全日本フィギュアスケート選手権が12月22日(木)から大阪府門真市の東和薬品RACTABドームで開催される。

さまざまな思いや目標を抱えて全日本選手権に挑む選手たち。

その全日本で雪辱を果たすと誓うのは、三原舞依(23)だ。昨シーズン、北京五輪代表を逃した悔しさを胸に今シーズン、GPファイナル優勝まで辿り着いた。

今年の近畿選手権に出場した三原
今年の近畿選手権に出場した三原
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2016年に出場した全日本で初めて表彰台にのぼり、“シンデレラガール”となった同じ大阪の地で狙う全日本の表彰台。

涙をのんで、自身を磨き続けてきた今シーズン。三原は再び自身に魔法をかけられるのか。

“呪縛”を解き放ったGPシリーズ優勝とファイナル出場

過去出場したGPシリーズでは、4位という結果が多く、毎回悔しい思いをしてきた三原。

今シーズンは、その“呪縛”を自らの演技で解き、GPシリーズイギリス大会、フィンランド大会で2連勝と好スタート。

GPファイナルのメダルを掲げる三原舞依
GPファイナルのメダルを掲げる三原舞依

そして、初めてファイナル進出を叶えた三原は、ミスを最小限にとどめ、日本女子4年ぶり、史上4人目の女王に輝いた。

優勝直後や日本に帰国しても、なかなか実感が湧かなかったというが、家族や友人からの祝福で、嬉しさがこみ上げてきたという。

ひとつ壁を乗り越えた、今、三原はどんなことを思ったのか。

「ここまでいろんなことがあって。すぐに思いつくのはつらいことの方が多いですけど、でも、心折れずにここまでやってこれたのは、たくさんの方々のサポートのおかげなので、私が今ここにいられるのが、たくさんの方々のおかげなので、それだけで生きているという感じかなと思います」

GPシリーズを終えた後の12月中旬に取材に応じてくれた三原舞依
GPシリーズを終えた後の12月中旬に取材に応じてくれた三原舞依

――心が折れそうなこと、あったんですね。

折れかけたら、たくさんの方々のサポートのおかげで折れずにグッてなっているのかなって、思います。

――“すぐに思いつくのはつらいこと”というのは。

やっぱり2回オリンピックを目指していて、補欠になってしまったというのが一番悔しい部分で、2回あったので。プラス、GPシリーズでずっと4位だったりとか、全日本でなかなか表彰台に上がれなかったりとか、ほんとにいろんなことがあって…。

“スケートができるという喜び”がすごく大きいですけど、それ以上の悔しさとか、悲しいことが多かったので。「まだまだレベルアップして強くならないといけない」とずっと思っていて、今もまだその段階だと思うので、もっと上を目指して頑張りたいなと思っています。

思い出すのもつらい去年の全日本

北京五輪代表をかけた、去年の全日本選手権。

ショートは、ガッツポーズが飛び出す会心の演技を見せた三原。3位とわずか0.61点差の5位でフリーを迎えた。しかし、その演技終盤。

2021年の全日本選手権
2021年の全日本選手権

得点源の3連続ジャンプの1本目がシングルアクセルになるという思わぬミスをしてしまい、最終順位は4位。

惜しくも表彰台に届かず、五輪代表として彼女の名前が呼ばれることはなかった。

五輪代表を逃したことに落ち込みながらも三原は涙を見せなかった
五輪代表を逃したことに落ち込みながらも三原は涙を見せなかった

中野園子コーチから「泣かないだけ偉い」と頭をなでられた三原は気丈に振る舞い、栄光をつかんだ選手たちの笑顔が輝く会見が行われている中、ひとり静かに会場を後にした。

当時から現在に至るまで、三原はこう振り返る。

「まだ1年しか経っていないのかというくらいすごく長くて。去年の年末から今年1年はすごくいろいろなことがあった。思い出すだけでも結構つらいので、その時の悔しい思いというのを持ち続けて、(今年は)フリーの最後まで頑張り切りたいなと思っています」

――去年のことは忘れられない?

“忘れない”ですね。今回のもうすぐある年末年始はもうちょっと笑って過ごしたいなと思って、この1年間でいっぱい練習してきたことを、全部出し切れたら。

今年こそ笑顔で年末年始を過ごすために、三原はこの1年間練習を積み重ねてきた。

練習を積み重ねられる喜び

去年の全日本を終え、年が明けた今年1月。三原はエストニア・タリンの地で再スタートを切った。

まだ失意の中にいた三原だったが、自分に打ち克ち四大陸選手権で優勝。次のシーズンに向けて、新たな一歩を踏み出した。

さらに5月には、スケート短期留学を決断。「もっと強くなりたい」とコーチ不在の中、たった1人でカナダ・トロントへと旅立った。

ホテルなど自ら手配して一人、カナダへ短期留学を決意
ホテルなど自ら手配して一人、カナダへ短期留学を決意

飛行機やホテルの手配も自らで行い、移動も電車とバスを乗り継いでリンクへ。

かつて、羽生結弦も在籍した名門・クリケットクラブで、スケーティングをさらに磨き、新たなジャンプへの挑戦も行った。密度の濃い練習をこなした20日間だった。

ブライアン・オーサーコーチらから指導を受けた
ブライアン・オーサーコーチらから指導を受けた

「日本代表になるために必要な実力をつけていけるように、何事も練習が大切だと思うので。本番の“心の強さ”を練習で培っていけたら。

クリケットの先生から『Be StrongでいてBe Happy』と言っていただいたので、しっかり強くあって、その先に笑顔が待っていたら良いなと思います」

2015年には、若年性特発性関節炎という難病を患い、2019-20シーズンは体調不良で全休。

体調との戦いも続いていた三原にとって、こうして練習を積み重ねられることは何よりの喜びだった。

体調と戦いながらも三原は常に「練習」を大事にする
体調と戦いながらも三原は常に「練習」を大事にする

「(氷上練習は)去年よりは増えていて、(休養から)復帰してから段々増えていっている感じなんですけど、今までは練習場に行っても滑れなくて帰ったりとかが多かったので。最近は来て、ちゃんと氷の上に立って、痛いところがあっても最後まで滑り切って帰ることができるようになっていて。

