6500を超える品目が値上げ

10月に国内の値上げラッシュはピークを迎える。食品・飲料だけで6500を超える品目で値上げが予定され、価格引き上げの波はハムやソーセージ、マヨネーズ、焼き肉のたれ、チーズ、ペットボトル飲料など広い範囲に及ぶ。

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これまで年内最多だった8月の2.5倍を超える記録的な値上げ月で、この結果、年明け以降の値上げ品目数は2万を超え、値上げ率は平均で14%に達する勢いとなっている。

調査を行った帝国データバンクは「ほとんどの食品・飲料で値上げが起きている」とみている。

ビール売り場には駆け込み客が続々

ビール類をはじめとした酒類で値上げが相次ぐのも10月の特徴だ。

ビール大手4社は、ビールや缶酎ハイなどの価格を1割前後引き上げる。先週末の3連休、都内のディスカウントストアには、値上げ前にまとめ買いをする駆け込み客の姿が相次いだ。ある夫婦は「とうとうビールまでという感じだ」と話し、カートにケースを積み上げていた。

今週に入り、店舗では、酒類の売れ行きが急激に伸びているということで、担当者は「売り場の品出しや補充が追いつかなくなっている」と話している。

ビールを買いだめする駆け込み客
ビールを買いだめする駆け込み客

外食業界でも、回転ずし大手の1皿の税込み最低価格が、「くら寿司」で110円から115円に引き上げられるほか、「スシロー」も、郊外型店舗では110円から120円に値上げされる。

吉野家でも、「牛丼 並盛」が、店内で飲食する場合、税込みで今の426円から448円になる。崎陽軒の「シウマイ弁当」の税込み価格も860円から900円への引き上げだ。

物価高はエネルギーから食品へと大きく拡大

ガソリンや電気代などエネルギー分野で先行してきた物価高は、食品を中心に暮らしにかかわる幅広い品目に拡大する様相を見せている。

8月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は、前の年の同じ月と比べ2.8%上昇した。消費税増税の時期を除くと、上昇率は30年11か月ぶりの大きさだ。

都市ガス代は26.4%、電気代は21.5%上がるなど、エネルギー関連で16.9%の上昇となったが、生鮮食品を除く食料も4.1%上昇し、食用油の上げ幅は39.3%、食パンは15.0%で、外食のハンバーガーは11.2%、からあげも9.4%上がった。

高騰に拍車をかけたウクライナ侵攻と円安

物価高を加速させた大きな要因の一つが7か月前のロシアによるウクライナ侵攻だ。

もともとコロナ禍から世界的に経済が立ち直るなか、供給が需要に追い付かず、去年以降、原材料や資源の価格は上昇基調をたどっていたが、ウクライナ侵攻が、それに追い打ちをかける形となった。

世界有数の原油・天然ガス大国であるロシアや、小麦の穀倉地帯を抱えるウクライナからの供給不安や輸出停滞が、需給のひっ迫を生み、エネルギーや食料価格のさらなる高騰をもたらした。

モノの値段は世界で一段と押し上げられ、8月のアメリカの物価上昇率は8.3%となったほか、ユーロ圏は9.1%、イギリスでは9.9%に達している。

急激な物価高を抑え込もうと、欧米などの中央銀行が相次いで推めているのが、政策金利の引き上げだ。アメリカのFRBは、3回連続で、通常の3倍にあたる0.75%の利上げを決め、景気減速を招くおそれがあるにもかかわらず、利上げによるインフレ退治を優先する姿勢を鮮明にした。

円買いの介入効果も限定的

一方、景気回復が遅れる日本では、経済を下支えするため、日銀が大規模緩和を維持し、金利を低く抑え込んでいる。主要な国や地域で政策金利がマイナス水準に沈みこんでいるのは日本だけになった。

アメリカとの金利差は拡大し、より利回りの見込めるドルが買われ、円が売られることで、円安が一層加速し、輸入品の価格上昇を通じて、さまざまな商品での値上げ圧力を強めている。

「金融引き締め」に動く海外と「金融緩和」を堅持する日本という対照的な姿が、円が売られる環境をもたらしている以上、円買いの為替介入の効果も限定的だとの見方は強い。

円買い介入の影響で、円相場は一時140円台になったが…(9月22日)
円買い介入の影響で、円相場は一時140円台になったが…(9月22日)

政府・日銀による介入で一時1ドル=140円台前半にまで円高方向に動いた円相場は、その後、再びじりじりと円が売られ、今週は、一時144円台後半まで値を下げている。

消費税率3%アップに相当するインパクトも

物価上昇の勢いはいつまで続き、家計にどれくらい響いてくるのだろうか。

日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では、消費者物価の上昇率は、10-12月期は2.64%で、2023年1~3月期まで2%台で推移したあと、4~6月期には1%台になる。

原油や穀物などの国際価格は一時と比べ落ち着きがみられる面もあり、予測の平均値では、物価高の波は、年明け以降、徐々に収まっていく見通しだが、円安が進むなか、年内に上昇率は3%を超えるとの観測も広がっていて、勢いが長引く可能性もある。

みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストの試算では、円相場が今後も1ドル=145円前後で推移した場合、政府の物価高対策の効果を踏まえても、1世帯当たりの家計負担は年間約8万1700円増える。負担率は、年収700~800万円の世帯で、前年度と比べ1.2ポイント増え、300万円未満世帯では、2.7ポイント増加する。

酒井氏は「購入頻度の高い生活必需品の値上がりによる負担増は、年収が低いほど大きくなる傾向にあり、低所得世帯では消費税率3%引き上げに相当するインパクトになる」と分析している。

賃金は目減り 家計の購買力は減退か

値上げが勢いを強める一方で、賃金の上昇は進んでいない。7月の1人当たりの賃金は、物価変動を除いた実質で前年同月比1.8%減少し、4か月連続のマイナスだ。

名目賃金自体は7か月続けて伸びたが、物価上昇のペースに賃上げが追いつかず、賃金が目減りするおそれが現実のものとなりつつある。価格転嫁の遅れで収益が圧迫されやすい中小企業では、賃上げを実施する余力が乏しいところも少なくない。

エネルギー・原材料高に円安が拍車をかけた物価上昇の波は大きなうねりとなっている。根強い円売り圧力で物価が押し上げられる構図が、今後も続くことが想定されるなか、賃上げが進まなければ、家計の購買力は減退していく。
国内景気の持ち直しへの足どりは、厳しい局面を迎えている。

(執筆:フジテレビ 経済部長兼解説委員 智田裕一)