2025年に開催予定の大阪・関西万博の会場「夢洲」は、大阪湾に浮かぶ「人工島(埋立地)」だ。万博開催まで約2年半となった今、この会場へのアクセスが、関係者の心配のタネになってきている。

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警備員を大声で怒鳴りつける来場者

9月に夢洲で行われた大規模な花火イベントには約1万5000人の参加者が車とバスで来場。午後8時のイベント終了後、会場内には出口への誘導を待つ車で長蛇の列ができた。待ち時間のストレスからか、警備員を大声で怒鳴りつける来場者の姿も見られた。
これが、世界から注目される万博での出来事だったら…と、ゾッとする思いでいる関係者も少なくないだろう。

大規模なイベントにつきものなのが、行き帰りの混雑だ。どうすれば会場まで多くの人をスムーズに運び、ストレスなく帰ってもらうことができるのか、いま、対策づくりが進められている。

行きついたのは「公共交通機関の利用の呼びかけ」

「原則、公共交通機関の利用を呼びかける」…これは、大阪府市や博覧会協会などが協議を続けて策定している「大阪・関西万博来場者輸送具体方針」に、今回、初めて明記された文言だ。
この、誰でも思いつくような方策を前面に打ち出す背景には、現実味を帯びて見えてきた「夢洲」の交通アクセスの弱点、そして、それを補うべく考案された“理想のシミュレーション”がある。

大阪万博は1日に最大約30万人が来場すると見込まれているが、会場となる「夢洲」は、大阪湾に浮かぶ人工島で交通手段に乏しい。
夢洲までの主なアクセス手段は、コスモスクエアから「夢洲駅(仮称)」まで延伸する大阪メトロ中央線、JRゆめ咲線「桜島駅」からのシャトルバス、淀川左岸線を通る主要ターミナル駅からのシャトルバスの3つと想定されている。
対策を講じなかった場合、周辺道路での大規模な渋滞や鉄道の混雑が発生し、市民生活や社会経済活動にも大きな影響が出る可能性がある。

そこで今回の計画では、万博会場への入場時間を指定したチケットの販売や駐車場の予約などで来場者のピークを緩やかにする「需要平準化策」と、鉄道の運行本数を3~5割増やす・シャトルバスを9路線設定するなどの「供給拡大策」の2本柱で、スムーズなアクセスを目指す方針が示された。
来場者シミュレーションでは、これらの取り組みによって、最も混雑が予想される会期終盤のピーク時に来場者を約2割減らせるとしている。
しかし、輸送対策協議会の担当者によると、このシミュレーションには大きな懸念があるという。

すべてのシミュレーションが崩壊する懸念

特に、車でのアクセスについては、阪神高速の北港JCTから此花大橋を通り夢洲に入るルートを、大半の自家用車・シャトルバス・物流関係の車両が利用することになるため、渋滞が発生しやすい。周辺の車線の拡張などの対策を講じた場合でも、阪神高速では2キロ以上の渋滞の発生が予想されている。

9月に夢洲で行われた花火イベントでは、約1万5000人の参加者が車とバスで来場し、イベント終了後に大渋滞が発生した。日本道路交通情報センターによると、午後8時20分ごろから周辺の道路で渋滞が始まり、午後9時ごろには阪神高速16号・大阪港線で阿波座を先頭に約6.5キロ、国道172号線・みなと通りでは築港を先頭に約1キロの渋滞が発生した。
渋滞が解消したのはイベント終了から約2時間が経った午後9時45分だった。

万博で想定を上回る渋滞が発生した場合に生じるのは、客のストレスだけではない。
ターミナル駅と会場を往復するシャトルバスの運行スケジュールにも、大幅な遅れが出る可能性がある。バスの到着時刻が大幅に遅れると、チケットで予約した時間に入場できない客が発生する。すると、時間指定のチケットでコントロールしていたはずの来場者数に狂いが生じ、そもそも「需要平準化策」が機能しなくなる恐れがあるのだ。
輸送対策協議会の担当者は「想定を上回る混雑を回避しなければ、すべてのシミュレーションが崩壊する懸念がある」と話す。

夢洲への車の乗り入れは禁止に

その最悪のシナリオを回避すべく、今回の計画には、自家用車を使う必要がない人には「公共交通機関の利用を呼び掛ける」ことが明記された。やむを得ず車で来場する場合も、夢洲への乗り入れは禁止し、舞洲・尼崎・堺に設置される駐車場に停めてシャトルバスの利用を求める。利用には事前予約が必要で、担当者によると「渋滞の発生を防ぐために駐車スペースが余っていても、予約制限することも起こりえる」という。

さらに、会場の混雑時期に応じて、府内の企業などに対し在宅勤務や時差出勤への協力を求め、鉄道・道路の利用時間を分散させるなどの対策も行う。
スムーズな交通の実現には、府民の協力が欠かせない。大阪の交通事情に精通していない関西以外からの来場者や海外からの観光客にも協力を促す策が必要だ。

帰路に「余韻を楽しめる」万博目指して

どのように実効性のある呼び掛けを行っていくのか、さらに、現在シミュレーション中だという「帰路」については、どのような対策を講じるのか、解決すべき課題は多い。
今後、計画は半年ごとに改定され、次回は来年春に公表される。

10月17日、万博来場者輸送対策協議会・内田敬議長は「会場での体験の余韻を楽しめるよう、余裕を持って帰ってもらう」と話した。
大規模イベントと社会経済活動の両立、そして来場者が期待を膨らませながら会場に向かい、思い出を語りながら帰路につけるような“余裕”のある交通アクセスの実現が求められている。

(関西テレビ「報道ランナー」 沖田菜緒)

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