障がいのある子どもを持つ親の悩み。
それは「自分が年を取って亡くなった後、誰が子どもを見守ってくれるのか」ということ。
抗う事のできない“老い”という「現実」に直面し、将来に不安を抱えながら子どもと向き合う家族を取材した。
40年間娘中心の生活
重度の身体障がいがあり、歩くことができない中山和華さん(40)。
この記事の画像(23枚)その和華さんの生活を支えるのが母、智子さん(70)だ。
和華さんの発育が遅いことを心配した智子さんが病院に連れて行き、和華さんに身体障がいがあること、加えて、重度の知的障がいもあることが判明した。和華さんは、生活のほぼ全てに介助が必要だ。
智子さんは、和華さんが生まれて40年間、お風呂もトイレもいつも一緒。娘中心の生活を送っている。
母・中山智子さん:
中学生くらいになったらほとんどの人は親の手を離れるけど、40年間ずっと4、5歳くらいの子どもの世話をしているのと変わらないですね
高齢の智子さんにとって、介助生活は体力的にも大変。それでも大切な娘への愛は変わらない。
母・中山智子さん:
ひょうきんなんです。今日は取材に緊張しているからか、ひょうきんさは出ていないけど、ひょうきんなところがかわいい
そう言って愛娘を見つめる智子さんはとても温かい表情だった。
父・中山秀紀さん:
カメラで顔は撮らないで。恥ずかしい
カメラを避けるのは、恥ずかしがり屋の父・秀紀さん(72)。秀紀さんも、和華さんと向き合ってここまで育ててきた。
「おとうさんおかあさん げんきでがんばってね わか」
和華さんの感謝の気持ちが詰まった手紙を両親は今も大切に飾っている。
娘の成長のために試行錯誤
父・中山秀紀さん:
娘は、最初は声も出せない状態だったんです。病院でレントゲンを撮ったときに「これは治らない。成長は難しい」と聞いて…。ショックでしたね。娘の指を自分の口の中に入れて舌を動かしながら舌で発音するというのを何度も何度もやって言葉を覚えさせました
娘・中山和華さん:
腰痛いな…おばあちゃんみたい
そう言って母にマッサージをしてもらう和華さん。
医師から声を出すのは不可能だと言われた和華さんが自分の気持ちをしっかりと言葉にできるようになったのも、両親と楽しく会話ができるようになったのも、家族の懸命な努力が実を結んだ確かな証だ。
和華さんが40歳になった今も、和華さんの成長のために両親は努力を続けている。家には子ども用のパズルがたくさん。父・秀紀さんが買ってきたものだ。
父・中山秀紀さん:
ピースをはめるのが知的訓練にもなると思って。私たちなりに何か娘を成長させる方法を今も試行錯誤しています。この年になって、支えるのは大変ですがやれることはあるだろうと…
老いていくという「現実」
子どもの頃から変わらぬ愛情を持って和華さんと暮らしている両親が今抱えているもの…。
それは自分たちが確実に老いていくという「現実」だ。
70歳の智子さんは、和華さんを介助できる体を維持するためヨガで体を鍛えている。
母・中山智子さん:
いざというときには娘が倒れかけたのを止められるように腕や足の力をつけて維持していきたいと思ってヨガを始めました
しかし、いつまでも両親が和華さんを支え続けるわけにもいかない。両親が亡くなった後、和華さんは施設で暮らすことになる。いつか訪れるその日のために一人で生きていく準備が必要だ。
この日は和華さんが施設に泊まる日。
母・中山智子さん:
施設にはいろんな職員の方がいるので、もしかしたら自分と相性の悪い介護の方に当たって嫌だなと娘が思うこともあるかもしれません。でも、そういったことも私たちが亡くなったら本人なりに乗り越えていかないといけないので…
いつか一人で生きていくことになる和華さんのため…。側にいたい、手を差し伸べたいという思いをグッと抑える。
「よそで泊まることに慣れてほしい。本人にとって親亡き後生活しやすい場所ができるのがいい」と母、智子さんは語るが…
夜になって寂しくなってしまったのか、施設の職員に抱きつく和華さんの目から大粒の涙がこぼれていた。
「親と離れる」ということ。和華さんは、まだ受け入れることができない…
“社会の側” から寄り添って
これからの和華さんの人生に不安が募る智子さんは苦しい現状を知ってもらうため、東広島市で講演会を企画することにした。講演会に訪れたのは智子さんと同じように障がいのある子を持ち、その将来に不安を抱いている高齢の親たち。
60代女性:
うちにも障がいのある娘がいて44歳になるのですが、親も高齢なので先行きが心配で…。参考にさせてもらいたいと思って来ました
同じ立場の親の気持ちが痛いほど分かる智子さん。講演会を成功させるため、会場を走り回り準備を進める。「この苦しみを社会にもわかって欲しい」その気持ちが智子さんを動かす。
この日、重度の心身障がいがある子どもを持つ日本ケアラー連盟・児玉真美代表理事が演壇に立った。
日本ケアラー連盟・児玉真美代表理事:
安心して我が子を託して死んでいける社会があるとしたら親も家族もいきいきと生きられる、懐の深い社会のことだろうと思います。親の多くがもうこれ以上できないという悲鳴を自分で押し殺し続けて生きてきたということでもあります。その封印を社会の側から解きにきてくださいよという風に思います
親たちの心の叫び。会場には涙を流す参加者も…。智子さんも真剣なまなざしで話を聞いていた。
参加者からはこんな声も…
参加者:
私の夢は言ってはいけないけどあの子のいない世界に行きたいことだった。私だけだと思ったらこんなこと言っていいんだと思って・・・本当に来てよかったと思っています
智子さんが開いた講演会は多くの親たちにとって支えあうためのキッカケになったのかもしれない。
母・中山智子さん:
障がい者の親という立場だけで生きてきたのが、障がい者の親だけど、それだけじゃないよと声があがったのはすごく嬉しいですね
子どもを心配する親の気持ちに変わりはない。
障がい者だけでなく障がいがある子どもと暮らす高齢の親を支えるために社会はどう向き合っていけばいいのだろうか…
(テレビ新広島)