難聴や失明、心臓病や神経障害などあらゆる疾患を引き起こし、現在(2021年12月時点)までに確立された治療薬が見つかっていない難病「ミトコンドリア病」。

2021年12月6日、東北大学大学院の阿部高明教授の研究グループが会見を開き、ミトコンドリア病治療薬として期待される低分子化合物「MA-5」のヒトへの安全性を確かめるための臨床試験を、2022年1月から開始すると発表した。
順調にいけば世界初の治療薬となり、患者の家族も期待している。

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難病“ミトコンドリア病”に新たな光 

ミトコンドリア病は、細胞内のエネルギー工場とされるミトコンドリアの機能が低下することで、エネルギーの産生効率が下がり、あらゆる臓器障害や難聴、てんかんや精神症状など様々な疾患を引き起こす難病。
国内には1400人の患者がいるが、現在までに根本的な治療薬は開発されていない。

東北大学 阿部高明 教授:
これがMA-5です

阿部教授は、2010年にこの「MA-5」がミトコンドリアのエネルギー産生効率を高める効果があることを発見。これまで動物や患者の細胞でその有効性の確認を進めてきた。

東北大学 阿部高明 教授:
これはエネルギーの度合いを見る機械で、ここの高さが高いとミトコンドリアが働いていることがわかる。ここの幅が大きいとATP(エネルギー)ができているとわかる

こちらは実際の患者の細胞での実験データ。緑色に光っているのがミトコンドリア。「MA-5」投与前は蛍光量も弱く、一つ一つが弱っているが…。
投与後は一転して一つ一つの蛍光が強くなり、健康なミトコンドリアが増えていることがわかる。

東北大学 阿部高明 教授:
今回、初めてヒトに投与されるので、今後も慎重に、毒性が出ない安全な容量で効果が出るよう、調べていくことがポイントになる

発症から7年…根本的な治療薬に期待

このMA-5に、患者を持つ家族も期待を寄せている。ミトコンドリア病の息子を持つ伊藤千恵子さん。

次男がミトコンドリア病 伊藤千恵子さん:
根本的な治療薬になるのではと、最初に聞いたときはドキッとした

現在、ミトコンドリア病と診断された次男・龍さんを自宅で介護している。

受験を控えた高校3年生の夏。龍さんは自宅で倒れ、ミトコンドリア病と診断された。

伊藤千恵子さん:
当時は普通の高校3年生で、釣り部だった

根本的な治療法がない中、症状は徐々に進行していると言う。

伊藤千恵子さん:
少しずつできなくなっていった。釣り道具を巻くのも、えさをつけるのも…。最初はちょっとできていたが、今は全然できない

これは発症1年後の龍さんの言葉。

「僕はもう勉強ができない。もう手遅れだ。友達に電話もできない。メールもできない。僕は目がおかしい。もうすぐ見えなくなる」

伊藤千恵子さん:
とにかく全てを失った。そういう感じだった

現在はコミュニケーションを取ることはできず、ほぼすべての日常生活で介護が必要。10種類近くの薬を服用しているが、そのどれもが対症療法で症状を和らげるものでしかない。一刻も早く待たれる新薬の登場。

伊藤千恵子さん:
根本的な治療薬を期待している

(仙台放送)

仙台放送
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