イスラム主義組織のタリバンが、アフガニスタンを支配して1年が経った。国際社会から孤立したこの国では、今何が起きているのだろうか。現地住民と日本で避難生活を送る家族の声を聞いた。

難民キャンプは「政府の土地」 住民に使用料を要求

2021年8月、アメリカ軍がアフガニスタンを撤退すると、タリバンが国を制圧し暫定政権を発足。国民は混乱に陥った。

あれから1年、人々の暮らしはどう変わったのだろうか。

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アフガニスタンの首都カブールで取材するのは、フリージャーナリストの西谷文和さん(61)。西谷さんは20年に渡ってアフガニスタンを取材してきた。

西谷文和さん:
この壁画はタリバンが書いたんですけど、「俺たちはアメリカをやっつけたぞ」と書いてあります

この映像は2週間前、首都カブールの難民キャンプで撮影されたもの。小さな男の子を抱っこしている女の子がいる。

西谷文和さん:
この子、パンツはいてへんな…

中に入ると…。

西谷文和さん:
あ、牛買ってはるわ。結構な臭いしますね

タリバンが支配する前は国際NGOなどから必要な物資が届いていたが、この1年間、支援は滞ったままだ。

難民キャンプの避難民:
雨が降ると家の中に水が入ってくるんだ

西谷文和さん:
屋根がないですね

難民キャンプの避難民:
屋根はタリバンが壊したんだ。タリバンが「ここは政府の土地だから住んではいけない」と壊しに来た

内戦などの影響で居場所を失った人のために前政権が建てたのが、この難民キャンプだった。しかし、タリバンは「政府の土地」だとして住民に使用料を求め、払えない場合は立ち退きを命じている。

西谷文和さん:
これ見てください。子どもたちが食べてるのは、レストランからの残り物を水につけています。水にパンをつけて食べてる…。これしか食べていないの?

難民キャンプの子ども:
うん

西谷文和さん:
野菜やお肉は?

難民キャンプの子ども:
ううん

そう言って首を振った後、パンをおいしそうに食べていた。

野菜や肉は食べていないと話す子供
野菜や肉は食べていないと話す子供

少数民族を迫害し、女性の教育の自由奪う

また、タリバン政権下で少数民族の迫害もより一層深刻になっている。

人口の9%しかいない少数民族・ハザラ人が多く通う学校では、2022年4月、ハザラ人の生徒たちを狙ったとみられる自爆テロが起き、9人が死亡、40人以上が重軽傷を負った。

そして、タリバン政権下の学校では別の問題も…。

女子学生たち(小学3年生):
先生、こんにちは!

西谷文和さん:
勉強を頑張っとるわ

ここで学んでいるのは、小学生の女の子たち。タリバンは彼女たちが中学や高校に進学することを認めていない。

西谷文和さん:
将来の夢は?

女子学生たち:
医者!!

先生が「医者になりたい人?」と聞くと、みんなが手を上げた。

先生:
みんな大きな夢があるみたいだけど…この国では難しいわね

女性たちは、教育の自由さえも奪われていた。

女性たちが失った食べ物・仕事・自由

抗議をする女性たち:
私たちにも公平な権利を!監禁されるのはもう嫌だ!

少数民族のハザラ人で、ジャーナリストのホダ・カモッシュさん(27)。タリバン兵が目を光らせる中、女性の権利を訴える抗議活動を繰り返した。

ホダ・カモッシュさん:
初めてデモをしたとき、35人の女性が集まってくれました。私たちが「食べ物、仕事、自由」と叫び出すと、タリバンは私たちを暴力で阻止し、空に向かって銃を撃ち始めました

その姿がメディアに取り上げられ、ノルウェーで開かれた会合では、同席していたタリバン幹部に「女性は自由を失った」と直接訴えた。

ホダ・カモッシュさん:
タリバンは私が訴えたことを全て否定しました。他の国が参加する会合では、事実を認めたくなかったのです

会合後、ホダ・カモッシュさんはタリバンに自宅を荒らされたことを知り、帰国することを断念した。

ホダ・カモッシュさん:
私は勉強を続けたい。着たい服を着て、笑いたいときに笑って、恋愛も自由にできる。そんな社会で生きたいです。タリバンの奴隷になんてなりたくありません

避難民「平和が戻るまで声を上げ続ける」

アフガニスタンから日本へと避難してきた、少数民族ハザラ人のロキアさん一家。2022年2月から親戚が住む埼玉県で暮らし始めた。

ロキア・アジジさん:
息子に「クラスメートが持っているカバンが欲しい」と毎日頼まれて。今はお金がないから、お金ができたら買ってあげると約束してたの

息子 セイラト・アジジくん:
ランドセル…

ロキアさんは、アフガニスタンでは医師として政府軍の病院で働いていた。しかし、ロキアさんのように、ハザラ人で社会的地位も高い女性はタリバンの標的となり、国を離れざるを得なくなった。

夫 ナジブラ・アジジさん:
貯金、投資、お金、自宅、車、すべてを失った。そんなことは、もうどうでもいいんです

ロキア・アジジさん:
私は子供たちが平和な場所で育ち、将来の夢がかなえられることを願っています

ロキアさんたちを日本へ避難させたのは、大阪を拠点とする支援団体「シナピス」。20年以上、日本に暮らす難民や外国人のサポートをしてきた。

社会活動センター・シナビス 松浦・デ・ビスカルド篤子さん:
2021年8月にアフガン人たちからの「助けてくれ」という声があった。「この女の子だけでも助けてくれ」と連絡があるんです。今も絶えずそう言われてます

6月、ロキアさんは京都市内で女子校に通う生徒たちにこれまでの経験を語った。今自分にできることは、1人でも多くの人に“祖国の声”を届けることだ。

ロキア・アジジさん:
私たちは国を出ようとしたとき、「前に進んだら銃で殺す」とタリバンに言われて、何度も諦めました

高校1年の女子生徒:
私たち子供でもできることはありますか?

ロキア・アジジさん:
私たちの国に平和が戻るまで、アフガン人は声を上げ続けます。日本人の皆さんは、勉強する自由と学校という環境があります。なので、努力してください。未来を支える人として。日本をより良い国にできると信じています

いつか平和を取り戻す日まで…。アフガニスタンの人々は今日も戦っている。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年9月2日放送)

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