先発薬の特許が切れた後に、他社が同じ有効成分で安価に製造する「ジェネリック医薬品」。品質や効き目はほぼ同じとされていて、現在処方される薬の約8割を占めている。しかし、ここ2年近く、その供給が不安定になっているという。影響や原因を取材した。

困惑する医療現場

気温が一段と下がりはじめた11月下旬。大阪市内の耳鼻科のクリニックには、多くの患者が診察に訪れていた。

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泉川クリニック 泉川雅彦院長:
お薬は追加を出しておきますけど、ジェネリック薬がなかなか不足しているので、先発品になりますので

患者:
分かりました

(Q:ジェネリック薬不足の影響は?)
泉川クリニック 泉川雅彦院長:
こっちの希望した薬をなかなか出せないというところが、大きな困ったところかな。薬の種類はたくさんありますけど、その中でも一番患者さんに合うものを出したい。でもその時にジェネリック薬が不足していると、治療としても困るし、患者さんにとっても困るのが問題かと思います

長らく続いているジェネリック医薬品の不足。処方薬を提供する調剤薬局でも、厳しい在庫状況が続いている。

阪神調剤薬局 管理薬剤師 河原育美さん:
毎日発注しているんですけど、発注した後に「出荷調整で納品が遅れます」と随時来ている状態ではあります

(Q:どういう薬が不足?)
阪神調剤薬局 管理薬剤師 河原育美さん:
解熱鎮痛剤とか、せき止め、たん切りとか、風邪薬が全然入ってこない状態です

ジェネリック薬が不足することで、もともと供給が少ない先発薬の需要も高まり、薬全体の在庫が少なくなっているのだ。

阪神調剤薬局 管理薬剤師 河原育美さん:
一番困っているのはカロナール錠で、もうまったく在庫がなくて…解熱鎮痛剤の薬なので、熱があるときとか、喉が痛い患者さんによく処方されるんですけど。お子さんとかもカロナールばかりなので、(先発薬の)メジコン、全くもうなくて。1人分も出せなくて、発注かけても「入らないです」って言われてまして

(Q:薬全体的に不足?)
阪神調剤薬局 管理薬剤師 河原育美さん:
ジェネリック薬がなくなると先発薬の方に発注がいって、結局全部なくなる

医薬品不足の原因は

ことの発端は2020年、福井県のジェネリック薬メーカー「小林化工」で発覚した製造違反の問題だった。

国の承認を受けた手順書通りに作らず、水虫薬に睡眠導入剤が混入し、全国で健康被害が生じた。

これを受けて各都道府県が査察を強化し、メーカーも自主点検を行った結果、大手の「日医工」など複数のメーカーでも違反が発覚。2022年11月までに、11社に対して業務停止命令が出され、さまざまな種類の薬が出荷できなくなった。
そのため、他のジェネリック薬メーカーに注文が殺到する事態になっているのだ。

業界大手の沢井製薬も、この事態に直面している。兵庫・三田市の工場ではスタッフの休日を返上して対応しているが、それでも生産が追いつかない。

沢井製薬 生産本部長 木村元彦取締役:
われわれにそこまで余力がない。生産ぎりぎりのところでつくってましたので、(他社の製造分を)カバーするというところまではいっていなくて。「ある品目がたくさん出たのですぐにつくってください」といっても、別につくるものを決めているので、そこの生産調整って非常に難しいんです

新薬メーカーと違い、ジェネリック薬の業界では、一つの企業が多くの品目を少しずつ生産するのが特徴だ。

沢井製薬でも通常800品目の薬を手掛けているが、他社でつくれなくなった分の受注が増えたことで、200品目以上が供給できていない。

さらに2022年に入り、ウクライナ危機による原油の高騰や円安の影響も、生産現場に暗い影を落としている。

沢井製薬 生産本部長 木村元彦取締役:
電力・ガスの単価が1.5倍に上がっている、経費が上がってきている。あと、為替の影響、原材料、海外からも入れているのでその影響も出てきていて。原材料の高騰の直撃を受けています

12月に発表された業界団体の調査結果によると、今もなお十分に供給できていないジェネリック薬の数は、全体の4割にも及ぶことが分かった。

長引く薬不足のしわ寄せを受けるのは、患者だ。

薬剤師:
今回処方いただいている薬、こちら全国的に供給が滞っておりまして、先発品のムコダインというお薬でお渡しさせていただいてもよろしいですか? 申し訳ございません

慢性的な鼻炎に悩むという男性は、いつも服用する薬が薬局になく、今回初めて先発薬に切り替えることになった。

男性:
いつも使っていない薬なので、ちょっと心配はあるんですけど。(Q:希望はジェネリック薬?)もちろんです。高くなるというのは、ちょっとお財布事情的に苦しいです

今回先発薬に変えることで、ジェネリック薬の安さの恩恵は受けられなくなった。

男性:
(いつもと比べて)300円か400円くらい違うと思います。上がったな…ちょっと節約しようかな。あんまり病院来ないようにしないといけないなと

必要な人に必要な薬が届く。そんな当たり前の日常が戻るのは、いつになるのか。

供給不足の背景は

ジェネリック薬の供給不足が続いている。2021年に出荷停止・限定出荷だったのはジェネリック薬で約3割、医薬品全体で約2割だったが、2022年はジェネリック薬で約4割、医薬品全体で約3割と悪化した。

供給不足となっている薬は、かぜ薬・解熱鎮痛剤、高血圧・狭心症、アレルギーの薬など多岐にわたる。取材をした薬局では、「抗がんの薬以外ほぼ全ての供給が不安定」ということだった。

神奈川県立保健福祉大学・大学院の坂巻弘之教授は、供給不足がここまで長引いている理由は2つあると指摘する。

1つめは「常にキャパオーバー」だということ。ジェネリック薬業界は“少量多品種”を製造するため、工場を常に稼働させている。簡単に製造量を増やすことはできないのだ。

2つめは「“不正”の影響がまだ続いている」こと。問題の発端は製薬会社の不正だったが、不正をした会社は新たに手順書をつくり、規制当局の新たな承認を受ける必要がある。それに約2年かかるといわれている。
11月にも別の製薬会社に業務停止命令が出されているため、あと2年は供給不足が続く恐れがあるそうだ。

この問題の背景には、ジェネリック医薬品業界そのものに「無理が生じている」ことがあるとみられている。
例えば、薬の価格は製薬会社ではなく国が定めている。これは毎年下げられるため、会社は上がる材料費と下がる薬価の間で、コスト削減を図る必要がある。多くの会社は技術力を上げて対応しますが、一部、不正に走る会社も出てしまっているのが現状だ。

今後2年続く恐れのある薬不足について薬局で聞いたところ、「焦らず、代替薬があるかないか、まずは医師・薬剤師に相談してください」とのことだった。供給は不安定ですが完全にゼロになることはないため、多めにもらうなど買い占めに近い行為は、できるだけ控えてほしいということだ。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月22日放送 記者:加藤さゆり)

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