鹿児島でも年々増加する児童虐待。2019年には県北部の出水市で当時4歳の女の子が死亡した。この事件をきっかけに、県内では児童虐待に関する取り組みが大きく動き始めた。ある自治体の取り組みから見えてきたこととは…。

体中に100超の傷…心理的虐待の相談も増加

鹿児島県内唯一の法医学者、鹿児島大学大学院の林敬人教授。法医学者は警察から依頼された遺体の司法解剖をしたり、児童相談所から依頼を受けた子どもの傷を見て、故意につけられたのかどうかを見分ける。

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林教授は、ある女の子についてこう話した。

鹿児島大学大学院・林敬人教授:
全身に瘢痕(はんこん)と呼ばれる傷痕が山ほどある。首元にも引っかかれたような痕がある。もしかしたら昔、首を絞められたりとかそういう行為があったかもしれない。背中の真ん中なんて10cmぐらいの擦り傷がある。自分でかくのは無理じゃないですか

100を超える体中の傷は親から受けた虐待の痕と判断された。女の子はその後、保護されたという。

近年、鹿児島県内では児童虐待の相談件数が増加し続けている。2020年度に児童相談所や市町村に寄せられた相談は3500件に迫り、種類別では心理的虐待の相談が最も多く、次いで身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)となっている。

そんな中、県内でも特に虐待の相談件数が多い霧島市が、2022年4月から新たな取り組みを始めた。市の職員で、児童虐待の相談や虐待を受けた子どものケアを行う松下俊一さんに聞いた。

1人でも多くの子供を救うため 虐待に迅速対応

井上彩香アナウンサー:
実際に保護された子どもと対面してどういう声をかけるんですか?

霧島市こども・くらし相談センター 松下俊一さん:
まずは「つらかったね」とか、共感してあげることしかできないです。なんて声かけていいんだろうと非常に迷います。小さな子たちは無邪気なので、逆にこちらが勇気づけられることもあります

鹿児島県内の自治体では通常、虐待の相談が教育機関などから寄せられた場合、児童相談所に連絡する。その後、児童相談所が主体となって子どもを保護するかどうか判断し、場合によっては法医学者に傷の鑑定を依頼することもある。

しかし、霧島市は虐待の相談があって判断に迷う場合は、直接、法医学者に専門的に見てもらうことにした。スピード感をもって児童虐待に対処することが狙いだ。

霧島市こども・くらし相談センター 松下俊一さん:
鹿児島大学の法医の林先生と連携して、法医の力があれば素人では分からない傷やあざの原因が解明できるのかなと。その鑑定を市単位で行うことができれば、1人でも多くの子ども達が救えるのではと思います

「救えた可能性はある」悔恨の思いを教訓に

全国でも例がない取り組みを始めたのにはきっかけがあった。

霧島市こども・くらし相談センター 松下俊一さん:
二度とああいう悲惨な事件を繰り返さないために、自分たちができることをしっかり考えないといけないと思った

2019年、鹿児島県出水市の自宅の風呂場で、当時4歳だった大塚璃愛來ちゃんが死亡した事件。璃愛來ちゃんの死後、児童相談所が母親のネグレクト(育児放棄)を事前に認定していたこと、児童相談所・警察・自治体の連携不足などが次々と明らかになった。

県が立ち上げた第三者委員会は、虐待と死との因果関係は結論づけなかったが、各機関の連携が取れていれば「救えた可能性はある」とした。その璃愛來ちゃんの司法解剖を担当したのが林教授だった。

井上彩香アナウンサー:
先生が璃愛來ちゃんに初めて対面できたのが、この解剖室だったということですか?

鹿児島大学大学院・林敬人教授:
そうなんです。警察から3回ぐらい保護されているという噂を聞いていたので、なんで3回のうち1回でも僕を呼んでもらえなかったのかと。ご遺体に会ってからかと、非常に悔しかったですね

璃愛來ちゃんの遺体には多くの傷があったという。

鹿児島大学大学院・林敬人教授:
転んでできるような傷じゃないものが体中、いろんな場所にあった。一目で僕は虐待を疑いました

「虐待を受けている子どもをこれまで見過ごしていたかもしれない…」。松下さんは、この事件をきっかけに法医学者の林教授に協力を求めることにした。

霧島市こども・くらし相談センター 松下俊一さん:
今後、児童虐待に対応する上で法医の存在は必要不可欠だと個人的に思っている。この仕組みが各地域に広がっていくことができればいいのかなと

鹿児島大学大学院・林敬人教授:
これからこの制度がうまく機能していけば、児童相談所に保護されないけれども苦しんでいるお子さんたちを助けられる。虐待を予防するのはなかなか難しいが、虐待死は予防できるだろうと

自治体と専門家の協力体制が、新たなモデルケースとなるのか注目される。

もし周りで虐待が疑われる子どもを見つけたら、また自分が虐待を受けていたら、通話無料の児童相談所虐待対応ダイヤル「189番(いちはやく)」に電話してほしい。

(鹿児島テレビ)

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