シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は小児科の名医、久留米大学医学部の古賀靖敏名誉教授が「ミトコンドリア病」について徹底解説。糖尿病や認知症を引き起こすだけでなく、致死率が高い小児の病態MELASに10月から保険適用が始まった新治療法についても解説する。

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ミトコンドリア病とは

私たちが生きていく上で必ず必要なATPというエネルギーの元になるものが遺伝的に作れなくなり、エネルギー不全の症状を様々な臓器にきたすのがミトコンドリア病です。

例えば、体重60kgぐらいの人は1日に60kgのATPを作らなければ正常な生活ができません。
ATPは人間社会でいう電気のようなものです。

我々の遠い先祖が海から陸に上がるときにATPを作る細菌が体の中に入り、取り込まれ、共生した状態で現在にあると考えられています。

従って私たちのATPを作る遺伝子は2つの支配によって成り立っています。

1つは、両親から伝わるDNA。
もう1つは、母親からしか伝わらないDNAです。

このようなATPを作る遺伝子群は遺伝的に両支配を受けているので、ミトコンドリア病の診断はかなり難しくなっているのが現実です。

老若男女いつ発症するかわからない病気で、どの臓器が侵されるかもわからない、人それぞれ症状の発症様式が違うため、診断は非常に難しいです。

小児期に発症するものは比較的重症型が多くて、成人期に達せず亡くなる方が多いです。一方、老人期に発症する人は比較的軽症型が多いと考えられています。

現在日本で登録されているミトコンドリア病の患者は約2000人になります。世界中では約50万人と考えられていますが、今後診断技術の発達によって増えていく可能性はあると思います。

ミトコンドリア病の症状

代表的な症状の1つに中枢神経系、脳神経症状があります。具体的には、精神運動発達遅滞てんかん認知症の発生になります。

そのほかにエネルギーをたくさん使う臓器の代表で心臓の症状があります。肥大型心筋症とか不整脈、心不全です。

さらに骨格筋の症状がありまして、筋力低下とか横紋筋融解症の症状が出てきます。

数的には糖尿病が1番多いんですが、日本人糖尿病約800万人の中ではっきり遺伝子異常のわかった糖尿病はこのミトコンドリア異常によって起こる糖尿病が1番多く、日本では13万人ほどいると考えられています。

MELASとは

ミトコンドリア病の約40%の人がMELASという病型を示します。

MELASという病型は、大人でいう脳卒中様発作と非常に近い症状を示す、小児期から発症する重篤な病気です。

発作を起こすと痙攣意識障害同名半盲など様々な中枢神経系由来の症状が出てきます。症状の原因は、の血管が狭まってそこで血流障害を起こす、大人でいう脳卒中と非常に近いのですが、病態が違うので脳卒中様発作という名前になっています。

致死率は病型ごとに本来疫学調査がなされるべきなのですが、それがまだ進んでいません。

ただ、小児型MELASの致死率は5年生存率が2割ということで、発症すると6年以内に半分は亡くなってしまうという非常に重篤な病気です。

ミトコンドリア病の治療法

特効薬的な治療は特になく、ミトコンドリア病はほとんどが対症療法になります。

例えば、心臓が悪ければ心不全の治療、腎臓が悪ければ腎不全の治療、ミトコンドリア糖尿病であればインスリン、ないしは経口糖尿病薬の治療になります。

様々な治療法の中で唯一日本で保険適用になっているのが、アミノ酸の1つであるタウリンという物質を投薬するものですが、これは海外では広く認められていない治療法になります。海外で唯一推奨されている治療法は、私が開発したMELASに対するLーアルギニン治療です。

アルギニン治療はMELASの特効薬として10年以上前から欧米で唯一推奨されている薬ですが、日本でも2022年10月を目処にやっと保険適用できるようになり、これでMELASの福利厚生、生存率の増加が見込まれると期待されています。

(※ミトコンドリア病に対するアルギニン治療は2022年9月26日に日本での治療承認を得られましたので日本全国で治療可能となりました)

もともとが遺伝的な異常によって起こっているATPの合成阻害ですので、完治というのは難しく、なるべく病気を悪化させないように病気と仲良く生きていく形になります。

後遺症で1番有名なのはMELAS患者の認知症です。

認知症が非常に早く起こりえます。脳血管障害型の認知症なので、悪化させないためにアルギニン治療が有効です。

ミトコンドリア病の予防法

遺伝的素因を持っている方は糖尿病を発症しやすいので、糖尿病にならないように暴飲暴食を避ける必要があります。

MELASのような遺伝的素因を持っているお子さんに関しては、学校で過度な運動をさせないように安静に保つ必要があります。スパルタ的な過度な運動をさせると子供は脳卒中様発作を起こしたり、横紋筋融解症を起こして症状がひどくなります。

一般的にミトコンドリア病の患者さんは、バランスの良い食事に務めていただくことと、サプリメントのビタミンB1ビタミンCカルニチンを接種するのが望ましいと考えています。

古賀靖敏
古賀靖敏