「換気」というと、ただ窓や扉を開ければいいんでしょ?と考える人もいるかもしれない。しかし、効果的な換気や掃除には守るべきポイントや注意点があるのをご存じだろうか。

本格的な冬を迎える今こそ、換気と掃除の基本を見直したい。

国内外の医療施設や清掃会社で指導を行う株式会社プラナ代表取締役社長の松本忠男さんに話を聞いた。

効果的な換気には「入口」と「出口」が必須

コロナ禍に入って3度目の冬を迎えた。感染症対策が日常になり、「換気」も当たり前になりつつある。

換気は、風の流れを作ることによって室内の汚染された空気と外気を入れ替える作業だ。

効率的に換気するために、必ず行いたいことは「空気の『入口』と『出口』を作ることです」と松本さん。

室内の2カ所の窓を開けることが「換気」の基本
室内の2カ所の窓を開けることが「換気」の基本
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室内の2カ所の窓を開ければ、入口と出口になる。1カ所は外気を取り入れる入口として、もう1カ所は室内の空気を押し出す出口として機能させる。

これが換気においてまず守りたい基本のキ、だ。

とはいえ、一人暮らしのワンルームマンションなど通気口としての窓が1カ所しかない場合もあるだろう。

換気のためとはいえ玄関の扉をしばらく開けておくのも、はばかられるはずだ。そうした時は「キッチンの換気扇を利用しましょう」と松本さんは言う。

換気時はキッチンの換気扇も使ってみよう(画像:イメージ)
換気時はキッチンの換気扇も使ってみよう(画像:イメージ)

「どの家にも、何カ所かに換気扇が付いているでしょう。中でも特にパワーが強いのはキッチンです。換気扇はファンを回して空気を引っ張る仕組みなので、そこを回せば必ず空気の出口になる。換気扇を回しながら、もう1カ所の窓をあけて空気の入口を作れば十分に効率的な換気ができます」

キッチンの換気扇の威力は強大だ。ワンルームマンションに限らず、どの家庭においても換気の際に利用するとより効率的に換気できるという。

通気口の数が3つ、4つと増えるほど、室内の空気がクロスして出入りが激しくなるため効果が上がる。

ちなみに24時間換気システムが付いている住居に住む家庭は、スイッチを切らないよう注意してほしい、と松本さん。

特にマンションの部屋は気密性が高く、空気がこもりやすいため感染症対策やアレルギー対策の観点からも大事だという。

空気の入口と出口を確保した上で、換気において知っておきたいポイントが2つある。

1つ目が「風下に立たないこと」。

風下に立つと汚染物質を吸いやすい

「屋外でバーベキューをすると風下に煙が流れます。けむたいですから、風下には行きませんよね。これと同じ現象が換気でも起こっていると考えてください」

注意したいのは換気の際、風下に立たないこと
注意したいのは換気の際、風下に立たないこと

窓を開けて室内に空気の流れを作ると、入口の通気口は風上となり、出口は風下となる。その風には「汚染物質、例えばダニのフンやカビの胞子、ほこりなども乗っています」と指摘する。

「つまり風下に立つと、汚染物質を吸いやすくなってしまいます」

ただし汚染物質は煙と違って目に見えないため、どこが風上か風下かを判断できない場合もあるだろう。

その時は、細いビニールひもなどを近づけて風の向きを確認する方法がある。カーテンの付いた窓なら、カーテンの動きで判断できる場合も多い。

「基本的には、風が強く吹く方の窓が入口に、風が弱い方の窓が出口になります。ただし換気扇は空気を引っ張る力が強いので常に出口になります。ですから換気扇のそばで風の方向を向いていると汚染物質を吸いやすいので注意してください」

換気においてもう1つ知っておきたいのが、エアコンを使う季節の換気だ。

エアコンでは換気できない

「エアコンの風で室内に温度差が生まれると、気流が発生して温かい空気は上に、冷たい空気は下に集まります。

冬場は暖房のため飛沫を含めた汚染物質も上に溜まりやすい。そのため部屋の上方に小窓がある住宅の場合は、そこを開けることでうまく汚染物質を外に出せるでしょう」

逆に冷房を付ける夏場は汚染物質が下にたまりやすい。

エアコンを付けていても換気は大事(画像:イメージ)
エアコンを付けていても換気は大事(画像:イメージ)

また「エアコンを付けていれば換気はいらない」と考える人がいるが、それは間違いだという。

「現在は、換気機能のついていないエアコンが大半」であり、室内の空気を吸い込んで、冷やしたり温めたりして吐き出しているだけだという。そのため換気が不要になることはない。

「エアコンは室内の汚染された空気を吸い込んでそのまま吐き出しているため、いくらフィルターがついているとはいえ、その空気は必ずしもきれいとは言い切れません。エアコンの風をダイレクトに受けると汚染物質を吸い込むことになってしまうのです」

