三重・志摩市の的矢湾で、名産のノリやアワビの不漁が続いている。原因は、栄養分が少ない「黒潮」が、志摩市などの近海に流れ込んでいるためだ。アワビのエサとなる海藻やノリの成長を鈍化させるこの“黒潮大蛇行”と呼ばれる現象が、地元の生産者たちを苦しめている。

水揚げの7~8割は捨てた…品質低下で捨てられた2億円分のノリ

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三重・志摩市的矢湾。

伊勢志摩の特産物である、三重県産のあおさノリの生産量は全国の6割近くを占め、日本一だ。しかし、ここ数年、あおさノリの不漁が続いていると話す。

あおさノリ養殖歴15年の男性:
やっぱり年々落ちています

あおさノリ養殖歴20年の男性:
半分くらい、収穫量は

2016年には323トンあった生産量が、2020年には174トンと半分近くに激減…。
さらに、志摩市の隣の鳥羽市の海でも異変が…。空き地に広がる茶色い物体は、黒ノリだ。

黒ノリ養殖歴30年の男性:
今年(2022年)2月の初めから色が悪くなって、出荷しても売れないということで…。みんなと相談して捨てた

これらは、商品加工されずに廃棄された“黒ノリの残骸”。名前の通り“黒”が特徴の黒ノリだが、本来の色が出ず、味もイマイチだったという。

黒ノリ養殖歴30年の男性:
水揚げだけで、70%から80%弱くらいは捨てとる。2憶円から2憶5千万円が全部野積み。ここまでの酷いやつはノリ養殖やって初めてだし、親父らは50年近くノリ養殖やっているけど初めて

志摩半島近海で相次ぐノリの不漁。一体何が起こっているのだろうか。

海底は岩肌見える状態…海藻消えた原因は“黒潮大蛇行”

三重大学大学院の倉島彰准教授(58)の研究チームは、その原因を調査している。

この日 調査を進めると、海底の岩場は本来海藻でいっぱいのはずが、チラホラと確認できるだけで、岩肌が丸見えだった。

倉島彰准教授:
アラメとかカジメとかの藻場があったところ、最初に調査した去年(2021年)の春頃はあった。それが急に秋以降、ほとんど海藻が無くなってしまった

2015年に調査した際の画像を見ると、アワビなどのエサとなる海藻が多く生息していた。

しかし2021年の調査では色も悪く、ほとんど消えていた。倉島准教授は、その原因は“黒潮大蛇行”だと指摘する。
日本列島の太平洋側を流れる暖かい海流“黒潮”は、本来であれば日本列島に沿うように流れている。
しかし、2017年から大きく太平洋側に離れてしまった。これが“黒潮大蛇行”だ。

黒潮とは別の冷たい水の流れが、伊豆海嶺という海底山脈にぶつかって“渦”になり、この渦に黒潮がはじき出されるように蛇行するのだ。

さらに、この冷たい水の渦は反時計回りに流れていて、この渦に巻き込まれる形で黒潮の支流が発生。志摩半島の南から熊野灘にかけて、黒潮が流れ込んでくるようになった。これが、海藻が消えたり、ノリが育たない原因の一つだと倉島准教授は指摘する。

“海の栄養低下”と“魚による食害”が原因…“黒潮大蛇行”の影響で消えた海藻

倉島准教授によると、栄養分が少ない黒潮が志摩市などの近海に流れ込んだだめ、海藻が育たず消えていったとみられている。

あおさノリ養殖歴15年の男性:
(ノリの長さは)短いですね。(昔と比べると)20センチくらい差がある。鈍化しているというか、(成長が)遅い

倉島准教授は、あおさノリが育たない原因は、海の栄養が減っただけではないという。

あおさノリ養殖歴20年の男性:
(ノリを)種付けた後に育てる時期があるけど、小さいサイズの魚が食っちゃうので、ノリを

魚による“食害”も、黒潮大蛇行の影響と考えられている。

倉島彰准教授:
今回の黒潮大蛇行は冬の水温が非常に高く、2度から3度、4度くらい高い。魚は水温が高い方がよく海藻を食べるから、行動が活発になって海藻が減ってしまう

黒潮大蛇行が始まる前の2016年12月の志摩半島周辺の海水温は17度~18度だったが、2021年12月の水温は21度~22度に。冬場でも明らかに水温が高くなっている。

その影響で、魚の行動が活発になったとみられている。2021年11月に調査チームが海藻の前に設置したカメラの映像には、次々に現れた魚たちが海藻を食べる様子が収められていた。

何度も食べられた海藻は、最後は茎だけに…

あおさノリ養殖歴15年の男性:
神頼みに近いけど、黒潮大蛇行が正常に戻ってもらうこと

あおさノリ養殖歴20年の男性:
栄養分が戻ってほしい

黒潮大蛇行は、1975年、1981年、1986年、1989年、2004年と過去5回観測されている。
しかし、2017年8月に発生した今回の黒潮大蛇行は今も続いていて、2022年4月には最長記録を更新した。

その影響は漁業だけでなく、気圧を変化させると言われ、東京で大雪を降らせたり、夏には連日の猛暑日となるなど、異常気象をもたらすとも考えられている。

海藻の天敵・ウニの飼育開始…アワビ不漁に苦しむ海女さんの新たな挑戦

そんな中、志摩市の海女さんが新たな挑戦を始めている。4月頃から収穫がはじまる志摩市のアワビの生産量は、三重県内の6割を占めていたが…

海女歴12年の女性:
1日潜って1個とか2個とか…。昔はキロ単位で獲っていたけど、(今は)もう3分の1くらい

アワビのエサとなる海藻が無くなった影響で、2017年に46トンあった水揚げ量は、2020年には14トンにまで激減した。

そこで海女さんたちが目をつけたのが、アワビのエサとなる海藻を食べてしまうため厄介者とされているウニだ。

海女歴12年の女性:
昔ウニはあまり獲らなかったけど、海藻食べてしまうので駆除せなあかんって…。その駆除したウニを飼育しようと、利益のため。だんだん大きなって、売れたら良いかな

自分たちの手で育てることで、身を太らせて何とか商品化できないか模索している。

4年9か月間と過去最長になった黒潮大蛇行。その影響により不漁に陥ってしまった地元の生産者たちは、1日も早く栄養豊かな元の海に戻ることを願っている。

(東海テレビ)

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