2022年11月25日、長崎県内に初進出の星野リゾートが、雲仙温泉街に温泉旅館「界雲仙」を開業する。
全国旅行支援で改めて「旅」が注目される中、国の内外で宿泊施設を運営する星野佳路代表は、長崎、そして日本の観光をどのように見ているのか。業界の第一人者が課題と展望を語った。
旅行の主流は「団体」から「個人」へ
星野代表が語る、観光に必要な「星野流3カ条」がある。
この記事の画像(13枚)(1) オフシーズンのない観光地はない、年間を通していかに宿泊客の維持をするかが大事。
(2) 集客したい時期に新しい魅力を出していく。来てもらうためのコンテンツを現地で用意する。それが最終的に強い観光地、強い施設にする。
(3) マーケティングのし過ぎは観光には良くない。ご当地自慢をする発想で事業を進めていくのが大事。
業界のトップランナーは、いまの長崎、そして日本の観光のこれからをどう見据えているのか、長崎を代表する観光地・出島で聞いた。
吉井誠アナウンサー:
改めて観光地(長崎・出島)でゆっくりしてみて、どうか
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
ここの中にいると別世界。強い観光コンテンツだと思う、出島は
吉井誠アナウンサー:
長崎は、観光のポテンシャルを使いきれていると思うか
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
今でも昭和時代の観光形態(団体旅行)を残していて、それが需要のかなりの部分を担っているから、世界は個人旅行の流れに移っているが、そっちに力をシフトしきれていないというのが長崎の現状
インターネットの普及で誰でも簡単に宿泊予約をできるようになり、世界の旅行の主流は「団体」から「個人」へと変化。
日本を訪れる外国人旅行者「インバウンド」も、新型コロナの感染拡大前までは右肩上がりでその数を伸ばしてきた。しかし、コロナで状況が一変したいま、改めて海外からの個人旅行者を取り込もうとしても国も地方も同じ課題を抱えている。
吉井誠アナウンサー:
世界から見た日本は、どういう立ち位置なのか
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
行ってみたい国としては、いいポジションにいると思う。ただ、個人旅行で来る人が満足する滞在を提供できるコンテンツができていない。日本は一度行けばいい場所で、2度3度、戻ってくる価値のある場所なのかというのが一番心配されるところ。東京・大阪・京都だけではなくて、他の場所で自分の知らなかった日本文化に行ってみたいというリピート需要を獲得する。そうしない限り維持することも伸ばすこともできない
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
そういう視点で見た時には、今の日本の地方の観光のあり方は、まだまだ問題を抱えている。繰り返し来てもらえるような素敵な場所だったと言ってもらえるかどうかというのが、今、私達に問われている一番大きい課題
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
宿泊客に満足してもらってリピートしてもらえる。そういう質的な内容を作っていけるというのがインバウンドをブームで終わらせない重要なポイントだし、これをブームで終わらせたら、日本の観光は本当に先がないと思う
旅は現代人の必需品に
星野さんが挙げる課題は2つだ。東京・大阪・京都など、人気都市と地方の「インバウンド格差」の解消。そして、観光業界の正社員化率を上げることによる「定住人口」の増加。
課題の解決に必要なのが「リピーターを獲得する魅力の創出」だ。全国で最も人口の流出が激しい長崎で、観光業界だからできる貢献があると星野さんは考えている。
吉井誠アナウンサー:
旅と私たちの生活は今後どういう方向に進んでいくと見ているのか
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
コロナ禍で痛感したのは「旅」というものは、意外と現代人が生きていく上ですごく大事な時間になっていること。それは私たちの業界の大きな自信になったと思う。長崎が本当に観光産業を強くしていくには、マイクロツーリズム(車で2時間圏内の近場の旅行)、日本の首都圏、インバウンドをバランスよく集客し、年間を通して稼ぐことが大切。非常にシンプルだがそういう姿を目指していくしかない。まずは自分の施設がそういう姿を見せていくというのが大事だと思うので、私たちは全力を持って年間を通してしっかり集客するというのを実現したい
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
もう一つは海外に向かって情報発信していくことも大事。世界から長崎に来てもらう時に長崎に来るだけではなくて、九州を満喫してもらう、そんな日本の新しい旅の、世界の人が知らなかったコンテンツを世界に情報発信することを努力して実現していこうと思っている
吉井誠アナウンサー:
エリアの強みをいかすということか
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
自分が知らなかった日本を発見しに来る。その素材が九州にはたくさんある。その九州の重要な役割を果たすのが長崎。そういう視点でとらえるのが大事だと思う
オフシーズンに客を呼ぶことができる魅力を作り、年間を通じて集客を維持する。経営を安定させて、正社員化率を上げていけば、定住人口が増えて人口減少を食い止める一助になる。この好循環をどう生み出すかは、施設に限ったことではなく地域や都道府県、国の観光政策共通の課題であるといえる。
そして星野さんは、インバウンドを呼び込むためのキーポイントを次のように話した。
星野リゾートの代表・星野佳路さん:
海外の旅行者は県境なんて知らないし、気にしない。都道府県単位で集客プロモーションを行うことが多いが、エリアとして、九州として売り込み、呼び込むことが大事。地続きで、それぞれの地域で違った魅力がある九州はまとまりやすく、高い観光ポテンシャルがある
11月25日の「界雲仙」の開業が地元にどんなインパクトを広げることができるのか、注目だ。
(テレビ長崎)