと望む患者たちを支えている。

末期がんの75歳女性

日本海が目の前に広がる静かな街、京都府宮津市。ある自宅に看護師が訪問に来た。

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訪問看護師・井上愛さん:
こんにちは、電気付けますよ。点滴は?

西原敏子さん(75):
終わった

この家に一人で暮らす、西原敏子さん75歳。5年前に見つかった直腸がんが、2021年に再発し、末期がんだった。

毎日来てくれる訪問看護師やヘルパーによって痛みを取る治療を受けながら、本人の強い希望で最期の時間を自宅で過ごそうとしている。

敏子さんは、人と話すことが大好きです。若い頃の写真を見せてくれた。

西原敏子さん:
そんな時もあったんやで。元気な時は!ようモテたで

訪問看護師・井上さん:
その頃のお友達が(家に)来てくれているもんな

西原敏子さん:
ええで。うれしいで。思い出したりな。あんなことあったなって、昔話ができるわな

看護師さんと西原さんが会話をしている時、医師が訪問診療に訪れた。

今出陽一朗 医師:
どうも西原さんこんにちは

西原敏子さん:
先生の顔を見たら笑顔になれるわ

宮津市にある今出クリニックの今出陽一朗医師(63)。通院できなくなった患者の訪問診療を積極的に行い、自宅で最期を迎えたいという敏子さんを支えている。

今出陽一朗 医師:
そこそこ温かい?訪問入浴も?(看護師「41度設定で」)…それは良かったで

西原敏子さん:
ほんで具合がええんや

今出陽一朗 医師:
そういう小さい喜びも感じながら西原さんらしく、この生活を続けて行きましょう

全国初の「みとり」制度

敏子さんのように自宅でのみとりを希望する人は少なくない。厚生労働省の5年前の調査では20歳以上の男女のうちおよそ7割が“人生の最期を迎えたい場所”について、自宅と答えた。

さらに新型コロナウイルスの影響で、病院などの施設は面会制限があることも多く、在宅でのみとりを望む人が増える要因となっている。

今出医師は地元の中核病院と協力し、6年前、全国初となる“在宅みとりの際の死亡確認代行制度”を導入した。

自宅で亡くなった場合、かかりつけ医がすぐに駆け付けることができなければ、警察による検視が必要になることもあり、医師や、平穏な最期を望む家族にとって、大きな負担となる。

そこで宮津市、伊根町、与謝野町ではかかりつけ医が出張などで不在の際、在宅で亡くなった患者の死亡確認に北部医療センターの医師が代わりに駆けつけてくれる態勢を整えた。

今出陽一朗 医師:
すごく気が楽になりました。おそらく(生命が)持つだろうと思いながら、でも亡くなってもおかしくないという患者は必ず何人か持っていますから。どこか行くたびにストレスではないんですが、気にはなります。この制度があるといざとなれば自分が帰れなくても、患者さんご家族に不利益を与えない

在宅みとりの環境づくりに力を入れてきた今出医師。かかりつけ医として、治療よりも必要と感じたことがある。

今出陽一朗 医師:
やっぱりいかにその人がその人らしく、少しでも幸せを感じながら最期を迎えるかということだと。それはやっぱり地域医療には非常に大事なことだと思っています

この地域では自宅で最期を迎えた人の割合は、宮津市・伊根町・与謝野町で26.5パーセントで、全国平均(15.7パーセント)を大きく上回っている。(2020年人口動態統計)

「夫のように…最後は自宅で迎えたい」

7年前、前立腺がんを患っていた夫を、自宅でみとった96歳の坂本ふみゑさん。茶碗にご飯をよそって仏壇に持っていく。

坂本ふみゑさん:
おじいちゃんご飯が炊けました、よばれてください

月の半分くらいは帰ってきてくれる長女(70)の手を借りて生活している。

坂本ふみゑさんの長女:
(亡くなったお父さんが)ここでこうやってずっとお菓子食べたり

坂本ふみゑさん:
「ここがいい」とか言って座って、そしたらみんな通る人が手あげてあいさつしたり、機嫌良くしておりましたけど。本人も家がいいって言っていました。自分が一生懸命頑張って建てた家だから、良かったなあと思います。私もそう思います

ふみゑさん自身も糖尿病・高血圧症を患っているが、夫と同じように、在宅みとりを希望し、終末期を過ごす場所や延命治療に対する考えを(書面で)残している。

坂本ふみゑさんの長女:
1年ぐらい前かな?(これを)今出先生にもらったの。本人はここ(家)でいいですって

坂本ふみゑさん:
100歳までも生きたくないっていう希望はあるけど

毎朝、自分で作った温かいおみそ汁を飲んで、昼になったらお気に入りの椅子に座って日に当たり、夫と過ごしたこの家にずっといたいと願っている。

それでも「やっぱり家はうれしい」

11月、宮津では朝晩の冷え込みが激しくなり、西原敏子さんの体調は目に見えて悪くなっていた。

訪問看護師・井上さん:
何て?しんどい?寝れてえらい?夜は寝れた?

その時、電話が鳴りました。香川県に住む弟からの電話です。唯一の親族で、毎日のように電話をかけてきて敏子さんのことを案じている。

西原敏子さん:
大丈夫やない。もういいわ、息したくないわ。もうこの頃晩になったらそんなことばっかり考えとるわ。22日に来てくれるん?うれしいな。ほんなら楽しみにしとるわ。ごめんよ、迷惑ばかりかけて

訪問看護師・井上さん:
電話かけてきてくれはったやん、心配して。(カレンダーに)赤字で書いとくわ、楽しみやもんね

西原敏子さん:
家と一緒や、嬉しいわ。やっぱり家というところはうれしいでな。自分の育った所やで

人生の終え方を選べる幸せ

 しかし、その4日後…

訪問看護師・井上さん:
訪問看護ステーションの井上と申します。私が朝、訪問した時に息を引き取られている状況でしたので

予定よりも1週間早く、弟夫婦は香川から敏子さんの元に来ることなってしまった。

今出陽一朗 医師:
ご苦労様

かかりつけ医の今出医師も最後の訪問診療に訪れた。

今出陽一朗 医師:
西原さんにとってはこの形が良かったと思います

西原敏子さんの義妹:
みんなが来てくれるって言っていたので

今出陽一朗 医師:
本当にそうだと思います

西原敏子さんの義妹:
ありがとうございました

がんになった5年前からずっと付き添ってくれた井上看護師が、「よう頑張ったね」と声を掛けながら、お別れの身支度を整える。

2週間後に76歳の誕生日を迎えるはずだった敏子さん。一足早く井上看護師たちに誕生日会を開いてもらった。

(井上看護師の撮影した映像より)
♪ハッピバースデートゥーユー ハッピバースデーディア敏子さん ハッピバースデートゥーユー♪ おめでとう!

訪問看護師・井上愛さん:
やっぱりその人の希望をかなえた最期まで迎えられるっていうのが、すごいこの仕事していて良かったなって思うところなので

今出陽一朗 医師:
みんなと楽しくしゃべりながら、本人らしい最期の生きざまだったと思っています

たくさんの人に囲まれて最期まで過ごすことができた。自分で人生の終え方を決められるのは、とても幸せなことなのかもしれない。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月20日放送)

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