流域治水とは、激甚化する災害に対応するため、大きな河川だけでなく、小さな支流も含む流域全体を「国」「自治体」「企業」「住民」などあらゆる関係者が一体となり、洪水対策に取り組むもの。
その洪水対策には、「ダムの建設」や「堤防の整備」などが挙げられるが、中でも、大きな効果が期待されているのが「遊水地」だ。
大雨の際、低くしておいた堤防からわざと河川の水をあふれさせ、遊水地に一時的にためることで、下流に流れる量を減らす治水対策の1つだ。

洪水対策となる遊水池整備だが…自宅の移転迫られる人たちも

この遊水地、国は新たに阿武隈川の上流部に位置する3つの町村にまたがる形で、2028年度までの整備を目指している。
大雨などによる洪水対策が期待できる一方で、自宅などの移転を迫られる地権者は約800人。
いま国による説明会が続けられているが、故郷への思いから戸惑う人もいる。

福島河川国道事務所・土田昭夫事業対策官:
遊水地の整備は多くの皆様に移転をいただく、あるいは優良な農地をお譲りいただくなど、生活に大きく影響するものです。国としては補償や代替地の整備の部分、しっかりと対応して参りたいと考えておりますので、皆さまにはご理解いただければ幸いです

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2022年7月下旬、福島・玉川村の住民約40人が参加した住民説明会。

国の担当者が協力を呼びかけたのは、洪水を防ぐために“計画的に水をあふれさせる”遊水地の整備だ。

阿武隈川の上流に位置する福島県の玉川村・鏡石町・矢吹町の3つの自治体が対象で、面積はあわせて約350ヘクタール。
一時的にためられる水の量は、最大2,000万トンと東北で2番目の規模となる。
3年前の東日本台風、国が管理する県内の阿武隈川では、堤防から水があふれる越水が15カ所で確認された。

この遊水地の整備と川の流れをスムーズにする河道掘削をあわせて、同規模の雨が降ったとしても水位を1.7メートル低下、越水をゼロにする計画だ。
効果が期待できる一方、住民からは…

玉川村・​小林一之さん:
とりあえず住む所ないんですよ。「移転しろ」って言われているけど。それを進めてもらわないと先に進めないでしょう

福島テレビ・浅野晋平記者:
田んぼが一面に広がるこの一帯に、遊水地の整備が予定されています。玉川村では、およそ60戸が移転の対象になっています

住民説明会に参加した玉川村の小林一之さん(75)は、遊水地の計画エリアに自宅が位置している。

故郷への思いを割り切れない…移転迫られる男性の葛藤

玉川村・​小林一之さん:
こんな良いところ、なくなっちゃうのは悔しいんですよね、はっきり言って。残したい気持ちもありますし、ここに住むのも水害が心配という2つがあるんですよね。どっちを取るかは難しい所なんで、いつでも毎日悩むんですけども

1930年に建築された自宅は、3年前の東日本台風だけでなく、繰り返し浸水被害を受けていて、住み続けるのは難しいとわかっている。

玉川村・​小林一之さん:
実際ここは3回被害、今まで受けているんですよ。だからここに住むのはキツイなと、今までは年齢的に若かったから元に戻すのもできましたけど、今75歳だから、このあと(水害が)来たらもう無理だって感じはするんですよ

流域全体が1つになり、洪水被害の軽減を目指す「流域治水」の大切さは実感しているが…。
故郷への思いは簡単に割り切ることができない。

玉川村・​小林一之さん:
それ(子どもたち)が一番心残りですね。ここで生まれ育った子どもたちですから、なんとか帰ってくるところだけは、確保したいなというのは思っています

計画エリアに自宅や農地を所有する地権者は約800人。
国は、早ければ2023年4月から工事に着手、2028年度までの完成を目指している。

「代替地を優先して考えてくれないと」…国は年度内に提示する計画

阿武隈川に初めて遊水地が完成したのは2004年、須賀川市だった。
3年前の東日本台風では、260万トンの水を溜め、下流の被害を軽減させた浜尾遊水地。その完成を支えた1人が、地権者だった有我重房さん(82)だ。

浜尾遊水池の元地権者・有我重房さん:
水がどんどん来ると、役所から指示があるんです。扉を閉めてくださいと。私たちは閉める操作をします

現在も水門を管理するなど遊水地と関わり続けている。
約150人の地権者のリーダーとして調整を進める上で、カギを握ったのは”代替地”だった。

浜尾遊水池の元地権者・有我重房さん:
代替地をもらわないと、農業できなくなってしまうという人がいましたので。私たち地権者会として代替地を「大丈夫」「作る」と約束しましたので、地権者の皆さまには、18町歩の要請がありましたので、それを何とか作るから協力してと話しました

そして約束通り、地区内に代替地を確保できたこともあり、ほとんどの地権者が最終的に整備を受け入れた。
阿武隈川の新たな遊水地の計画エリアには、須賀川のケースではなかった住宅も移転を迫られることになるが、有我さんは…

浜尾遊水池の元地権者・有我重房さん:
やっぱり皆の命を守るための施設だと理解して、移転補償を国に求める。これは結束して、皆でちゃんと手を握ってつなぎ合って、そっくり移転するのはむちゃな話だけど。個々にバラバラではなくて、今までのコミュニケーションを大事にして、声の聞こえる範囲に住むような取り組みをしたらいいんじゃないかな。そういう要望をしたらいいんじゃないかと思います

遊水地の計画エリアに自宅が位置し、移転を迫られている玉川村の小林一之さん。
移転を戸惑う要因の1つに、この代替地をめぐる不信感があった。

玉川村・​小林一之さん:
まず、ここに移転しなくちゃいけない人の代替地を優先して考えてくれないと、いくら何でも移転しろと言っても、行くところがない人は移転できないことを分かってもらいたいなと。第一に代替地ですね。もう少し、この住民に即した(形に)。これ全然意見聞いていないですからね。もっとなんかあれば、考えてもいいなと感じます

国は、年内に予定する住民意向調査の結果などをふまえて、年度内に代替地の案を提示する計画だ。

福島河川国道事務所・土田昭夫事業対策官:
今後の検討の状況もふまえまして、随時説明会を開催し、皆さまからいただいた意見を丁寧に返していきたいと考えております

遊水地の完成目標まで6年余り、高齢の地権者にとって移転のハードルは年々高くなっていく。

(福島テレビ)