6月19日に能登地方で最大震度6弱を観測する地震、8月4日には加賀地方で記録的豪雨と、石川県では自然災害が相次いでいる。

尊い命が奪われることはなかったが、それでも突然、住み慣れた我が家や手塩にかけた農作物に被害があった人たちの気持ちは、いかほどか…。真の生活再建に向け、私たちができることは何か?「こころ」の専門家に聞いた。

時間の経過によって上下する 被災者の「こころ」の波

教えてくれたのは、小児から高齢者まで年間約16000人の患者が訪れる金沢大学附属病院・神経科精神科の菊知充(きくち・みつる)教授だ。

金沢大学附属病院・神経科精神科の菊知充教授
金沢大学附属病院・神経科精神科の菊知充教授
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金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
家や農作物など目に見える被害とは違って、心の傷は見えない分、つい見過ごされがちです。被災者の一般的な心の変化を時間の経過とともに表したグラフがあります。まず、災害が起こってから数時間は誰もがショックを受け、「ぼう然自失」の状態となります。具体的には思考や感情の麻痺、気分の落ち込みや不安、動悸や血圧の上昇などの症状が見られます。

被災直後は「ぼう然自失期」で、心は「消極的・抑うつ的」に…
被災直後は「ぼう然自失期」で、心は「消極的・抑うつ的」に…

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
その後、積極的に問題解決のために立ち上がろうとしたり、強い使命感や精神的な高揚感を抱いたりします。その時期は「ハネムーン期」といわれています。

生活再建に向け奮起。気持ちは高揚し「ハネムーン期」と呼ばれる時期に
生活再建に向け奮起。気持ちは高揚し「ハネムーン期」と呼ばれる時期に

石川テレビ取材班:
加賀地方が記録的豪雨に見舞われて1週間が立ちました。地域の支えで、多くの被災者が勇気づけられているのではないですか?

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
実は、1週間が経過した辺りから注意が必要なんです。この頃は積極的になった分、疲れもたまってくる時期です。少しずつ過労やストレス、これまで抑えてきた感情などで、心身の不調が起こりやすくなる時期に入るんです。

積極的になった分、心と体に反動も…。
積極的になった分、心と体に反動も…。

「ハネムーン期」に起こる心身の不調 対処法は

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
具体的に不調の例をあげると、頭痛や腰痛、不眠の問題等が生じたり、不安や抑うつ感、喪失感を感じたりします。

心が見えないからこそ、気をつけたい体の不調
心が見えないからこそ、気をつけたい体の不調

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
他にも、しばしば恐怖感が蘇ったり、アルコール関連の問題が起こりやすくなったりする時期にあたります。

心や体のSOSかも…
心や体のSOSかも…

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
特に強い恐怖を体験した場合に「被災状況を繰り返し思い出す」「感情が麻痺する」「眠れない」などの症状が出る場合は、「急性ストレス障害」の可能性がありますので十分ご注意ください。

強い恐怖を体験した場合は「急性ストレス障害」の可能性も考えておきたい
強い恐怖を体験した場合は「急性ストレス障害」の可能性も考えておきたい

石川テレビ取材班:
被災した人たちのために、私たちができることはありますか?

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
3つのポイントを覚えておいてください。1つ目は「そばにいてあげる」。いたずらに話しかける必要はありません。被災者のそばに寄り添っているだけで、大きな安心感を与えることになります。

こころのケアのポイント①「そばにいてあげる」
こころのケアのポイント①「そばにいてあげる」

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
2つ目は「受け止める」。被災者が話したい話を、静かにうなずきながら聞いてあげる。怒りや悲しみの感情には同意や反論をせず、耳を傾ける。これまで抱え込んでいた気持ちを表に出す手助けをしてあげてください。

こころのケアのポイント②「受け止める」
こころのケアのポイント②「受け止める」

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
3つ目は「押し付けない」。ほとんどの被災者は、自然と心を回復させていきます。優しく寄り添いながら、その過程を見守ってください。

こころのケアのポイント③「押し付けない」
こころのケアのポイント③「押し付けない」

災害では支援する側にも”意外な落とし穴”

石川テレビ取材班:
これは支える方も、ストレスがかかりそうですね?

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
そうなんです。被災地ではこれまでも、援助者の「燃え尽き症候群」も問題となっています。相手に求められるまま、際限なく努力をし続けてしまう。その結果、自分では気が付かないうちに身体的・精神的負担がかかり、ある時突然、燃え尽きてしまう状態です。

支える人も、心と体を大切に
支える人も、心と体を大切に

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
援助する皆さんも、完璧を求めすぎず、自分の心と体をくれぐれも大切にしてほしいと思います。

金沢大学附属病院・神経科精神科 菊知充教授:
被災者の心の回復には、時には年単位の長い時間がかかります。焦らず、ゆっくりと寄り添いながら、地域の復興と共に心のケアをしてほしいと思います。

(石川テレビ)

記事 306 石川テレビ

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