国の指定難病である「筋強直性ジストロフィー」は、遺伝性の筋肉の病気だ。近年、発症のメカニズムの研究が進んでいるが、まだ根本的な治療薬はない。
この病気の患者で、医師でもある四国中央市の男性が未来に見つめる光は…。国内で進む治療薬開発の現状を追った。

根本的な治療法がない「筋強直性ジストロフィー」

明地雄司さんは医師であり、国の指定難病でもある筋強直性ジストロフィーの患者でもある。

「筋強直性ジストロフィー」の患者でもある明地雄司さん
「筋強直性ジストロフィー」の患者でもある明地雄司さん
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明地雄司さん:
手が開かない…

この筋強直とは、筋肉の一種のこわばりのことで、手を強くギュッと握ると、その後すぐに指が伸ばせず、スムーズに手を開けない症状が見られる。10万人に8人ほど発症するとされ、大人では最も多い遺伝性の筋肉の病気だ。
そして、その根本的な治療法はまだない。

ゆっくりと進行する病状を観察するため、明地さんも定期的な検査を欠かさない。

明地雄司さん:
呼吸の機能が悪くなっているので、それは今後不安にはなりますけど、悪くなっているっていうのが分かっているのが大切なので、だから今後も定期検査が必要だなと感じました

筋強直性ジストロフィーの発症のしくみは、遺伝子にさかのぼる。
私たちの体を作る60兆個もの細胞は、人の体を作るために必要なタンパク質の製造工場ともいえる。このDNAの中にあるのが、タンパク質を作るための設計図となる遺伝子情報だ。
筋強直性ジストロフィーの患者は、この設計図の一部が変形していて、ここに筋肉になるよう制御する役目の物質を必要以上に取り込んでしまう。

このため、正常な設計図に制御物質が回らず、筋肉にとって必要なたんぱく質を作れなくなってしまうという。

“難病”と診断され…研究に携わるため医師に

明地雄司さんの日記:
2008年8月16日、特にとても運動したあと、症状大きくでる。おれもたぶん筋ジストロフィーだ。将来どうしよ…

明地さんは、大学院生だった24歳の時にこの病気だと診断された。

明地雄司さんの日記:
告知! 170リピート(注:遺伝子情報の伸びを示す数値)まー、仕方ない。残念だけど仕方ない

受けとめるには過酷すぎる現実。それでも治療・研究に携わりたいと医学部に編入し、医師になった。

明地さんに出会って5年。明地さんは研修医を経て、四国中央市の総合病院で内科医として勤務している。

明地雄司さん:
7年間医者として経験積んで、やっと当初目指した所まできたなという感じがするんですね

明地さんは医師として働く傍らで、筋強直性ジストロフィーの情報発信や、患者とその家族を支援する患者会の活動にも力を注いでいる。

明地さんは筋強直性ジストロフィー患者会の活動も行っている
明地さんは筋強直性ジストロフィー患者会の活動も行っている

明地雄司さん:
(英語で)患者が筋強直性ジストロフィーについて、よく知っているほど、良い人生が送れると思います。(日本語で)もうちょっと間を空けてもいいかな

英語のオンラインレッスンの講師:
でもすごくいい調子です

英語のスピーチは、この病気の世界中の研究者や患者団体、製薬企業らが参加して開かれる国際会議に出席するためのもので、明地さんは会議で日本の患者会の活動や目標を英語で報告する。

明地雄司さん:
患者会に参加する人も多くて、日本でも治験ができるような準備ができてるので、世界の人たちとみんなで力をあわせて、DM(筋強直性ジストロフィー)の治療を変えていきましょうと

6月に大阪で開かれた国際会議は、コロナ禍の中、オンラインも含めて20カ国から約300人が参加して開かれた。日本をはじめ、世界中の研究者から最先端の治療や研究が次々と報告される。

明地雄司さん:
DM-family(筋強直性ジストロフィー患者会)は、2016年に次のような目標を掲げて設立しました。患者として筋強直性ジストロフィーの研究に協力すること。患者と家族に筋強直性ジストロフィーの正しい知識を提供すること。広く一般の人々に筋強直性ジストロフィーについて知ってもらうことです。患者が筋強直性ジストロフィーについてよく知っているほど、良い人生が送れると信じています

スピーチで明地さんは、患者自身も病気への知識と理解が必要だと世界に向けて訴えた。

患者情報が増えることで新薬認可の可能性も

今はまだ根本的なこの病気の治療薬はないが、世界中で創薬の研究開発は進んでいる。
それは日本でも。

大阪大学の中森医師をはじめとする研究グループは、すでに他の病気の治療薬として認可されている薬にこの病気への有効性を見いだし、研究を進めている。

大阪大学大学院 特任准教授・中森雅之医師:
正常の方と患者さんから細胞、大事な遺伝情報が入っている部分を注目した顕微鏡の写真になります

正常な細胞には、筋肉になるよう制御する物質が緑色に分布している。
一方、筋強直性ジストロフィー患者の細胞の中で、異常に折れ曲がった設計図を赤く染めたものには、周りに筋肉になるための緑色の制御物質はほとんどない。
これは、制御物質が赤く染めた異常な設計図に絡め取られているからだ。

大阪大学大学院 特任准教授・中森雅之医師:
赤の塊にMBNLというたんぱく質が絡め取られないようにということが、主たる作用に

中森医師たちの研究は、この折れ曲がった設計図を薬でブロックすることで、過剰に制御物質を取り込むのを防ぎ、正常な設計図がたんぱく質を作るのを邪魔しないようにするというもの。

薬が認可されるまでには、人での安全性や有効性を確認する「治験」と呼ばれる3段階の臨床試験工程がある。
中森医師らが研究するこの薬は今、この治験の最中だという。

大阪大学大学院 特任准教授・中森雅之医師:
治験第2相が終わったという所です。これから実際に集めた結果を統計学的に解析しまして、(薬を)お飲みいただいた患者さんに実際効果があるかどうかをしっかり調べて、次の第3相、次のステップにつなげたいと考えています

この治験の第2相は、実際に患者に投与して行う。
ここに立ちはだかる問題が、治験に協力してくれる患者の確保だ。

大阪大学大学院 特任准教授・中森雅之医師:
そういう希少疾病に対する治験をする時に、一番ネックになるのが、患者さんがなかなか集まっていただけない、ご参加していただけないという点があって

大阪大学大学院 特任准教授・中森雅之医師:
ただ、今回は患者さんの登録システム「レムディ」を通して参加のご案内をさせていただいたので、かなり順調に、こちらが当初想定していたスピードをかなり上回る速さでご登録を頂いています

筋強直性ジストロフィーには、患者の病状などをデータベース化する任意の登録制度があり、現在、全国から1,151人の患者の情報が登録されている。

登録患者が増え、データが増えることは、海外の製薬会社が行う治験への参加のチャンスにもつながるので、国内で新薬認可の可能性も広がる。

明地雄司さん:
今回の学会で、だいぶ将来への希望が持てるような話を聞けたかなと思います

明地さんは現在、医師として、自分と同じ筋強直性ジストロフィーの患者6人の診察を担当している。
患者として、医師として、自らに課した使命に日々向き合っている。

明地雄司さん:
共に筋強直性ジストロフィーの未来を変えましょう

(テレビ愛媛)

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