防衛省がアメリカ軍の訓練移転計画を進める、鹿児島・西之表市の馬毛島(まげしま)問題。
強力に計画を推し進める国と、賛否が割れる市民感情のはざまで、西之表市の八板市長は今、何を思うのか?

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かつて国防の波に翻弄された、山口・岩国市の元市長の証言もふまえ、馬毛島問題の未来を考える。

住民が戸惑う中で進む計画…「馬毛島」問題

種子島の西、12kmの海上に浮かぶ無人島「馬毛島」。アメリカ軍の空母艦載機の離着陸訓練が計画されている。
防衛省は、2021年の暮れから計画を急激に推し進め、これまで「整備候補地」としていたものを「整備地」と発言。現職の防衛大臣として初めて、岸信夫防衛相が馬毛島を視察したほか、2022年度中には基地整備のための工事に入りたいとしている。

5月10日に西之表市では、騒音や生態系への影響を国が調査した環境アセスメントの「準備書」の説明会が開かれた。

住民:
訓練が行われて、記載通りでなかった場合は、どう防衛省は責任を取るのでしょうか

「訓練による影響は限定的」と説明する国に対して、住民からは質問が相次いだ。
説明会に参加した鎌田孝章さんは西之表市でプログラマーとして働いていて、アメリカ軍の再編交付金が町の振興につながるとして、計画に賛成の立場。

鎌田孝章さん:
「商店街が大変だ」「商売が大変だ」という話をよく聞きますから、振興のきっかけになるのであれば良いのではないか

しかし、性急に計画を進める防衛省には複雑な思いを抱いている。

鎌田孝章さん:
ちょっと強引だなとは思う。反対の人たちとあまり話し合う機会もなく、どんどん進んでいるので、分断の解消という点からすると非常に難しくなったと思います

目まぐるしい国の動きに住民からも戸惑いの声が上がる中、市政のかじ取り役・八板俊輔市長が鹿児島テレビの単独インタビューに応じた。

計画に反対だった市長が明言避けるように…一体何が?

当初、計画に反対の立場だった八板市長。
しかし、2022年2月。

西之表市・八板俊輔市長:
この問題の賛否や同意の可否を述べるのは、適切ではないのかなと

八板市長は、再編交付金に配慮を求める要望書を防衛省に提出し、賛否について明言を避けるようになった。

西之表市・八板俊輔市長:
今も思いというか、考えは変わってはいないんです

「考えは変わっていない」としながらも、賛否について言えないのはなぜなのか?
西之表市同様、かつてアメリカ軍の移転計画をめぐって翻弄された町を訪ねた。

山口・岩国市。アメリカ軍の岩国基地があり、戦闘機の音が街中に響いている。基地を見つめるのは、14年前まで岩国市長を務めた井原勝介さん。井原さんへの取材中も、基地周辺には耳をつんざくような戦闘機の音が。

岩国基地に、アメリカ軍の空母艦載機約60機を移駐する計画が浮上したのは、市長時代の2005年。
この計画に反対していた井原さんは、計画の賛否を問う住民投票を行った。
反対87%。示された民意をもとに、井原さんは防衛省に計画反対を訴えた。
しかし、国は市の新庁舎の補助金を凍結するなど、強硬な姿勢を示したという。

元岩国市長・井原勝介さん:
庁舎が建たないのではということで、市民の間に具体的に30数億というお金をめぐって対立が起こった。地域を分断する、大きな1つのきっかけになりました

その後、井原さんは計画容認の現市長に敗れ、空母艦載機も岩国基地に移駐された。
井原さんは自分自身の経験を踏まえ、賛否を口にしなくなった八板市長の心中を推し量った。

元岩国市長・井原勝介さん:
(防衛省に)途中で言われたのは、「少なくとも反対と言わないでくれ」と。「そうすればお金を出すから」と。防衛省との協議の中で事実上認めてしまえば、外に発表しなくてもお金が出るということになりますから、今後、馬毛島に関して再編交付金の交付が決定されて出るかどうか、今年度に出るかどうかがポイントだと思いますね

「最善の選択」に向け…糸口を見いだせるか

当の八板市長は…

(Q.反対というと交渉の場につけない?)
西之表市・八板俊輔市長:
いろんな表現があると思うが、市長としては、やはり取るべき態度はしっかりしたものをふまえて発言しないといけない

(Q.市長が道しるべを示すことも大切だと思うが?)
西之表市・八板俊輔市長:
西之表市として最善の選択をする。最善の選択をするための環境作りというか、条件作りを今やっている

八板市長が何度も口にした「最善の選択」とは何か。
明確な答えが返ってこない中、馬毛島計画は刻一刻と進んでいる。

(鹿児島テレビ)

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