シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。
今回は消化器肝臓内科の専門医、関西医科大学 消化器肝臓内科の長沼誠主任教授が、故安倍元首相や陸上100mの桐生祥秀選手も患う「潰瘍性大腸炎」について解説。国の難病に指定され、大腸がんなどの他の病気のリスクもある潰瘍性大腸炎の症状や治療法について解説する。

瘍潰性大腸炎とは
瘍潰性大腸炎は若い方に発症することが多く、症状としては、血便、下痢、腹痛といったお腹の症状を起こすのが特徴です。良くなったり、悪くなったりを繰り返すことが多く、なかなか良くならず症状が持続する方も結構います。
1970年代にはわずか数百人しかいませんでしたが、現在は推定では20万人以上の患者さんが存在します。基本的に男性も女性もなりやすさは同じです。
家族が瘍潰性大腸炎の場合、子供もなる確率はわずかに高いですが、全員がなるわけではなく、むしろならない患者さんの方が多いです。ただ、家族歴というのは、ある程度なりやすいという因子になるのかなと思います。

この病気で亡くなることはめったにありませんが、就職、受験、妊娠、出産といった人生の転機に発症したり、悪化することで、生活の質が妨げられるのが特徴です。
潰瘍性大腸炎の症状
潰瘍性大腸炎は、炎症が大腸全部に起こる人とお尻の近くの直腸だけに起こる人がいますが、直腸だけの場合は下痢が出ることはありません。
ただ、直腸から大腸全体に炎症が広がることがあります。その場合は、血便だけだった症状がその後、下痢やお腹が痛くなったりすることがあります。
それから最初症状が比較的軽くても、経過に応じて重症化してくることがあります。その場合は、熱が出たり貧血の症状が進んだりします。

潰瘍性大腸炎の原因
原因はまだ不明な点が多いのが実情ですが、食事の影響、あるいは腸内細菌のバランスが乱れることで病気が発症すると言われています。
腸管の中にある免疫が過剰になったり、異常になることで、腸管の粘膜の細胞を障害して炎症を起こす。それによって病気が起こると考えられています。
喫煙に関しては、似た病気でクローン病というのがありますが、クローン病の場合は喫煙が増悪の因子になると考えられていますが、潰瘍性大腸炎の場合は、リスクを下げるというデータと変わらないというデータがあります。だからと言って喫煙を勧めているというわけではなく、実際に私が患者さんに説明する時は、肺がんや心疾患というリスクを上げるため、基本的にはたばこは吸わない方がいいですよと言っています。
潰瘍性大腸炎とストレスの関係ですが、患者さんはストレスと関係することが多いと言います。少なくとも病気になりやすさとストレスはあまり関係ないと考えられていますが、病気になった後で悪化する要因にストレスは多少関係すると思われます。
だからといってストレスを全く無くすのは難しいので、ストレスがある中で自分がどううまく付き合っていくのかを患者さんに説明しています。
他の病気を発症するリスク
潰瘍性大腸炎は死に関わることが少ない疾患(病気)ではありますが、炎症をもとに大腸がんが発症することがあります。
これは潰瘍性大腸炎でない方に比べて発症率が高いことも知られているので注意が必要です。
皮膚の病変、結節性紅斑や壊疽性膿皮症などの病気を起こしたり、虹彩炎やぶどう膜炎などの眼症状を合併することもありますし、関節の症状、関節が痛くなる病気もあります。
また、肝機能障害や胆管に炎症を起こしたり、全身に合併する病気です。

潰瘍性大腸炎の治療法
基本的な治療薬は、5ーアミノサリチル酸製剤とステロイドです。
ステロイドは潰瘍性大腸炎だけでなく、喘息やアトピーといったいろいろな疾患の治療に使われますが、軽症であれば5ーアミノサリチル酸製剤、中等症から重症であればステロイドが基本的な治療薬になります。

この5ーアミノサリチル酸製剤とステロイドには、経口薬や座薬、注腸製剤(浣腸)があります。70~80%の患者さんは5ーアミノサリチル酸製剤とステロイドでだいたい良くなりますが、良くならない方もいます。
ステロイドを使い続けると様々な副作用が出るので、ステロイドの使用を減量する必要があります。そのやめていく過程で悪くなる人もいます。ステロイド依存性といいますが、こういった患者さんの治療法として分子標的薬という治療法があります。
分子標的薬は、免疫が過剰になることには様々な分子が関与していますが、この分子を標的として治療を行うことで炎症を抑える治療法があります。現在分子標的薬を行うことができるようになってきて、多くの患者さんがある程度治ることができるようになっています。
難病申請について
潰瘍性大腸炎は難病に指定されています。よって潰瘍性大腸炎であることを申請して認可されれば医療助成が受けられます。

潰瘍性大腸炎の治療費は比較的高額な薬剤も少なからずあります。
そういった中で難病認定を受けることで医療助成が受けられるので、最低限の金額で的確な治療を受けることができます。
潰瘍性大腸炎と診断されてしまうと、ショックを受ける患者さんが多いです。ネットなどを見て食事を制限しなくてはいけないのかと訴えてくる患者さんがいます。

大事なポイントは、潰瘍性大腸炎でも軽症や症状がない場合は食事制限はあまり気にしなくて大丈夫です。
運動も落ち着いている状態であれば普通にしていただいて構いません。なので寛解期(良い状態)であれば、基本的に腸炎がない方とほぼ同じ生活ができると考えていただいていいです。
炎症が強くなり症状が出ている場合は、食事を気をつけることが大事です。食事の量を抑えたり、刺激の多いものを控えることです。
カレーなど香辛料が多く含まれているものには注意が必要ですが、絶対に食べてはいけないということではなく、何事も常識の範囲内、食べ過ぎとか毎日食べるのでなければ、香辛料も安定している時は特に問題ないと考えています。
潰瘍性大腸炎と妊娠
潰瘍性大腸炎だから妊娠しにくい、とか出産できないということはないです。
潰瘍性大腸炎が良い状態の時に妊娠する方が腸炎が無い方と同じ状態で出産できるので、患者さんにはなるべく良い状態で妊娠してくださいと説明しています。
どうしても炎症がある状態で妊娠すると様々なリスクが増えるので、なるべく炎症を落ち着かせて良い状態にしましょうと説明しています。
妊娠したいから薬を飲みたくないという患者さんもいます。ただ、炎症をきちんと抑えてあげる方が良い状態で妊娠したり、妊娠経過も良くなるので最低限の薬はきちんと飲んだ方が良いです。