ちなみに、エアコンは部屋の空気を吸い込む仕組みのため、部屋全体の汚染物質がエアコンの近くに集まりやすい。そこで吸いきれなかった大きなほこりはエアコンのそばに落下してたまりがちだ。

そのためエアコンの真下や風が直接当たる場所に座ったり、ベッドを置いたりすることはできる限り避けてほしいという。

換気の正しい方法はわかった。そこで「今すぐ窓を2カ所開けよう」と動く前に、少し待ってほしい。

換気の前にまず掃除!乾拭き→水拭きの順番で

部屋や廊下の隅、ソファなどの大きな家具の下などをチェックしてみよう。そこにほこりが溜まってはいないだろうか。

「掃除前に窓を開けたりして強い風を当てると部屋中にほこりが舞ってしまいます。風によって『寝た子を起こす』がごとく、下に落ちていた大小のほこりや汚染物質を舞い上がらせて、また人間が吸いやすい状態にしてしまいます」

だからこそ、換気をする前にまずやってほしいのが「掃除」だ。

床の掃除というと、掃除機を手に取りがち。大きいほこりは取り除けるが、実はそれだけでは不十分だという。

掃除機だけでは不十分な場合も(画像:イメージ)
掃除機だけでは不十分な場合も(画像:イメージ)

「室内の床や壁には、目に見えないほこりが結構くっついています。それは掃除機では取りづらい。特に床のほこりは足の裏でぎゅっと押し付けられていたり、部屋の湿度や足の裏の脂分などで貼り付きやすかったりします。それらを吸い込むほどの力が掃除機にはないことが多いのです」

それならば、と水で濡らした雑巾で掃除したくなるが、残念ながら、これも逆効果だという。

「水を使って拭くと、さらにほこりが床にくっついてしまうのです。

掃除において水が有効なのは『洗浄』の時。例えば手洗いのように水をジャバジャバ使い、こすって流すなら、それは優れた方法です。しかし中途半端に濡れた雑巾や布巾では、拭き取った汚れをそのまま塗り広げるだけ。

水拭きは『掃除をした満足感』を与えてくれますよね。でも、その後、水だけが蒸発して汚れは残っているんですよ。乾いた後の床やテーブルにLEDライトを当てるとよくわかります」

まずは「乾拭き」することが大事(画像:イメージ)
まずは「乾拭き」することが大事(画像:イメージ)

水拭きを絶対に行ってはいけない、というわけではない。大切なのはまず「乾拭き」で汚れを取ることだ。その後で、必要ならば水拭きする。

数日前の食べこぼしが固まった汚れなど、乾拭きで取れないものは、まず濡れた布巾でふやかしてピンポイントに取り除き、そこから全体を乾拭きする。

床を拭く場合は乾いたフローリングモップを使うのもおすすめだという。

コロナ禍においてはテーブルや手すりなどをアルコール消毒するケースも多いが、その時もこの原則は変わらない。最初から消毒用アルコールを噴霧して拭くと、汚れや汚染物質を溶かし、塗り広げてしまうのだ。

「消毒用アルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどは、病原体に接触しないと効果を発揮しません。そこに汚れやほこりがたくさんあって、ターゲットのウイルスなどを包んでしまっていると十分に効かないのです。だからまずは乾拭きで汚れやほこりを減らして、その後に消毒することが大切です」

乾拭きをする際の「拭き方」にも大事な点がある。

S字ストロークで汚れを一気に取り除く

「拭き掃除では、布巾をゴシゴシ、ぐるんぐるんと動かす人が多いと思いますが、それでは汚れを塗り広げてしまいます」と松本さん。

大切なのは「一方向」に拭くこと。そのためには「S字を描くように」布巾を動かすといい。

「最初に汚れとぶつかる布巾の側面を、最後までずっと先頭になるように動かせばきっちりとれます」

これはモップで床を拭く場合も、布巾でテーブルを拭く場合もすべて同じだ。

 「あらゆる場面で、まず『一方向』の『乾拭き』を行う。これさえ守ってくだされば、汚れが溜まることなく衛生的な環境を楽に維持することができます」

守るべきポイントはいくつかあるが、1つひとつは単純なものばかり。その理屈を知って実践すれば、そこまで日々に負担はかからないだろう。

こうして日常的に換気と掃除を組み合わせ、汚れを溜めない習慣をつければ年1回の大掃除も簡単に済みそうだ。

松本忠男
35年以上にわたり病院の環境衛生に携わり、多くの清掃スタッフを育成。現在は海外の医療現場でも活動する。また、現場で体得したコツやノウハウを、多くの医療施設や清掃会社に発信する。(株)プラナ代表取締役社長。著書に『図解 健康になりたければ家の掃除を変えなさい』(扶桑社)、『病院清掃35年のプロが教える 病気にならない掃除術』(幻冬舎)など。

取材・文=高木さおり(sand)
イラスト=さいとうひさし

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。