南極・昭和基地で活動する越冬隊員への物資輸送は、南極観測船しらせで行うしか方法はない。そのため、しらせの任務遂行は隊員たちの命に関わってくる。

観測船しらせの重要な役割を担う東大研究チーム

海氷の中を進む南極観測船「しらせ」(国立極地研究所提供)
海氷の中を進む南極観測船「しらせ」(国立極地研究所提供)
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海氷の中を進む南極観測船しらせ。厚い氷を砕きながら越冬隊員が待つ昭和基地を目指す。

しかし、実は、この作業、船にとってはとても危険なことをしている。

いくらしらせの船首や船底が分厚い鋼板で補強されていても、鋼板のつなぎ目やスクリューなどへの影響が心配だ。

昭和基地の燃料や隊員の食料などは、しらせでしか運べない。
そのため、しらせのためになるべく氷が少なくリスクが軽減できる航路を探すことは重要な役割となる。

その航路の選択で活躍しているのが、東京大学の早稲田卓爾さんたちの研究チーム。科学的観点から、しらせの構造面や航行支援など、幅広くサポートしている。

早稲田卓爾さん
早稲田卓爾さん

安全航行のための新しい研究とは

早稲田さんは、2022年11月に出発する第64次南極地域観測隊に参加し、さらに新しい方法でしらせの支援を行おうとしている。

その1つが、流氷の動きを計測すること。

氷山にぶつかって沈没する危険性はどの船にもあるが、波によって動かされる流氷も同じように危険だ。安全に航行するためには、その流氷の動きや大きさを計測できるようにしなければならない。

そのために、流氷の厚さをマイクロ波などで調べるリモートセンシングやドローンを飛ばして流氷の表面を3D化し、流氷の全体像を浮かび上がらせようとしている。

特殊な水槽で海氷と波の関係を研究
特殊な水槽で海氷と波の関係を研究

もう一つが、海氷の崩壊メカニズムの解明。

昭和基地がある場所は、南極大陸の中でも上陸が極めて難しい場所だ。実際、アメリカなどは数回チャレンジしても上陸できず、報告書にはアンアクセシブル=アクセス不可能、と記載された場所でもある。

その理由は、厚い定着氷(海氷がびっしりと海面を覆ったエリア)。氷を砕きながら進めるしらせでも、時には厚い定着氷に行く手を阻まれて、接岸を断念することがある。

早稲田さんのチームの研究主体は波浪で、波浪によって定着氷が動き、やがて崩壊すると考えている。その定着氷の成長具合や波によってどのように動くのかを調べることで、安全な航路に導こうとしている。

その方法は、海氷に波浪センサーを設置することだ。

ヘリコプターなどを使って海氷にセンサーを取り付けて、海氷と波の関係を調べることで、波によって海氷が崩壊するメカニズムを解明しようとしている。

波浪センサーを海氷に設置
波浪センサーを海氷に設置

早稲田さんによると、十数年に一度、昭和基地の周りの定着氷が大崩壊することは分かっているが、なぜ大崩壊が起きるのかについては、波浪が原因と考えているものの、それを確かめるデータがこれまでないため、今回計測にチャレンジするという。

早稲田さんの研究は、南極にとどまらず、新しい海洋輸送ルートして注目される“北極海航路”の安全にも貢献できるとして期待されている。

出来たばかりの海氷は、パンケーキアイスと呼ばれる。「パンケーキアイスはほんとに美しい」と早稲田さん
出来たばかりの海氷は、パンケーキアイスと呼ばれる。「パンケーキアイスはほんとに美しい」と早稲田さん

〈早稲田卓爾さん〉
東京大学大学院新領域創成科学研究科、海洋技術環境学専攻海洋環境創成学。研究テーマは海洋波・海流・海上風の予測と観測に関する研究。早稲田さんの鉄板ギャグ「早稲田と申しますけど、東京大学の早稲田です」