5月、静岡市の動物園で、人気者のゾウが死んだ。残る1頭も高齢で、このまま新たなゾウを輸入できなければ、動物園ではゾウが見られなくなる。市長は選挙公約で輸入を掲げたが、交渉が難航しているという。その原因は皮肉にも、相手国タイの総選挙だという。
50年間動物園を盛り上げたゾウ…人気者が死んで募る不安

静岡市駿河区の日本平動物園。2022年5月にメスのゾウ「シャンティ」が老衰のため死んだ。

献花台は、シャンティを惜しむ手紙お花であふれた。動物園で50年以上にわたり、多くの来園者に愛されてきた証だ。

来園客は、「私も小さい頃からたびたび訪れて見てきたので、すごくさみしい」とシャンティの死を悼んだ。

シャンティは1歳だった1970年、インドのマイソール州から、親善大使として来園。もう1頭のメスのゾウ「ダンボ」とともに、季節の行事などで動物園を盛り上げてきた。
動物園にとって、ゾウは欠かせない存在だ。
日本平動物園・竹下秀人 園長:
動物園の“顔”ですよね。子供たちにとってもゾウ・ライオン・キリンは動物の王道で、大変人気のある動物で。これまで日本平動物園を支えてきてくれたと思っています

残されたダンボも50歳を超える高齢で、このままでは日本平動物園でゾウが見られなくなる恐れもある。
市長は選挙公約も“輸入”は難航

動物園を運営する静岡市の田辺信宏市長は、ゾウの輸入を選挙公約に掲げ、2017年からゾウの原産国であるタイと話し合いを重ねてきた。しかし、交渉は難航している。
静岡市・田辺信宏 市長:
ワシントン条約で採択された動物愛護・福祉の観点から、絶滅危惧動物の導入が困難な時代になってきています

静岡市はゾウが群れで暮らす動物である点をふまえ、4頭の輸入を希望している。一方でタイ政府は、ゾウの輸出を1年に2頭以下と制限している。
日本平動物園の竹下秀人園長は、「それぞれの国の事情あるなかで誠意をもって交渉してきましたが、現状では進捗はありません」を肩を落とす。
選挙前でタイ政府も国民に配慮か すれ違う両国の考え
交渉難航には、さらに、タイ側の政治的な事情もあるという。

バンコク特派員・池谷庸介記者:
タイでは、ゾウの輸出に向けた交渉は停滞した状態が続いていて、先行きの見えない状況です
ゾウの輸出を担当する当局の幹部は、「タイの今の政治状況が輸出を難しくしている」と説明する。
タイ当局幹部:
2022年に交渉が進展することはない。現在の政権が続くうちは何も進まないと考えた方がいい

2023年3月までに行われる予定の、タイの総選挙。それより前に、タイ政府があえて交渉を進めることはないと話す。
その理由は、タイの人たちに聞いてわかった。

タイ人女性:
ゾウのためには自然の環境と広い敷地が必要だ
別のタイ人女性:
ゾウは自然の中で生活していた方がいい。もし商業的な目的だったらOKとは思えないし、ゾウたちに申し訳ない

ゾウの輸出を懸念する市民の声は少なくなく、動物保護団体の反対も根強い。総選挙を前に、政府が、国民の反対が強い政策を進める姿勢はみられない。
そしてゾウには自然に近い環境で暮らしてほしいというのが、タイ側の考えだ。
ゆったり新ゾウ舎を計画も…交渉進まず建設めど立たず
一方で静岡市はゾウを迎え入れるため、日本平動物園に新しいゾウ舎の建設計画を進めている。

日本平動物園・竹下秀人 園長:
計画地として考えられている所が、池とレストハウスと駐車場の部分です
1頭につき十分な広さを確保するため、現在ある施設の一部を飼育スペースに、また池の一部を水場として利用する計画だ。総面積は現在の約10倍の7500平方メートル、ゾウ舎は2500平方メートルになる予定で、建設費には約30億円が見込まれる。
しかしゾウの輸入の交渉に進捗がなく、ゾウ舎の建設を始める目途も立っていない。

静岡市・田辺信宏 市長:
最善を尽くしたい。但し難しいということはご承知おきください。交渉の相手が要望することに寄り添う形で考えていかなければならない
来園客からはこれからもゾウが見たいという声が聞かれた。
来園客:
ゾウがいるのは子供たちの夢ですからね。もし新しく若いゾウが来てくれたら、ここ(日本平動物園)も良くなると思う

別の来園客:
仲間が増えてほしい

動物園は早期のゾウ輸入に向けて、タイ以外の原産国についても調査を進めている。ミャンマーに話を持ち掛けたが、軍事クーデターで交渉は凍結してしまったそうだ。
日本平動物園・竹下秀人 園長:
動物園にとってゾウはなくてはならない動物だと思います。一方で我々のわがままだけではなく、原産国に寄り添った形で先方の意見も反映させながら交渉を進めていくべきだと思います
進まないゾウの輸入交渉。先行きが見えない状況から、一歩抜け出すことはできるのだろうか。
(テレビ静岡)