ある外来生物が原因で、伐採を余儀なくされる大量の木々…。そして、住民を悩ませる不可解な現象。人々の暮らしに迫る外来生物の脅威。その正体を追跡する。
緑豊かな住宅地に異変 なぜ?木の幹に無数の穴
兵庫県神戸市の六甲アイランド。緑豊かで多くの住宅が立ち並ぶこのエリアで、ある異変が起きている。
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川崎晋平 記者:
見てください。こちらの木だけ明らかに他の木と比べて穴だらけです。枯れているような状態であることがわかります
木の幹に無数に空いた穴。六甲アイランドには、他にも穴だらけになって枯れた木が多数ある。なぜこのようなことになっているのか?
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神戸市 自然環境課 岡田篤 課長:
いた!ほぼ間違いないです。ツヤハダ(ゴマダラカミキリ)だと思います
虫取り網で捕まえようとすると…。
神戸市 自然環境課 岡田篤 課長:
あ、入った。奇跡的に入った
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体長約3センチのこの虫は「ツヤハダゴマダラカミキリ」。中国原産といわれ、世界の侵略的外来種ワースト100にも選ばれている。
日本国内初確認は20年前。横浜で見つかって以来、長らく確認されていなかったこの外来生物だが、2021年に神戸の六甲アイランドで大量発生していることが分かったのだ。
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ツヤハダゴマダラカミキリは、木に産みつけた卵から孵化した幼虫が中を食い荒らし、木を枯らしてしまうのが特徴だ。
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幹に空いた無数の穴は、成虫が木の内部から外に飛び出す際にできたものだった。
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神戸市 自然環境課 岡田篤 課長:
木の幹も皮がはがれてボロボロになっていたり、幼虫が食べたような痕もあります。ツヤハダゴマダラカミキリが食害をした木の特徴ですね。放っておくと木が倒れて危ない状況になってしまいます
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木を切るしかないのか…幼虫段階での対策は困難
この虫、ツヤハダゴマダラカミキリには厄介なところがあるという。
森林総合研究所 加賀谷悦子氏:
成虫が出てくる丸い穴が確認されてようやく、これはツヤハダゴマダラカミキリにやられてしまったんだ、と初めて分かる。どの木を守っていけばいいのかが、まず分かりづらい。切る以外の手段も整っていないため、対応が難しいと考えられている
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幼虫の段階では、大きな穴などの目に留まりやすい異変がないため、幼虫がいる木だけを狙って薬剤で駆除するのは困難。気付いた時には、伐採するしかないほど木を食い荒らされてしまっているのだ。
六甲アイランドでは2022年、これまでに被害にあった木を中心に400本以上を伐採した。
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しかし、神戸市の担当者が辺りを少しパトロールしただけで、すぐにツヤハダゴマダラカミキリを発見。
神戸市 自然環境課 岡田篤 課長:
まだまだ、かなりの数がいると思います。きりがないですね…。根絶への道はなかなか長い
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森林総合研究所 加賀谷悦子氏:
外来種というのは、侵入先では病気や天敵が少なくて大変増えやすい。根絶のために重要なことは、エリアのどこで被害が広がっているのかを調べること。スピード感をもって対策に取り組むのが非常に大事
AIアプリを活用 市民と「被害エリア」把握へ
そこで神戸市は、市民の協力を得て被害の範囲を正確に把握しようと、生きものの写真を投稿できるアプリと連携を始めた。
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バイオーム 多賀洋輝氏:
アプリで投稿される写真には、位置や時間の情報が含まれている。赤く示しているところが、ツヤハダゴマダラカミキリが実際に見つかっているところ
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さらなる被害拡大の恐れに、危機感が募る。
神戸市 自然環境課 岡田篤 課長:
今のところは六甲アイランド、東灘の一部にとどまっている状況。どんどん市内全域に広がると樹木や果樹への影響が出てくる。非常に懸念をしているところ
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誰もいないのにインターホンが鳴る不可解現象
生活を脅かす外来生物はツヤハダゴマダラカミキリだけではない。兵庫県伊丹市に住む加藤さんの家では、不可解な現象が数年にわたって起こっていた。
加藤裕一さん:
しょっちゅう「ピンポンピンポン」って鳴りまして。モニター見ても誰もいないし、来てもいないということが続いて。てっきり、いたずらかなと思ったんですけど…
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インターホンを鳴らしていたのは一体なんなのか。
加藤裕一さん:
ドライバーでインターホンの中を開けたらアリがいっぱいで。コードの中にアリがいっぱい入り込んでるという状態
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なんと、正体はアリだった。体長2~3ミリと、国内に生息する主なアリより一回り小さな体で動き回るのは、特定外来生物の「アルゼンチンアリ」だ。
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1990年代に日本に侵入し、全国各地で確認されているこのアリは、今も伊丹市内で大量に発生している。
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アルゼンチンアリが脅威とされる理由は…。
伊丹市昆虫館 長嶋聖大 学芸員:
アルゼンチンアリの恐ろしいところは爆発的に繁殖力があるところ。女王アリを1匹2匹やっつけたくらいでは全く巣に影響がない。駆除が大変で、とんでもない増え方をする
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強い繁殖力をもつアルゼンチンアリ。その小さな体であらゆる所に入り込む。加藤さんの家では、玄関のインターホン以外に風呂場の電気温水器にも無数のアルゼンチンアリが入り込み、ショートして故障した。
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アリとの攻防は時間を問わず続いた。
加藤裕一さん:
個人とアリの戦いですよ、ずっと延々。寝てる時、たまに付いてますから。布団に入り込んできて
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人間vsアリ「防衛ライン」に毒エサ設置
2022年4月には伊丹空港の敷地内でもアルゼンチンアリが発見された。
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放置すると空港内の電気系統に影響を与える恐れもあるということで、伊丹市も対策に乗り出している。
対策の中心となるのは、アルゼンチンアリにとって毒となるエサを置くことだ。地道にも思えるが、これが一番効果的だということだ。
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伊丹市は、生息地域の拡大を食い止める「防衛ライン」を設定した。絶対にこのラインを越えさせないという決意で、定期的にライン上に毒エサを設置している。
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「人間対アリ」の闘いが続く。
伊丹市 みどり自然課 高津一男 課長:
職員は週に数日は来てます。アルゼンチンアリはかなり移動するスピードが速く、危ないと感じたら巣ごとすぐ移動してしまう。完全に叩き潰す前に先に移動してしまって、安全なところへ逃げている可能性がある。なかなか先が見えないというか、根絶は難しいというのが実感としてある
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「しょせんはアリ」と高をくくっている間に根絶が不可能になるほど増殖し、人々を困らせるアルゼンチンアリ。駆除のためには覚悟が必要だと専門家は指摘する。
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兵庫県立大学 橋本佳明 特任教授:
アリと人間が消耗戦をやったら人間は負けます。彼らは”スーパーな生き物”です。社会性でどっちが優れているかという、とアリのほうが絶対優れている。人間はみんなで協力しないと駆除できない。諦めたらもう負けですよ
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あなたの街にも潜んでいるかもしれない外来生物。その対策は困難を究めている。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月4日放送)