爆発の閃光、角度がそっくり

北朝鮮メディアは10月10日、先月25日から10月9日にかけて実施した朝鮮人民軍「戦術核運用部隊」による実戦訓練と、この間に発射した弾道ミサイルの写真88枚を一挙に公開した。

北朝鮮は9月25日から10月9日までのミサイル発射実験の写真を一挙に公開
北朝鮮は9月25日から10月9日までのミサイル発射実験の写真を一挙に公開
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だが、宣伝効果を強調しようとするあまり、過去の写真を再利用し実際の能力を誇張して報じた疑惑が指摘されている。

韓国軍当局は、9月25日に西北部の貯水池から発射された弾道ミサイルの写真のうち、日本海上のアル島を打撃した写真が、1月28日に報じられた写真と同一のものではないかとみている。

2022年1月28日に公開された戦術誘導弾の写真
2022年1月28日に公開された戦術誘導弾の写真

北朝鮮の国防科学院はこの時、長距離巡航ミサイル(1月25日)と戦術誘導弾(同27日)の発射に成功したとして、写真10枚を公開した。北朝鮮はこの際、「2発の戦術誘導弾が目標の島を精密打撃し、弾頭部の爆発の威力が設計上の要求を満たしたことが確証された」と報じていた。

10月10日に公開されたSLBM発射写真と共に掲載されたミサイルが島に着弾する様子を捉えた写真
10月10日に公開されたSLBM発射写真と共に掲載されたミサイルが島に着弾する様子を捉えた写真

このうち1発が日本海上の島を打撃する写真は、角度や爆発の閃光の形、周辺の波の形などが、10日の写真とほほ同じであることが確認できる。

今回の貯水池から発射された弾道ミサイルについては「予定された軌道に沿って日本海上の設定標的上空へ飛行し、設定された高度で正確な弾頭起爆の信頼性が検証された」と報じている。島を打撃したのではなく、上空で爆発させたことを示唆したとみられる。

北朝鮮のお家芸「事実の書き換え」

北朝鮮は過去にも、自身の都合のよい形に事実を書き換えたり、上書きしたりして報道する例があった。

金総書記の父・金正日氏時代にも、金正日氏の病状を伏せるために、健全な姿を誇示する写真を公式報道で伝えて、後日、韓国メディアに「最近の写真ではない」と報じられたりした。

近年のミサイル発射についても、北朝鮮が発表した時間帯と木陰のできる角度が異なる▽ミサイルと、それが飛び出したはずの筒(キャニスター)の位置がずれている――など、少なくない疑問点が指摘されてきた。

記録映画では修正は常態化している。金総書記の時代になっても、粛清された叔父・張成沢氏の映像が削除されたり、2回目の米朝首脳会談(2019年2月)の伝え方が直後の報道と記録映画で異なっていたりしている。

2020年1月の記録映画では板門店での米朝首脳会談で金総書記がトランプ大統領(当時)に米朝協議打ち切りを通告したかのように事実を「書き換え」て報じている
2020年1月の記録映画では板門店での米朝首脳会談で金総書記がトランプ大統領(当時)に米朝協議打ち切りを通告したかのように事実を「書き換え」て報じている

その一方、金総書記は「現実直視」の立場から、杖をついて視察する姿を公開したり、党大会で定めた「5カ年計画」の目標が達成できなかったことを認めたりするなど、「不都合な事実」を明らかにする姿勢も示している。

ただ、こうした方針はあくまで北朝鮮住民の反発を避け、内部結束を強化するのに有効と考えられるケースに限られているようだ。

軍事関連といった体制維持に直結する問題に関しては、従来通りの閉鎖的で隠蔽的な手法に頼っているといえる。

笑顔を封印した金総書記、核攻撃の本気度

もうひとつ、気になったことがある。

10月10日に公開された写真には、金総書記の笑顔がほとんど見られない。

2016年から2017年当時は、核実験や弾道ミサイルの発射に成功するたびに、金総書記が満面の笑みを浮かべて登場し、兵士らと抱き合って喜ぶ姿が大々的に報じられた。

大陸間弾道ミサイル火星15型の発射成功を喜ぶ金総書記(2017年11月)
大陸間弾道ミサイル火星15型の発射成功を喜ぶ金総書記(2017年11月)

それが一転、2022年5月以降は、ミサイル発射を一切報じず、沈黙を続けてきた。

沈黙を破った「戦術核運用部隊」初の実戦訓練で金総書記は笑顔を封印することで、北朝鮮が厳しい経済状況を余儀なくされているのは、米国の敵視政策が原因であり、その圧迫に対して、金総書記が最前線で向き合っている、という点を強調する狙いがあるのではないか。妻の李雪主氏を初めてミサイル発射現場に同行し、耳をふさいでいる写真を公開したのもその一環といえよう。

ミサイル発射現場に妻の李雪主氏を同行したのは初めてと見られる(10月9日)
ミサイル発射現場に妻の李雪主氏を同行したのは初めてと見られる(10月9日)

笑顔の代わりにしかめ面を見せることで、臨場感と緊迫感を伝える形に宣伝扇動のスタイルも変化させたのである。

ミサイル写真の使いまわしなど多少の誇張が混じっていたとしても、北朝鮮が核・弾道ミサイル能力をより一層向上させていることは間違いない。北朝鮮のミサイル発射に対抗した日米韓の軍事演習や国連の非難に対し、核攻撃をちらつかせて対抗する姿勢をエスカレートさせている。

7回目の核実験も待ったなしの状況と見られる。日米韓の強力な連携による対応が求められている。

【執筆:フジテレビ客員解説委員 鴨下ひろみ】