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今回は救急医学の名医、国際医療福祉大学の志賀隆(しが・たかし)医師が、年末年始飲み過ぎに注意が必要な「急性アルコール中毒」について徹底解説。

実はお店で飲むより“家飲み”の方が危険?窒息など命の危険や脳に後遺症が残ることも。二日酔いの防ぎ方や酔い潰れた人の対処法についても解説する。

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急性アルコール中毒とは

急性アルコール中毒は、お酒を飲むことによって、特に短時間にたくさんの量を飲みすぎてしまうことによって、意識が低下してしまったり呼吸が弱くなってしまったりという症状が出て、場合によっては生命の危険性が訪れるということです。

ほとんどの場合はそこまで行かないんですが急に飲み過ぎてしまうと危ないということですね。

アルコール依存症との違い

アルコール依存症は、アルコールをほぼ毎日、複数飲んでいないと、社会生活がお酒抜きでは維持できないという形になってしまった人です。

依存症の人も急性アルコール中毒になるし、依存症じゃない人も急性アルコール中毒になりうるというところが違いではないでしょうか。

急性アルコール中毒の4段階の症状

急性アルコール中毒は、濃度によって症状が出ます。基本的には4つの段階があると思ってください。

1つ目はほろ酔いです。この場合には、血中濃度が0.01%~0.08%ぐらいです。ちょっと注意が散漫になってしまって、当たるべきものでないものに当たってしまったり、歩行が少しだけたどたどしくなるような状態です。

2番目は、ふらついたりとか、物を落としてしまうような状態です。そういう時は血中濃度が0.08%~0.20%になってきます。酔い始めてきたな~と形がはっきりしてきて、歩行も、より失調があってゆらゆらしてしまう、安定感がないという感じになってきます。

3番目に、危険で吐き気とかも出てきてしまって、だんだん濃度も高くなってるなとはっきりしてくるところです。この場合は0.20%~0.30%くらいの濃度です。

話もなかなかうまくいかず、何度も同じことを繰り返してしまうような状態です。こうなってくると、もうお酒はストップ、ということになります。

最後の4番目の段階です。この段階にいってしまうと、もう亡くなる心配すら考えるような、血中濃度0.30%以上になってきます。意識が全然で、呼びかけにも反応しないし、呼吸も全く怪しくなってきてしまう。

この状態になったら、必ず救急車を呼んで病院に行かれた方がいいと思います。

急性アルコール中毒の原因

急性アルコール中毒の原因は、体の中に入ってしまったお酒、アルコールを肝臓が分解する速度が追いつかないということです。そうすると、体の中のアルコール濃度がどんどん上がっていってしまう。それによって、呼吸や意識が弱くなっていってしまうことになります。

アルコールの分解は、「アルコール脱水素酵素」という酵素によって行われています。これに関しては、やはり生まれ持ったものがあります。

ただ、お父さんとお母さんがアルコールに強いからといって、必ずしもご本人が強いかわからないところもあります。

気になる方は検査がありますので、酵素がどれくらいあるか、お酒を飲む前に測ってみてもいいんじゃないかなと思います。

とにかく、分解する肝臓の機能に限界があるので、時間がかからないと無理なんですね。ですので、たくさん飲まないということが大事になってきます。

急性アルコール中毒が身体に与える影響

軽度の、体にもたらされる影響というのは、基本的にはふらつき・めまい・気持ち悪さ・胃腸の不快感、というようなものです。ただ濃度が高くなければ、これは酔いが冷めることによってほとんどなくなってしまいます。

窒息したり、呼吸が止まる、そのような非常に重症な状態になった方は、脳に後遺症が起こってしまうことがあります

そのようになってしまうと、なかなか言葉が出てこないとか、記憶がきちんと保持されない、注意がうまく維持できない、そのような脳の機能障害が起きることがあります。

急性アルコール中毒にならないためには

急性アルコール中毒にならないためには、お酒をゆっくり飲むことが大事です。なぜなら肝臓は、一時期に分解できる量に限りがあるからです。

短い時間にたくさん飲んでしまうと、どんどん体のアルコール濃度が上がってしまいます。これが急性アルコール中毒の原因となってくるのです。

お酒を飲むとおしっこに行ったりします。これによって脱水になることもあるでしょう。ですので、アルコールとアルコールの間にお水を飲んでみましょう

飲み過ぎの基準とは

お酒の種類によらず、1杯に含まれるアルコールの量は決まっています。だいたい15~18mlの純エタノールです。

アメリカの基準では、1回の飲んでいる時に、男性だと5杯を超えるのは良くない。女性だと4杯超えるのが良くない、というふうに言われています。

これを超えるスピードだと危険です。それは先述の通り、どんどん血中濃度が上がってしまうからです。

例えばビール350mlとワイン150mlというのは、量が違っても濃度が違う。計算すると、やっぱり15~18mlのアルコール、ということになってくるわけです。

これで気をつけるべきなのはお店で飲んでれば割と大丈夫なんです。

家飲みは危険です。なぜなら、濃度と量の計算がなくアルコールが入ってきてしまうからです。

二日酔いにならないためには

二日酔い予防には3つの柱があります。

1つ目の柱は、睡眠をしっかりとる。

よく、アルコールを飲むといびきをかきます。そしてアルコール自体で、睡眠の質が下がります。そのため、普段より多めに寝ることが大事です。

2つ目は、朝食を取ることです。

アルコールの分解にはエネルギーが必要です。

特に炭水化物が必要になってきます。低血糖を防がないといけないし、アルコールの分解にエネルギーを使うので、朝食をしっかりとることが大事です。

3つ目ですが、過去に研究があります。抗炎症薬、痛み止めや頭痛薬などを飲むことによって、二日酔いの頭痛が良くなる、気分不快が良くなることが研究されています。

ですので、市販の痛み止めなどを使っていただくといいと思います。

急性アルコール中毒の人を見かけたら

まずは、その人にもうお酒を飲ませないことが大事です。みんなが気づいてあげる。

次に、一人にさせないということです。理由の1つ目は、窒息の危険性です。吐いてしまって窒息して息が止まってしまうとまずい。もう1つは、ケガです。やっぱり一人だとケガをしてしまうことがありますし、冬ですと一人で外に行って低体温になってしまい、これも非常に危険です。

なので、一人にしない。

次に、本当に動かなくなってしまった時は、「回復体位」という体位をとります。スマホなどでインターネットで調べるとありますが、片側を下にして寝てもらって、ちょっと顔を横にするような、回復体位をとることが大事です。

全く運べないような状態で、もう反応もない場合は、救急車を呼んだ方がいいです。遅れれば遅れるほどまずいので、その場合は救急車を呼びましょう。

名医のいる相談室
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志賀 隆
志賀 隆

2001年 千葉大学医学部医学科卒業。東京医療センター初期研修医 、沖米国海軍病院,浦添総合病院救急部を経て、2006年 米国ミネソタ州メイヨー・クリニック 研修 、2009年 ハーバード大学マサチューセッツ総合病院指導医 。2011年より東京ベイ浦安市川医療センター救急科部長 2017年7月より現職。 学生時代より総合診療・救急を志し、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。後進の育成にも力を注ぐ。「手技の上達は才能よりも戦略的努力(1回1回学んで行く姿勢)が最も大事。」
著書:『必勝!気道管理術 ABCははずさない』(学研メディカル秀潤社)『医師人生は初期研修で決まる! って、知ってた?』(メディカルサイエンス社)ほか