愛知県岡崎市に、精肉店や青果店など元々7つの個人店舗が入るスーパーがあった。店は次々に撤退し、2021年12月には鮮魚店1店舗だけになってしまった。この最後の鮮魚店は、遠方からも客が訪れるほど質が良いと評判だ。孤軍奮闘を続ける76歳の店主と、人気の秘密に迫った。

精肉店や青果店が次々に撤退…スーパーで唯一の店となった鮮魚店

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愛知県岡崎市にある「みどりスーパー」は、個人の店が7店舗入るスーパーだった。

2021年12月に精肉店や青果店が閉店。2022年5月現在、このスーパー内で営業するのは、鮮魚店「魚正」だけとなっている。

しかしこの店には、常連さんが次々と訪れる。「魚正」は質の良さに定評があり、地元の魚好きには知られた名店なのだ。

女性客A:
新しくて美味しい
男性客A:
岡崎じゃ一番いい物を置いている

経営するのは、この道40年の仲川正臣(なかがわ・まさおみ)さん(76)。

「魚を見る目が厳しい」…市場関係者もうなる店主の目利き

午前6時。愛知県岡崎市にある「岡崎魚市場」には、三河湾の漁港や名古屋の中央卸売市場から、毎朝魚が運ばれてくる。仲川さんは、この市場で仕入れをしている。

仲川正臣さん:
前もって電話する、こういう物がいるって。あれば持ってくる。名古屋市場に全部集まるもんで

三河湾で揚がらないものは、名古屋の市場から持って来てもらい確保する。この日仕入れた金目鯛は、静岡で揚がったものだった。さらに、三河一色産のウナギも仕入れた。

市場の関係者:
プロ相手にやっているけど、仲川さんその上を行くもんで。魚を見る目が厳しい

この道40年以上。長年の目利きで、この日は20種類ほどを仕入れた。

百貨店時代からのこだわり…「質の良さ」と「客のために」

午前7時半。仲川さんは早速、仕入れた魚をさばいて、開店の準備に取りかかる。

この日の刺身は、「生マグロ刺身」(756円)に、三河湾で揚がった「天然鯛刺身」(1080円)…。

「平貝刺身」(648円)、今が旬の「ホタルイカ」(648円)と種類豊富。価格は少々高めだが、それには理由があった。

仲川正臣さん:
もともとは松坂屋に。松坂屋がやめたので僕もやめようと思ったけど…。お客さんがついてくれていたので、「困るでどっかでやってよ」って声が多かった

仲川さんは、もともと松坂屋岡崎店にあった鮮魚店の店長を務めていて、2010年の松坂屋の閉館をきっかけに今の場所に移ってきた。

仲川正臣さん:
どっか無いかと思ったら、この店の魚屋がちょうど抜けて、やり手がおらんかった

従業員の雇用を守りたい思いもあり、2010年3月にこのスーパーに出店。「ちゃんとしたものを出したい」という思いは、百貨店時代からのこだわりだ。アワビや金目鯛などの高級食材も並べている。

そして、野菜も並べている。

仲川正臣さん:
野菜はお客さんのためにやっている。いくら儲かるじゃなしに

お客さんの要望にはなるべく応える。これも百貨店時代に学んだことだ。

客のため…真空パック・冷凍などの加工もサービス!

そして開店の、午前10時。近所の常連客が次々と訪れる。

女性客B:
ここのお魚、お高いけど美味しい
男性客B:
美味しいものが確実にあって、人情もある

そして、岡崎市外からも…。

愛知県蒲郡市からやって来た女性C:
地元ももちろん行きます。だけど、お刺身は特にここ

この女性は、中トロに天然の鯛、平貝、赤貝、ボタンエビなどが入った8人前の刺し盛を注文。

見た目も実に豪華だ。

また別の客には、店の従業員から「アナゴ焼いておいたよ」の声が…。アナゴを白焼きにして冷凍にしてもらったというこの女性は、他にも色々購入し、総額は驚きの2万4516円。しかし店によると、こういう客は多いという。

総額2万4516円を購入した女性D:
ウチは3家族分。私が忙しいのでストックして。アナゴなんか白焼きにして

買いだめする客が多いため、店では日持ちさせるために真空パックや冷凍などの加工もしている。細かい要望に積極的に応え、一人一人のお客さんを大切にするのが、仲川さんのポリシーだ。

仲川正臣さん:
いいお客さんはいいこと知っている。お客さんから教えてもらって、育ててもらったおかげでいい物が置けるようになった

中でも特に大切にしているのが、子供連れの客だという。

子供を連れた女性客E:
この子お魚が大好きで、離乳食の時から…。最初のお魚、おじさんのところの。ずっとそれから魚好き

仲川正臣さん:
子供が喜んでくれれば親もついてくる。子供が嫌って来ないと、親もついてこない

魚好きの子供を増やしたいと、子供たちに魚のことを教えている。

午後3時には半額も? 鰻は味付けも客好みに調整

午後3時になると、早くも半額シールを貼ってタイムサービスを開始。翌日までが賞味期限のお刺身は半額に。まだ余裕があるものも割引して販売している。

女性客F:
お値打ちになっていても、臭いと嫌じゃないですか。けど、ここは常に美味しいので

女性客G:
会社の帰りに来ると、いつも半額になっていて助かる

お値打ちかつ美味しいと、タイムサービスに合わせて来る客も多いという。

午後4時。やって来た女性のお目当ては、鰻の蒲焼だ。

女性客H:
夕方に焼いてくださるので晩御飯に。「濃い味好きじゃない」と言うと、あっさり目に焼いてくれたり…

鰻は予約すれば、通常の200円引きに。味つけも好みに合わせて焼き上げてくれる。

現在76歳の仲川さんは、いつまでお店を続けたいのだろうか。

仲川正臣さん:
81歳まで。お客さんが喜んでくれるのが何より僕の儲け。お客さんがいる限りは頑張ろうと思っています

たった1店舗になっても…。お客さんがいる限り、仲川さんは孤軍奮闘を続ける。

(東海テレビ)

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