“1日2400円“ウクライナ避難民への日本の支援
4月5日、林芳正外務大臣のポーランド訪問からの帰国に合わせて、政府専用機に乗って日本に親族や知人のいない、いわゆる身寄りのないウクライナ避難民が初めて日本に到着した。そして、4月11日、出入国在留管理庁は、身寄りのない避難民に対して一時滞在先のホテルでは、食事とは別に1日当たり1000円(12歳以上)、11歳以下に500円を現金で支給すると発表した。
一時滞在先のホテルを出た後に自治体などが用意した住宅に入居した後は、1日当たり2400円(12歳以上)、11歳以下に1200円を支給する。支給はおよそ半年間を想定し、支援金に加えて家具、家電など生活必需品にあてる費用も1人あたり16万円(16歳以上)、15歳以下に8万円を支給する予定となっている。



さらに、滞在先のホテルでは、避難民の日本語習得に向け、日本語教室も開かれている。昨今ミャンマーやアフガニスタンでも情勢不安が続いているが、これほどの支援策は施されていない。
この理由に古川法相や入管庁担当者は、「ロシアの侵攻は基本的人権を著しく侵害し、国際秩序を破壊する極めて緊急の事態であるため」と述べている。今回、私は政府専用機で来日し、一時滞在先のホテルで過ごす“日本に身寄りのない”避難民から話を聞いた。
「何かせずにはいられない」身寄りのない避難民が語る日本への感謝
私が話を聞いたのは、医師のウラジーミル・ピボバルチュックさん(65)とその妻と子供の3人家族。この家族はウクライナ東部・ドニプロで35年間暮らしていたが、ロシア軍の侵攻により、夜中サイレンが鳴り止まなくなり、3月13日に車で脱出することを決めた。

そして、1週間あまりで隣国ポーランド・ワルシャワまで避難、現地で日本人の知人から「日本大使館に相談すれば無償で日本に避難できる」と聞き、4月5日に政府専用機で来日することとなった。来日後は、政府の用意した一時滞在先である千葉県内のホテルで過ごしている。
日本に身寄りがない不安からか私が最初にあった時は、しきりに自身の素性について緊張した表情で語りかけてきた。「私は医師であり、海軍で働いていた」「ダイエットの指導経験があるから、日本でも役に立つと思う」など、一方的に話され、少し面食らってしまったのが正直なところだった。
何度か通ううちに徐々に打ち解け、ウラジーミルさんの明るい表情を見ると同時に、なぜ最初に会った時に私にたたみ掛けるように話してきたのか理解することができた。それは、初めて来た異国の地・日本で1日でも早く「独り立ちしたい、貢献したい」という強い意志があったためだ。

ある日、ウラジーミルさんからホテル近くの浜辺の散歩に誘われた。浜辺に着くやいなやおもむろにカバンからゴミ袋を取り出した。そう、浜辺のゴミ拾いを始めたのだ。私がその理由を尋ねると、「毎日散歩とゴミ拾いをしている。私達を助けてくれた日本への感謝から何かせずにはいられない」と私に強いまなざしを向けた。
ウラジーミルさんは、身寄りのない自分たち家族に対し、住居や食事などを支援する日本に心の底から感謝し、少しでも自分にできることはないか考えていたのだ。ロシア侵攻から母国を離れ、見ず知らずの土地に避難したことで不安と悲しみでいっぱいだと思っていたが、そこには常に前向きに日本の生活に溶け込もうとする姿があった。
積極的な避難民受け入れの裏に潜む課題
日本政府は4月30日までに820人の避難民を受け入れており、今後も上限を設けることなく受け入れと支援をする方針を示している。政府関係者は、日本の積極的な避難民受け入れに潜む問題点として、「人身取引対策の難しさ」があると語る。
「人身取引」とは、売春や強制労働などで搾取することを目的とし、暴力や詐欺などの手段を使い、女性や子供など弱い立場の人を集めることだ。関係者いわく、政府は身元保証人と避難民の関係について確認はするが、その裏に誰かがいても容易に確認できないという。

また、政府が渡航支援をした避難民に関しては継続して連絡を取るが、自費で渡航した避難民に関しては、来日前にビザ申請のために在外の日本大使館へ来た時くらいしか話す機会がないという。つまり、日本での在留資格の特例など、政府が避難を支援したつもりが避難先となる日本で「被害者」を生み出していたなんてことも考えられるというのだ。
現に、入管庁が4月中旬に日本在住の避難民に対し、生活支援に関する資料を送付した際、住所が特定できなかった避難民が16人いたと公表している。ウクライナ避難民のほとんどが女性や子供だ。避難民の受け入れと共に人身取引を未然に防ぐための対策が急がれている。先行きの見えないウクライナ情勢が続く中、今後私たちは避難民との共生社会を創造していくことになる。
(フジテレビ社会部・司法クラブ 森将貴)