確かに自転車の危険な走行は多い…

交差点で信号が青になったので横断歩道を渡ろうとしました。その時、赤信号側の車道を走ってきた自転車が右折、歩行者を縫うように横断歩道を斜めに横切って向かい側の歩道を走り去って行きました。この間、まったくスピードを落とさないまま…

とっても危ないんですけど、その辺のルールはどうなっているの?

道交法は歩行者や自転車にも適用される

信号無視をする歩行者や自転車は、自動車の信号無視とは比較にならない数に上ります。ですが、信号無視をした歩行者が「2万円以下の罰金」を支払ったという話は聞いたことがありません。自転車の場合は「3か月以下の懲役か5万円以下の罰金」

自動車の交通違反取り締まりは厳しく、歩行者や自転車に対して緩いのは、第一に「危険性」「想定される被害の大小」によるでしょう。ですが、忘れてならないのは「取り締まりの難易度」です。

前述したようにものすごくたくさんの歩行者や自転車が信号無視をしています。

自動車は車両にナンバープレートをつけ、運転者は免許証を携帯しなければなりません。一方、歩行者や自転車に乗っている人には身分を証明するものの携帯が義務付けられていません。ものすごく多くの人を検挙するには「被疑者の同定」、つまり法律違反をしたのが誰なのかを明らかにするところからたいへんな手間がかかるのです。

多くの歩行者や自転車が信号無視している交差点で、一部の人だけを取り締まることは法の下の平等にもとることで、法とその執行の信頼性を損ねることになりかねません。ましてや逃げ得が横行しては国家権力の沽券にかかわります。

検挙される自転車の危険な違法運転
検挙される自転車の危険な違法運転
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「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とはよく言ったものです。

ルールとマナーの違い

守らねばならないのがルール。守ることによって社会を円滑に動かすのがマナーだと思います。ルールは強制力を持っています。違反に対してペナルティを科しルールを守るよう強制するわけです。一方、マナーの基本は「思いやり」で強制するものでも強制されるものでもありません。ルールを知らなくてもマナーを守っていればルール違反にはならないのが普通だし、ルールはそういうものであるべきだと思います。

マナーが乱れルール違反が増えると、通常、ルールを厳しくする動きになります。取り締まりを強化し、ペナルティを重くするということです。

取り締まりとペナルティでがんじがらめの社会は窮屈です。そんな社会になってほしくない。拙文のサブタイトル「強制と自律は社会の両輪」は、そういう気持ちを込めたものです。

社会的モラルとは

ほとんど車が通らない道路、歩行者信号は「赤」。誰も立ち止まらず横断していく中、あなたはどうしますか。

信号無視する自転車や歩行者が常態化している場所も
信号無視する自転車や歩行者が常態化している場所も

モラル。日本語では「道徳」「倫理」といった意味を持ちます。

ルールやマナーは「誰か」が決めて客観的に評価できるものであるのに対して、モラルは自分の中にあって善悪を判断するものです。そういう意味でモラルは十人十色、きわめて主観的なものですが、属する集団によって最大公約数のモラルが存在します。そうした社会的モラルはひとりひとりのモラルによって高まったり、低下したりするわけです。

モラルが低い社会では「強制」によってルールを維持せざるを得ません。逆に高いモラルを持った社会は「自律」によって維持され、ルールは最低限で済みます。

自由であることの責任、自由であるための義務

極端な話になりますが、人を殺すのは自由でしょうか。「死刑または無期若しくは5年以上の懲役」を覚悟した人にとってペナルティによる抑止力は無力です。法と強制とペナルティより前に、人としてのモラルが問われるところだと思います。

アテネの裁判で死刑判決を受けたソクラテスは、逃亡を勧める友人や支持者に対して「いったん定められた判決が、少しの効果も持たないで個人の勝手によって無効にされるとしたなら、その国家は存立できると思うか」と語り、毒杯をあおったと伝えられています。法は執行されるか、執行できるものに改正されねばなりません。

それは「法を守る」というモラルを守らねば国も社会も成り立たないからです。

今の子供たちが大人になった時代が、マイナンバーカードの常時携帯が義務付けられ歩行者も自転車も厳しく取り締まられるような窮屈な社会になりませんように。

【執筆:フジテレビ解説委員 岡野俊輔】

岡野俊輔
岡野俊輔

老驥伏櫪 志在千里
烈士暮年 壮心不已
フジテレビ報道局解説委員。1958年東京生まれ。
千葉県立東葛飾高校卒。早稲田大学法学部卒。
元フジテレビ政治部記者、デスク。
元ニュースジャパン編集長、ウィークエンド編集長、報道番組部長。
政治部編集員からシニアコメンテーター役。