福岡・中間市で5歳の男の子が送迎バスに置き去りにされ熱中症で死亡した事件。11月8日、判決公判が福岡地裁で開かれ、元園長らに執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。
判決を受けて、男の子の母親は「納得できない」と語った。

裁判長「苦痛や絶望感を思うとあまりに痛ましい」

カメラの前で元気にポーズを取る男の子。倉掛冬生ちゃん、当時5歳。2021年の夏、保育園の送迎バスの中で亡くなった。

生前の冬生ちゃんが映った動画
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業務上過失致死の罪で在宅起訴されたのは、冬生ちゃんが通っていた双葉保育園の元園長・浦上陽子被告(45)と保育士の鳥羽詞子被告(59)。起訴状によると2人は2021年7月、降車確認を怠るなどして冬生ちゃんを約9時間にわたって送迎バスの車内に放置し、熱中症で死亡させた罪に問われていた。

裁判の最大の焦点は、子どもを守るべき立場にあった元園長らの「過失の重さ」。
これまでの裁判で、浦上被告と鳥羽被告は、ともに起訴内容を認め、検察側は「保育従事者が守る極めて基本的な注意義務に違反した」と浦上被告に禁錮2年、鳥羽被告に禁錮1年6カ月を求刑。

一方、弁護側は「すでに社会的制裁を受け、遺族に対して謝罪を働きかけている」と主張していた。

そして11月8日の判決公判。
福岡地裁の冨田敦史裁判長は「確実に送迎車から降ろすのは当然の基本的な注意義務」「真夏に幼児が取り残されれば自力で脱出できない危険性は認識していた」「灼熱の車内で長時間1人取り残された被害者が感じたであろう苦痛や絶望感を思うとあまりに痛ましい」として「重大な過失」を認定し、浦上被告に禁錮2年(執行猶予3年)、鳥羽被告に禁錮1年6カ月(執行猶予3年)の判決を言い渡した。

判決後に、冬生ちゃんの母親と祖父が遺影を抱えて会見に臨んだ。

冬生ちゃんの母親(記者会見):
冬生を返して欲しいと言いたいです。私は頭の中では冬生が亡くなったと分かっているけど、まだ心の整理がついていません

ーー判決は納得していますか?

冬生ちゃんの母親(記者会見):
納得していない。執行猶予がついて軽いなと思いました

一方、今回の判決について元園長の浦上被告は―。

浦上陽子被告(取材メモより):
本当に申し訳なく思っています。申し訳ございませんでした。判決が出たとしても決して冬生くんやご遺族は許されない。今後も償いを続けていきたいと思います

悲惨な事故を繰り返さないために日本社会に何を求め、何を訴えたいのか?冬生ちゃんの祖父は―。

冬生ちゃんの祖父(記者会見):
送迎バスを使用しているところは、国がマニュアルを作って配布して、それを徹底させるようなシステムにならないと何も意味ない

置き去りを防ぎ子どもの命を守る装置

どうやって子どもの命を守るのか―。福岡市では、最新の技術を活用した新たな取り組みが進んでいる。

赤木希アナウンサー:
いま幼稚園にバスが到着しました。中には園児たちと先生が乗っています

登園時間を迎えた福岡市博多区の幼稚園。送迎バスから続々と降りて来る園児たち。その後、職員がバスに乗り込み、園児が中に残っていないか1席1席チェックする。複数の職員でのバス内チェックに加え、休みの連絡がない園児については保護者に連絡を入れるなど、送迎バスへの置き去り防止に努めている。

那珂幼稚園・吉住祏子園長:
日々、ケガや大きな事故がないように緊張感を持って接しています

子どもを預かる園側が細心の注意を払う送迎バスでの子どもの置き去り。政府は2023年4月から、全国の保育所や幼稚園などの送迎バスに、置き去りを防ぐための安全装置の設置を義務付ける方針だ。

そんな中、この幼稚園で行われたのが安全装置を開発した企業の実証実験だ。

赤木希アナウンサー:
こちら送迎バスの中には、Wi-Fiセンサーが設置されています

この実証実験は、車内に2台のWi-Fiを設置。その電波を活用して園児の僅かな動きなどを感知し、車内に子どもがいると、パソコン上に波形が表示される仕組みになっている。実際に園児がバスの中にいると、人の動きを検知しパソコンに表示されたグラフの波形が大きく動く。さらに座った状態でも、波形は小さいものの動く。

開発した村田製作所は「実証実験で課題を改善し、2023年4月の実用化を目指したい」としている。

開発した村田製作所・中江広和さん:
通知方法ですね。先生に対する通知、家族への通知、バスそのものが、ランプが光る、クラクションを鳴らす、何が一番いいのか、この実証実験で詰めて行きたい

那珂保育園・吉住祏子園長:
人の目でも見ながら、機械の方でも二重にチェックができると思っています

政府は設置費用1台あたり18万円まで補助する方針で、メーカーは「園側の負担ができるだけゼロになるような価格設定にしたい」としている。

しかし、なぜ中間市の事件の後、すぐに安全装置の義務化と費用の補助を決めなかったのか。中間市の事件以降も2022年9月に静岡県で同様の事件が起きた。そして岩手県でも11月に小学校のスクールバスで「置き去り事案」が発覚している。

子どもたちの命を守るために、政府には、保育士の待遇改善も含め、同じ事件を根本から無くしていく政策づくりへ、一刻も早く着手してほしい。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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