土石流に襲われた静岡・熱海市にカフェがオープンした。店内は復興を願うメッセージであふれている。
自宅を離れて避難生活が続く住民たちの交流拠点として立ち上げたが、観光客との“出会いの場”にもしたいと願う。建設資金を応援してくれた全国の皆さんに、“お返し”をしたいからだ。
つながりを取り戻したい
2022年4月10日、熱海市伊豆山地区で小さなカフェがプレオープンし、店内には笑顔があふれていた。

中野裕基店長:
やっと人が大勢入るようになって、今まで工事風景しか見ていなかったので、ちょっと安心した部分もあります
2021年7月、この伊豆山地区を大規模な土石流が襲った。関連死を含め27人が亡くなり、依然行方不明となっている女性の捜索が続いている。建物の被害は132棟にのぼり、102世帯193人が故郷を離れ、避難生活を送っている。(2022年4月現在)

地区の住民が減り、これまで築いてきた住民同士のつながりも薄れつつあるという。人とのつながりを取り戻し、傷ついた心を癒してもらいたい。こうした願いを込めて、交流場所として誕生したのがこの小さなカフェだ。
全国からの善意が後押し
カフェを企画したボランティア団体「テンカラセン」の高橋一美代表に、2022年1月取材した。
テンカラセン・高橋一美代表:
(カフェを作る思いは)この災害を通して人が離れてしまったと感じていたので、人と人とが交じり合える場所、戻ってこれる場所があったらいいなと思い、そんな場所にしたくて

高橋さんは災害直後から自宅で孤立していた高齢者に弁当を運ぶなど、人と人とをつなぐ活動をしてきた。活動の中で人のつながりの大切さを痛感したことで始めたのが、この交流の拠点づくりだ。

高橋代表:
今まで隣近所で話をしていた人たちが環境を奪われたので、その環境だけでもせめて先に戻してあげて、ここに来れば誰かと話せて、誰かと癒しあえるような、そんな言葉が交わせる場所にしたいなと思ってます
カフェが設置されるのは、集会所なども備えた地元の「浜会館」の4階。広さ約20坪の空きスペースを活用した。
高橋代表:
まだガレキの山ですけど、こちら側を海辺が一望できるようにして、イスを置いて

相模湾を一望できるおしゃれなカフェ。資金はクラウドファンディングを利用し、全国314人から目標額450万円を上回る490万円の支援が寄せられた。

3月下旬には何もなかったスペースに、カウンターや厨房機器などが入り、半月後のオープンを見据えて急ピッチで工事は進んだ。
子供も参加…壁には復興応援メッセージ
土石流発生から9カ月の4月3日。高橋さんたちは被災後、毎月3日に黙とうしている。

カフェのオープンまであと10日余りとなった。店長を務める中野裕基さんも気が引き締まる。
中野店長:
僕一人では無理なんで協力してもらいながら、まだ完成はしてないんですけど、気を抜かず進めています
高橋代表:
ワクワクしてきた。あとはなんか皆さんに来てもらえる店になってるのか、ちょっと不安もあります
内装はほぼ完成し、閉館したホテルから譲り受けたイスなども入った。体が不自由な人のために、階段には昇降装置が設置された。

中野店長:
高齢の方と障がい者の方でも店に入って来られるように付けました。下で昇降機に乗り換えても、車イスを上に運ぶのが大変なので、上ではこの車イスを使ってもらって、お店の中を楽しんでいただけたら
地元の子供たちも壁の仕上げに参加した。

参加した子供:
明るくなるよう花を描きました
復興を応援するメッセージが書かれた木のコースターが、壁一面に飾られた。

高橋代表:
みんなの思いが一つになる場所がなかったので、年末に(コースターに)書いてくれたメッセージがカフェに飾られ、みんなが見られる。うれしいですよね
出会いを大事に…“あいぞめ”珈琲店
そして4月10日、プレオープンの日を迎えた。近所の人や支援した仲間たちが立ち寄り、カフェの誕生を祝福した。

来店者:
想像以上にすごくきれいで眺めがよくて、居心地がよくて感動しました。いろいろな人が集まって、リラックスできる空間が整ってよかった
別の人:
温かみがあって、ここでいろいろな人が、地元の人も観光客も交じり合ってつながるといいな

近くの住民:
伊豆山には集まれる場所がないので、こういう所があれば横の連絡ができるので非常にいい所だと思います
店の名前は「あいぞめ珈琲店」。地区を流れる逢初川(あいぞめがわ)と、人と人との出会いを大事にしたいという思いから名づけられた。

あいぞめ珈琲店・中野裕基店長:
元々最初に人の支援、できる事をやろうという事から始まって、それからクラウドファンディングで人の支援を頂いたので、次はその頂いたものをお返しできればと思っています

ボランティア団体「テンカラセン」・高橋一美代表:
持ち込みも自由ですし、子供が勉強やゲームをやってもいいし、おばちゃんたちが井戸端会議してもいい。ここに来たからコーヒーを飲まなければいけない、何か食べなければいけない…はないので、皆さんにいいように使ってもらえる場所になれたらいい
災害で薄れつつあった住民同士の交流を増やそうと作られたコミュニティーカフェ。
被災者や住民だけでなく、観光客も巻き込みながら、伊豆山地区の復興を支えていく役割も期待されている。
(テレビ静岡)