動くときは追い込んで追い込んで滑っているんですけど、その回数が段々増えてきているのもすごくうれしい。コンディションの良い悪いは置いておいて、その日にできる全力のことをやって。もちろん体の状態が良い時はそれ以上に自分の思っている以上のものを出し切って、すごい疲労が溜まったりして『頑張ったなぁ』って思えた日がすごく多かったかなと思う」

充実した練習を積み重ねてきた三原
充実した練習を積み重ねてきた三原

「いつも中野先生から試合に行く直前に『今まで頑張ってきたんだから』って、声をかけてもらって。すごく(練習が)充実してきたんだなと思いながら滑ることができるので、その積み重ねというのが1年分貯まったと思うので、それを出し切れたら」

昨シーズンよりも、充実した練習でいよいよ迎える全日本選手権。

三原が目指すのは世界選手権の代表

今年はGPファイナル女王として挑む全日本だが、最後に“過密日程”という試練が、三原を待ち受ける。

今シーズン、三原は10月下旬の西日本選手権を皮切りに、GPシリーズ2戦、さらにはファイナルと、2週間に1回のペースで試合をこなしてきた。

ファイナルから中1週で迎える全日本は5連戦目となる。立て続けに出場した試合は想像以上に大変だったという。

「ファイナルの前にすごいつらくて、『行けるかな?』ってすごい大変だったんですけど、なんとか行ったらなんとか滑りきって踏ん張りきったので、全日本もその調子で踏ん張りきって、どんな状況でもこうして滑ることができているので、最後まであきらめずに。コンディションを整えて、いつも通りできたらいいなと思っています」

練習前に坂本花織と談笑する三原
練習前に坂本花織と談笑する三原

そんな姿に中野コーチも「体力がないなりに試合も全部出てきましたので、夏の地方大会も近畿も西日本も全部ちゃんと出場してのファイナル優勝だったので。体力がついてきたんだなと。いつも落ち込んでもちゃんと自分で這い上がってくるので、強いなと思います」と、目を細める。

いろいろなことを乗り越え、目指すはただ一つ。世界選手権だ。

三原は2017年に一度、世界選手権へ出場したものの、それ以降なかなか手が届いていない舞台だ。

「世界選手権の舞台に立ちたい。全日本でショート、フリー両方とも良い演技をしてこそだと思うので、まだまだ演技に対する悔しさも残っていて、イギリス大会、フィンランド大会、ファイナル、それぞれの課題を全部フォーカスして高めたショート、フリーができたら。自分のできる一番良いものを、自信を持って滑ることができたらと思います」

三原が目指すのは全日本のその先、世界選手権だ
三原が目指すのは全日本のその先、世界選手権だ

――いろいろなものを爆発させる全日本になりそうですね。

爆発させたい気持ちもあるんですけど、でもやっぱり1番はこうしてスケートができていて、たくさんの方々の応援やサポートのおかげで、こうして毎日滑れているので。

その感謝を全身で表現できたらいいなと思っていて。今年も全日本に出られる事はすごくうれしいし、年末年始を笑顔で過ごしたいので、自分のできる一番良いものを、自信を持って滑れたら。

――スケート短期留学の際に言っていた「Be Strong,Be Happy」。今、その気持ちでいられていますか?

5月からもう7カ月ぐらい経っていてすごく驚き。Be Strongでちょっとは強くなっていて、Be Happyがやっとファイナルの金メダル獲れたことにすごくつながっているのかなとすごく思っていて。まだまだBe Strongで強くなっていきたいので、まだまだBe Happyも待っていてほしいなって思っています。

カメラを見つけるとピースをしてくれた三原
カメラを見つけるとピースをしてくれた三原

今シーズン、日本のフィギュア界は新たな時代「シン・フィギュア」が幕開けした。

三原にとっての「シン」を聞くと、「今シーズンのショートもフリーも今までとは違って。ショート(『戦場のメリークリスマス』)は自分の今までの人生を込めたもので、フリーの『恋は魔術師』はすごく真っ赤なバラが似合う女性を表現しているので、新たなチャレンジをしている。心の“芯”をしっかり持った、浅田真央ちゃんの“真”をとって、“真のスケーター”になって滑れたら良いかな」と話す。

さらに、ジュニア勢の台頭にも注目が集まるが、「若い子が持っていないような経験もしてきていると思うので、その経験も含めて深いスケートをしたい。“深い”の“深”もシンって読むので」と笑顔を見せた。

挫折を力に変え、何度も試練にも立ち向かうGPファイナル女王・三原。6年ぶりの世界選手権代表へ、支えてくれたすべての人への感謝の思いを込めた演技で、恩返しを誓う。

全日本フィギュアスケート選手権2022
フジテレビ系列で12月22日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)

https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/

全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班