先月都内代々木公園で、LGBTQイベント「東京レインボープライド(以下TRP)2022」が行われた。コロナ感染拡大の影響で、リアルでイベントが行われたのは3年ぶりだった。TRPによるパレードが始まって10年となる中、LGBTQを取り巻く日本社会はどう変わったのか?キーパーソンの2人に聞いた。
企業や自治体が“自分事”として関わるように
「2012年にTRPとして初のプライドパレードをやってから、もう10年ですね」
こう感慨深く語るのは、「NPO法人東京レインボープライド」の共同代表理事を務める杉山文野さんだ。杉山さんはトランスジェンダーの当事者で、TRPをけん引してきた1人だ。
「2012年には約4千500名の参加者でしたが、(コロナ前の)2019年には来場者が20万人を超えるイベントになりました。コロナ禍ではリアルでのイベント開催を中止して、オンラインのトークライブに切り替えましたが、2021年には総視聴者数が約160万になりました」

杉山さんは「2015年以降、参加者数が急激に伸びた」と振り返る。
「その年に渋谷区と世田谷区が日本で初めてパートナーシップ制度をスタートしました。それ以前は企業にイベントの協力をお願いしても断られることが多かったのですが、2015年を境に一気に企業や自治体の方が“自分事”として、開催の必要性を感じて関わってくださるようになりました」
「当事者のため」から広がった東京レインボープライド
またTRPに参加する顔ぶれも変わってきたと杉山さんはいう。
「参加者の方も以前は『当事者が当事者のための当事者による』という側面が強く見られましたが、いまは参加者の誰が当事者かわからないようになりました。家族連れも多いし、様々な方々が全国から来てくださっています。これも大きな変化かなと思います」

プライドハウス東京の代表でゲイ・アクティビストの松中権さんも、この10年を振り返ってこう語る。
「当初は当事者で、活動をしたり教育に関わっている方が多かったと思います。しかし最近は参加自治体や企業の数もすごく増えていますし、当事者の方々でもこれまでは『イベントに行くと、自分がLGBTQであることがばれてしまう』と躊躇していた方が、たくさん来るようになり大きな変化だと思います」
LGBTQは企業が取り組むべき経営課題へ
また松中さんは2012年から、企業等の枠組みを超えて当事者が働きやすい職場づくりを目指すカンファレンス「work with Pride」を行っている。LGBTQを取り巻く職場環境はこの10年でどう変わったか?

松中さんは語る。
「当初は外資系企業が取り組みを進めたり、カミングアウトしている当事者がいる企業で、その人が率先して動いているといったことが多かった。しかし徐々に企業の経営層も『LGBTQは取り組むべき社会課題だ』という考え方が増えてきました。さらにここ数年は、自分たちの職場で働いている人にも当事者がいるし、その友人にも家族にもいるし、顧客にも取引先の中にもいる、つまり企業として取り組まなければいけない経営課題だと捉えられていますね」
「一部の政治家は社会と乖離し始めていると思う」
一方、政治をみると昨年LGBTQの差別禁止法案が議論されたものの、結局法案提出は見送られた。これに対して杉山さんは「日本の一番の課題は、この法整備が進まないことにある」と強調する。
「例えばLGBTQの法整備で日本はOECD諸国35ヵ国の中で34位です。またLGBTQに対する差別禁止法は世界で既に90カ国近くあるのにもかかわらず、日本では理解を増進する法律ですらまだ作られていないのは大きな問題だと思っています」

松中さんも結婚の平等(同性婚)の法制化の活動を通じて「政治が変わらないと感じている」と指摘する。
「一部の政治家は社会と乖離し始めていると思います。政治は国民、市民の1人ひとりが幸せになるためにあります。目に見えて社会の意識が変わってきているのに、それに対して(政治家が)アプローチしたくない、対応できないというのはなぜなんでしょうね」
明日の自分と大切な人のために変えていく
最後に杉山さんに、今後のTRPのあり方について聞いてみた。
「TRP自体が法律を変えることはできませんが、法律を変えるような社会の空気を作ることは大きな役割だと思っています。TRPは決してLGBTQのためだけのイベントではなくて、LGBTQをはじめとする誰もが安心安全に暮らせる社会の実現を目指しています」

そして杉山さんはこう続けた。
「自身が当事者ではなくても、もしかしたら生まれてくるお子さんがそうかもしれないし、大事な人がそうかもしれない。今より明日の自分のため、明日の自分の大切な人のために、皆が自分事化して変えていくという意識を高めていくのが大事かなと思います」
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】