岸田首相は10日、シンガポールで行われるアジア安全保障会議に出席し、基調講演を行う。日本の首相が基調講演を行うのは、2014年の安倍首相(当時)以来。
岸田首相は、中国の海洋進出やロシアによるウクライナ侵攻が続いている国際社会の現状を、「歴史の岐路」と位置付け、日本が果たすべき役割について語り、地域の防衛協力の強化を訴える見通しだ。
各国の防衛閣僚が一堂に…アジア安全保障会議
アジア安全保障会議は、毎年、アジアや欧米の防衛閣僚らが一堂に会する会議で、開催されるシンガポールのホテルの名前にちなみ、「シャングリラ・ダイアローグ」の通称で知られる。
新型コロナウイルスの感染拡大で、去年まで2年連続で中止されていたが、今年は10日~12日の日程で開催される。
初日に岸田首相が基調講演を行うほか、米国のオースティン国防長官や中国の魏鳳和国務委員兼国防相も講演する予定だ。
また、各国の防衛閣僚が集うことから、個別の会談を行うのも絶好の場であり、今回も、日米韓防衛相会談や日中防衛相会談、米中防衛相会談などが予定されている。
会議の幕開けを飾る岸田首相の基調講演。政府関係者は、「各国はニューリーダーが何を語るのかを注目しているのだろう」と述べた。
取材で判明した講演の概要からは、地域の防衛協力の強化を訴えたい姿勢が見えてくる。
力による現状変更の試み「対岸の火事ではない」
岸田首相が約30分の基調講演で訴えるのは、国際社会におけるルール遵守の重要性だ。
ロシアによるウクライナ侵攻について、「決して『対岸の火事ではない。全ての国々が『我が事』として受け止めるべき、国際秩序の根幹を揺るがす事態だ」と強調する。
さらに、中国の海洋進出の試み、北朝鮮が今年に入りかつてない頻度で弾道ミサイル発射を繰り返していることなどを挙げ、「問題の根本には、国際関係における普遍的なルールへの信頼が揺らいでいる状況がある」と指摘する。
地域の防衛協力へ「平和のための岸田ビジョン」
国際社会の平和を実現するために日本が果たすべき役割は何か―。
岸田首相は、5本柱からなる「平和のための岸田ビジョン」を進めることで、日本の外交・安全保障面での役割を強化していくことを明らかにする。
1. ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の強化
2.安全保障の強化
3「核兵器のない世界」に向けた現実的取組の推進
4.国連安保理改革など国連の機能強化
5.経済安全保障など新分野での国際的連携の強化
「ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の強化」については、新たに「平和のための『自由で開かれたインド太平洋』プラン」を来年春までに策定することを表明する予定だ。
地域の防衛協力強化の取り組み
さらに、安全保障の強化については、「日本自らの防衛力の抜本的強化」や「日米同盟」に加え、「有志国との安全保障協力」を強調する。
地域の安全保障上、関係を重視する豪州との協力に加え、ASEAN(東アジア諸国連合)各国との間で、「防衛装備品・技術移転の締結を進めるとともに、ニーズに応じた具体的な協力案件を実現していく」などと述べる。
実際に、講演翌日の11日に行われるシンガポールとの首脳会談で、防衛装備品・技術協定の締結に向けた交渉を始めることで合意する見通しだ。
岸田首相の訴えが各国に伝わるか
政府関係者は、「首相の打ち出すビジョンについて、他国がそれをどう評価するかだ」と指摘する。
参加国によって、安全保障上の姿勢が異なる中、日本の主張を広く伝えることができるのか。岸田首相の言葉に注目が集まる。