全国有数のかんきつ産地・愛媛県八幡浜市で、インターネットや「AI」などの情報通信技術を活用する「スマート農業」の取り組みが進んでいる。産地を守り育てる未来型のかんきつ栽培、キーワードは「見える化」だ。

数値化されることで「判断基準がわかりやすく」

愛媛県南予地方特有のリアス式海岸が続く八幡浜市。その急傾斜地に広がるのがミカン園地だ。

2021年に県内で収穫された温州ミカンは12万7,800トン。収穫量全国2位という愛媛の温州ミカンは、この一大産地が支えている。

急傾斜地に広がるミカン園地
急傾斜地に広がるミカン園地
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ミカン農家・本田貴久さん:
小さすぎて出荷できないものや、傷が付いて加工品にしかならないものを今のうちに落としておきます。

ミカン農家の本田さんは、作業の合間に自分のスマートフォンで何かをチェックしていた。

ミカン農家・本田貴久さん:
今、雨も降ってませんので、土壌水分がちょっと下がっているかなと。この判断で、かん水しようかな、どうしようかなと考えているところです。

本田さんがチェックしていたのは、園地に設置された「気象ロボット」が計測したデータだ。園地の気温をはじめ、降水量や日射量、さらには土に含まれる水の量までも測っている。

これらは、どれもミカン栽培に欠かせない重要な情報で、農家はスマートフォンやパソコンなどの端末でリアルタイムで確認することができる。

ミカン農家・本田貴久さん:
今までは、木の感じを見ながら水をやろうかやめようかとやってたんですけど、数字に出ることによって、この値になったら水をやったらいいかなっていう判断の基準がわかりやすくなった。

生産者の高齢化で生産量が減少…

八幡浜市や伊方町など、かんきつ栽培が盛んな西宇和地域では、地元のJAや愛媛県などが連携し、「気象ロボット」をはじめとするスマート農業の普及を進めている。

その背景にあるのは、生産者の高齢化だ。この地域では、2008年度からだと年間平均約80戸が農業をやめている。かんきつ産地を支える労働力の不足は深刻な状態となっている。

愛媛県八幡浜支局 地域農業育成室・菊池泰志主幹:
作る人自体が高齢化しているっていうことで、生産量がだんだんと減少しています。その中で、限られた面積の中で生産量を増やしていくためには、やはり反収を上げていくとか、あるいは高く買ってもらうためには良い物を作っていくというところで、AI機器等が大きく威力を発揮するのではないかと思っています。

スマート農業の役割のひとつが、これまで農家の「経験」と「勘」に任せていた部分の「見える化」。

気象ロボットを使ったミカン栽培の実証実験では、収集したデータをもとに水や肥料を適切なタイミングで与えて、園地の環境を最適に保つことで、導入前に比べて収穫量が2~3割アップした。

ミカン農家・本田貴久さん:
これから若い後継者などが増えてきますと、技術を習得するために時間がかかるので、それをパッと目で見て判断できるっていうのがひとつのメリットじゃないかと思います。

ミカンの品質をAIが選定し“数値化”

スマート農業は、作業の「省力化」にも期待が寄せられている。

NPシステム開発 新規事業部・小松周平部長:
こちらが、画像解析AI選果機「太助」です。

松山市の企業が開発したのは、かんきつ農家向けの「AI選果機」。

コンベヤーを流れるミカンを複数のカメラで前後・上下・左右の計6方向から撮影。撮影された画像データをAIが判別し、果実の大きさや傷、色などの選果項目を数値化し、ミカンの品質を「見える化」する。

NPシステム開発 新規事業部・小松周平部長:
選果が終わったあとには全部の個数が何個あって、何個が1級になって2級になったかっていうのを全て帳票化できますので。いわゆる「ミカンの通信簿」が作れる。

農家が見た目と手でより分けていたこれまでの選果機に比べて、精度が安定するのはもちろん、作業時間も半分程度にまで短縮される。

作業は効率化されるが…コスト問題は?

この日は、松山・中島の若手ミカン農家がAI選果機を視察に訪れた。

NPシステム開発 新規事業部・小松周平部長:
同じ園地でも、去年と比べてことしは出来が良かった悪かったといったものも、こういった帳票を取っておいて見比べることができる。何でそうなったかっていうのもわかってきますので。

視察した農家:
これがあったらすごい楽だなって。素人でも選果できるなって思ったんで。作業的には効率化できるんじゃないかと。

視察した農家:
価格との折り合いを見て考えないと、作業時間が短くなるといって導入するっていっても、コストがやっぱりかかりすぎると、ちょっと…。

AI選果機は高機能のものだと約2,000万円。個人で購入するにはかなりの高額だ。

それでも、西宇和エリアでは2軒の農家で導入が決まっていて、愛媛県は今後、国の補助金の活用や地域での共有などを提案し、普及を進めたい考えだ。

愛媛県八幡浜支局 地域農業育成室・菊池泰志主幹:
最終的には気象条件、園地条件、AI選果機の選果データを、ひとつのクラウド、システムの中に取り込まれて、その中で一番良いミカンができるのはどういうふうな条件かというのがはっきりしてくると思うんですよ。その条件にできるだけ近づけていくということで高品質なミカンができるんじゃないかなと考えられます。

「見える化」で見えてきた、おいしく安定したミカン作りのヒント。スマート農業が愛媛のかんきつ産地の新たな可能性を引き出す。

(テレビ愛媛)

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