日本列島を襲った“過去最強クラス”の台風14号。
気象庁が「過去に経験したことのないほど危険な台風」と呼び掛けた17日には、中心気圧910hPaにまで発達したと発表されました。

台風の勢力を測るうえで、重要な数値である中心気圧。
気象庁は、衛星画像などを解析し「推定」の数値を発表していますが、最新の技術を使って調べると、かなり誤差があることがわかったのです。その差は、風速の予測が10m近く変わるほど影響を及ぼすという調査結果も。

いったいこの誤差はなぜ生じるのでしょうか?

台風の目の中に突入 最新研究で中心気圧に誤差

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この調査を行ったのは、台風研究に長年携わる坪木和久氏の研究チーム。調査は“台風の目の中”で直接観測するという方法で行われました。

航空機で台風の目に突入し、気圧などを計測するセンサーが搭載されている、特殊な装置を投げ入れ、台風の正確な勢力を直接計測するというものです。

台風科学技術研究センター 坪木和久 副センター長:
私たちは16日と17日に台風の目の中に入って、観測を行ったわけですけれども、16日は測定値のズレが比較的大きくて、一方で17日は良い推定値だったということが分かりました。

ーー台風14号も調査されたということですが、これまでと何か違いはありましたか?

台風科学技術研究センター 坪木和久 副センター長:
これまで私たち「スーパー台風」をいくつか観測してきたんですけれども、今回の台風はその中でも最も中心気圧が低い、もっとも強い台風なので、目の中に入ったときに目を取り巻く雲の構造がしっかりしていて、危険な台風だという印象を受けました。

しかし、坪木氏によると、危険な台風は年々増加傾向にあるといいます。
気候の変動によって変化しつつある「台風の新常識」とはいったいどのようなものなのでしょうか?

スパコンでシミュレーション「未来の台風」とは?

スーパーコンピューター「京」で21世紀末(2075年から30年間)の地球温暖化が台風に及ぼす影響をシミュレーションしたところ、台風全体の発生数は22.7%減少するという意外な結果が出ました。

一方で、「強い台風」の発生数は6.6%増加となり、未来の台風は現在より“少数精鋭”になる傾向があることがわかりました。

台風の新常識①「少数精鋭で、さらなる“凶暴化”」

そもそも台風は、どのように生まれるのでしょうか?

台風の故郷は温かい南の海上。海から立ち上る温かく湿った空気が押し上げられ、台風になるのです。温暖化により、海面温度が上昇すれば、より多くの水蒸気が発生するため、台風も大型・凶暴化します。

実際に2021年に環境省がおこなったシミュレーションによると、気温が2℃上昇した場合、台風の風速は平均2.6m/s増加して、降水量も平均6%増加するということです。

こうした地球温暖化の進行によりあらたにできつつある台風の新常識が「さらなる凶暴化」です。

2017年に「未来の台風」に関するこんなデータが発表されました。
台風の中にある「壁雲」と呼ばれる雲が、より高く、より外側に拡大し、強風域の半径も10.9%程度拡大するという結果がでたのです。

さらに、台風に伴う降水量も、11.8%増加し、台風の平均強度は5%増加するというのです。

台風の新常識②「発生場所が北上」で発生直後に上陸…避難が困難に

さらに、2つ目の台風の新常識として、台風の発生場所が北上してくるといいます。

日本に上陸する台風は主に日本の南の海上、北西太平洋の北緯5度から25度あたりで多く発生します。しかし、2022年は、より日本の近くで発生して台風が増えているのです。

過去10年、日本の近く(北緯25度よりも北)で発生する台風は1年間で平均2個くらいですが、2022年はすでに3個発生しています。台風8号に関しては、発生の翌日には上陸するという近さでした。

発生場所が北上する原因は、海面水温の上昇です。日本近海の平均海面水温を見てみると、2002年8月と比較して、2022年の8月は水温の高い赤い部分が日本の近くまで広がっています。 

日本近海で台風が発生するようになると、どのような影響が出るのでしょうか。

台風科学技術研究センター 坪木和久 副センター長:
急に発生して、短期間で上陸してしまう。ですので、それに対して備える時間が極めて短いということになります。防災等あるいは、避難をする上で大きな障害になる可能性があります。

台風を弱体化「タイフーンショット計画」

「台風の凶暴化」に対抗するため、坪木氏を中心に進められているのが、台風の目の中に氷を投下するなどの最新の台風対策「タイフーンショット計画」の研究です。

これは台風を人為的に弱体化するという試みで、方法はいくつか案があり、例えば、台風の目の中、30kmから50km四方に大量の氷をまくというものなのですが、実現には数々のハードルがあるといいます。

台風科学技術研究センター 坪木和久 副センター長:
何百億トンといった非現実的なくらいの量の氷をまかなければいけないことになると思うんですけど、横浜国立大のセンター長の下に進めているものですが、これは1つの案であって、これからもっと違ういくつもの案を考えてこの先30年くらい先に台風の勢力を弱めることができないだろうかと今考え始めたというところです。

そして、自然現象に人為的な影響を与える懸念について坪木氏は…

台風科学技術研究センター 坪木和久 副センター長:
タイフーンショット計画では倫理的な面、あるいは法的な面、さらに台風が地球に与える影響そういったものを全部含めて調べて、最良の方法を選んでいくというような計画になっています。

坪木氏によると、タイフーンショット計画の実現目標は2050年。氷をまく方法以外にも、雲の性質を変えたり、海面からの熱の供給を少なくしたり、台風が発生した海域の海の上の摩擦を大きくするといった方法を研究しているということです。

年々凶暴化していく台風に対抗するためには、現時点では実現が難しいような計画でも、今から挑戦していく必要がある、と坪木氏は語ります。

(めざまし8「わかるまで解説」9月21日放送)