福岡大学にノーベル賞受賞者を上回る数の論文を発表しているとされる人物がいる。しかし、論文には機関誌のあとがきや会合に出席した際のあいさつも含まれていた。素人目にも疑わしい論文の数々、問題はないのだろうか。

観光コラムに会合でのあいさつも論文?

論文。それは研究者が自身の研究成果を世に問うためのもので、研究者にとっては業績とされる唯一無二のものだ。

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2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏が、これまでに発表した論文は152本。同じくノーベル生理学・医学賞を2018年に受賞した本庶佑氏は646本の論文を発表している。

日本が世界に誇る研究者の2人だが、この2人を上回る数の論文を発表している人物が、なんと福岡にいた。

濱田洋平記者リポート:
なんと! 2,000件を超えています

ノーベル賞受賞者を大きく上回る2,000本超の論文を誇るのは、西日本最大級の学生数を誇る福岡大学のトップ、朔啓二郎学長(70)だ。

朔学長は福岡大学医学部の卒業生で、2019年に同大学の出身者として初めて学長に就任した。大学のホームページでは、研究実績として2,089本の論文を掲げている。しかし、その論文には「ある問題」があった。

濱田洋平記者リポート:
こちらは論文の一つとされているNPO法人の機関誌なんですが、台湾の台北での学会に出席したという報告のあと、ほとんどは現地で食べた食事の写真になっていて、あとがきには観光向けのブログのようなコメントが書かれています

朔学長が代表を務めるNPO法人の機関誌は、3年前の2019年に発行されたもので、当時、台湾で開かれた学会の報告とともに、ショウロンポウといった現地の料理などの写真が掲載されている。大学のホームページによると、この機関誌のあとがきが論文だという。

機関紙あとがき:
ノスタルジックな街並みがすてきです。素晴らしい世界に浸ることができます

これが論文?
これが論文?

これが論文なのだろうか。

さらに会合に出席した際の朔学長のあいさつも論文としている。このほかにも医学部長に就任した際の学内の広報誌の記事なども論文だという。

朔学長が2,000本超の論文を手掛けたとしていることについて、研究者の問題などに詳しい専門家は次のように語る。

一般社団法人 科学・政策と社会研究室 榎木英介代表理事:
2,000本というのは、いくらなんでも多すぎると感じる。1本、論文を出すのに、それはたくさんの研究をしないといけないし、時間もかかる。論文というのは基本的には査読付きといいまして、他の研究者が認めて、雑誌に載った物を論文と称する。それのみが評価基準になっていて、研究者にとっては命であり、すべて

他者から認められ、学会誌に掲載された査読付き論文こそが本当の論文であるという。

「論文の掲載基準があいまいだった」

朔学長の論文2,000本超の中に、論文としては疑わしいものはどれだけあるのか。実際に調べてみると…。

“論文”を調べる記者。結果は…
“論文”を調べる記者。結果は…

濱田洋平記者リポート:
論文のタイトルは全く同じなのですが、論文を掲載した雑誌の名前をカタカナ表記にしているか、英語表記にしている。これも分けて掲載していますね

論文とされるものの中には、他にも同じものを複数回掲載しているケースがあった。

調べること、約3時間。素人が見ても明らかに疑わしいものは数百本に及ぶ。実際に医学関連の査読付きの論文が検索できるサイトで調べると、朔学長の名前で出てきた査読付きの論文は約400本。朔学長の論文の中には、それに当てはまらないものも一緒くたにされていた。

一般社団法人 科学・政策と社会研究室 榎木英介代表理事:
他の研究者からの評価を得て正式に載った論文と、単なるエッセイみたいなのは、私たちは区別している。そして査読付き論文のみが評価の対象となる状態なわけで、それを混ぜてしまうのは考えられない。常識的には許されない。そういったことをあえてしているのか、何かの事故なのかよく分かりませんけど、結果論として業績の水増しをしてしまったと感じる

業績を水増しするという意図はあったのだろうか。大学側は…。

福岡大学の担当者:
恣意的な水増しではない。論文の掲載基準があいまいだった

その上で大学側は、今後、基準を明確化するとともに2023年3月に向けて、論文などの情報を掲載するシステムの改善も予定しているという。

次の時代を担う学生や研究者のためにもきちんとした規範を示さなければならない。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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