夏に現れる細いすじ状の雲『夜光雲』。

この『夜光雲』は、高度85キロ付近と普通の雲よりもずっと高いところにあり、これまでは、もっぱら北極や南極で観測されていた。
ところが、近年、この夜光雲が北海道やパリでも見られるようになったのだ。

2009年7月パリの上空に現れた夜光雲(提供:Spaceweather.com)
2009年7月パリの上空に現れた夜光雲(提供:Spaceweather.com)
この記事の画像(5枚)

大気物理学が専門で第60次南極地域観測隊隊長兼越冬隊長の経験をもつ国立極地研究所の堤雅基さんによると、夜光雲が頻繁にみられるようになったのは、地球温暖化と密接な関係があると考えられているという。

一番左:堤雅基さん(国立極地研究所提供)
一番左:堤雅基さん(国立極地研究所提供)

「二酸化炭素による温暖化現象が進みますと、人の住んでいるところが暑くなりますね。そうなると放射バランスの関係で空の高いところは逆に寒くなるんです。寒冷化です。高い高度の空気の気温が低くなったことで、これまで北極や南極でしか見られなかった夜光雲が、各地でみられるようになってきたと考えられます。つまり、温暖化が進んでいるということが、夜光雲から読み取ることができるのです」

超高層大気では、1年で「1.4度」も低下…

さらに、堤さんの同僚の研究者は、北極の超高層大気の観測から驚くべき傾向をとらえたという。

「夜光雲よりもさらに高い高度の320キロの温度変化を継続的に調べたところ、1年で1.4度の割合で温度が低下していることがわかりました」

つまり、地球温暖化の影響は、地表からはるか離れた上層まで、地球の大気全体に及んでいるというのだ。

日本が誇る高性能レーダー『PANSY』 

しかし、気象の変化はきちんとした観測データを継続して記録しなければとらえることができない。そこで南極・昭和基地に設置されたのが、大型大気レーダー『PANSY(パンジー)』だ。

「これは、1000本以上のアンテナが、1つの大きなアンテナとして、高さ1キロから500キロの風を測ることなどが可能で、日本が世界に誇る高性能レーダーです」

PANSY(国立極地研究所提供)
PANSY(国立極地研究所提供)

PANSYによる観測は、東大、極地研、京大の研究者が中心になって行っており、地表から高い高度まで、大気がどのように流れているのか、それぞれの層でどのような変化が起きているのか調べている。そして、今年の冬から始まる第64次南極地域観測隊でも、地表から超高層大気までの観測を継続してこのPANSYで行う予定だ。

国際協同観測を主導するPANSY

2015年以降、PANSYプロジェクトの代表者である東大の佐藤薫教授の呼びかけにより、PANSYをはじめとする世界各地の大気レーダーが協同し同時に大気の観測を行うICSOMという取り組みが行われてきた。今後、この協同観測で得られたデータを用いた研究が進められていく見込みだ。

また観測だけですべての大気現象をとらえることは難しいため、コンピューターを使った大気シミュレーションも組み合わせた研究が予定されている。コンピューターを用いた大気研究の重要性は、気候変動シミュレーション研究でノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんの成果が示している通りだ。

PANSY(国立極地研究所提供)
PANSY(国立極地研究所提供)

しかし、PANSYは南極観測にとっては例外的に大きなプロジェクトで、メンテナンスや運用面でコストがかかるため、将来的には規模縮小が予定されている。それまでにきれいなデータを十数年にわたって観測し、貴重なデータを将来のために残すことが一番大切なことだと、堤さんは話した。

タイトル画像:海氷を割って進む「しらせ」(国立極地研究所提供)