2022年3月に岩手県が示した、今後発生する可能性がある最大クラスの津波による浸水想定。その想定をめぐり、各自治体は対応を進めている。
このうち釜石市は緊急避難場所の見直しを行ったが、住民からは避難場所の整備が必要という声も上がっている。
東日本大震災から11年半、次の災害にどう備えるか現状を取材した。

「誰一人として犠牲にならない避難」目指す

釜石市で8月23日に開かれた防災会議。

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松原町内会自主防災会・柴田渥会長:
(新たな避難場所は)全然整備もできていない山際で、有事のときはどのような形で避難を進めたらいいか

県や市、地元の自主防災会などの関係者が出席し、県が2022年3月に公表した最大クラスの津波浸水想定を受け、緊急避難場所の見直しについて協議した。
市は当初、東日本大震災での釜石市の津波の浸水域を踏まえ、緊急避難場所を指定した。

しかし、新たな浸水想定では津波の高さは、釜石港で震災の時を3メートル以上上回る、12メートルに達する。市の中心部で、3km以上内陸にまで津波が押し寄せるとする結果が示された。

これを受け、会議では新たな想定で浸水域に含まれる5カ所について、安全を確保できる、より高い場所に変更することを決めた。

 

釜石市・野田武則市長:
誰一人として犠牲にならない避難の在り方を考えていきたい

新たな緊急避難場所の“問題点”とは?

今回、避難場所が変更された地区の一つ、松原地区。
東日本大震災では、川を遡上した津波が青色の部分まで押し寄せた。この時、住民は緊急避難場所になっていた公園に避難した。

しかし、新たな想定ではこの公園が1メートル浸水すると示された。

8月の防災会議で不安を口にしていた自主防災会の会長の柴田渥さん。

松原町内会自主防災会・柴田渥会長:
ここの公園が1メートル以上浸水するという想定。「え?」って(自主防災会の)役員たちは思った

市では緊急避難場所について、奥に100メートルほど進んだ高台に変更することを決めた。

しかし、高台への道は整備がされておらず、足の悪い柴田さんにとって避難は困難で、地区には他にも高齢者の世帯が多いことから整備が必要と話す。

松原町内会自主防災会・柴田渥会長:
道幅・手すりとか、上に着いたときの待機場所とか、雨とかが同時に降ったときにとんでもない大惨事になる気もする

これに対し、市では「整備については今後話し合いたい」としながらも、まずは高い所に逃げることを重視したと話す。

釜石市防災危機管理課・土橋照好課長補佐:
高い所へ避難しないと、自分の命を確保できないという大前提もある。緩やかに避難場所に上がって行ける場所であれば時間はかかるだろうし、メリット・デメリットがある

市は、「公共施設など屋内に避難できる場所が理想だが、緊急避難場所はあくまで一時的なもので、危険が去ったら二次避難する形にせざるを得ない」としている。
これについて、災害を専門とする東北大学の佐藤翔輔准教授は、次の津波が来るかもしれない中で指定が進んだことはよかったと話す。

東北大学・佐藤翔輔准教授:
避難場所として適正な場所は、浸水想定区域外にあることがまず大事。実は指定できる場所というのがごく限られてくる

そのうえで、避難場所の整備は住民が協力して行うことも大切と話す。

東北大学・佐藤翔輔准教授:
地域の避難場所は誰のものかということ。決して行政のためのものではなく、地域に住む皆さんのため、私たちのためのものであるということ。避難場所をきれいに草刈りをしたり、避難路を整備することは、実は住民が協力してやってもいい活動だと私は捉えている

一方で、住民が整備を行う際は、行政側が道具の購入費用の支援などを行う必要があると指摘している。

新たなハザードマップ…住民とともに考える

今回の見直しをめぐり、市では9月末に新たなハザードマップを配る予定。
津波がいつ起きるか分からない状況の中、柴田さんは住民一人一人に新たな避難場所が浸透するよう、市に丁寧な説明をしてほしいと訴える。

松原町内会自主防災会・柴田渥会長:
釜石独自の(避難についての)シミュレーションをした後で、説明をきちんとしてほしい。私は常々運命共同体の町内だと思っているので、そこらへんの認識を改めて持ち合いたいと思う

市では避難場所を変更した地区について、周知を図った上で避難訓練を行うなどしながら改善を進めたいとしている。

釜石市防災危機管理課・土橋照好課長補佐:
どういうふうに避難したらいいのかは、町内会と一緒に津波避難訓練をやっている中で、どこを通って行ったらいいというのを町内会の人たちと一緒になって考えたい

東日本大震災から11年を経て示された新たな浸水想定。被災地では、「いのちを守る」行動について、教訓を生かすための模索が続いている。

(岩手めんこいテレビ)

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