静岡市清水区に、大勢の人に愛され、67年間続いた食堂「蒲原館(かんばらかん)」がある。高齢の店主が引退し、人気のラーメンやチャーハンの味も途絶えてしまうかに思われたが、救世主が現れ、再開に向けて動き出した。

67年続いた食堂「蒲原館」 閉店の決断に惜しむ声

店主が引退し一度は閉店することになった「蒲原館」(静岡市清水区)
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静岡市清水区のJR蒲原駅前、ここに「蒲原館」の看板が掲げられた建物がある。昭和29年に開業した旅館「蒲原館」に併設されていた食堂が、現在もこの場所に残っているのだ。

人気のメニューはラーメンやチャーハン。

二代目店主の望月昇さん(73)は2021年、体力の衰えと後継者がいないことを理由に、閉店を決めた。常連客を思うと、閉店は苦渋の決断だった。

二代目店主の望月昇さん

二代目店主・望月昇さん:
週に多い方で4、5日(来てくれた)。寂しいよとか行く所がなくなるよとか、そういう言葉はもらいました

「本当のソウルフード」味の存続に立ち上がった常連客

そんな中、蒲原館の継承に手を挙げた人物がいる。蒲原のまちづくりに取り組む、地元企業の栗山勝訓社長だ。

蒲原館のために立ち上がった常連客の栗山さん

栗山さんもまた蒲原館の常連客で、何とか店を続けられないかと望月さんに相談していた。

栗山勝訓さん:
純粋にこの街に必要な存在だったから、なくしたくないという思いだけです。私だけでなくこの蒲原館で育った方はすごく多いと思うので、地域の人々の、本当のソウルフードではないかなと思います

店の継承ためらうも…店主を決断させた客からの手紙

閉店間近となると、こんな出来事が。

二代目店主・望月昇さん:
やめることが皆さんに知れ渡ってからですね。食べた後にテーブルに行くと、こういうものがありました。これは4、5歳のお子さんじゃないかと思うんですけど

店に残された客からの手紙

「おいしいラーメンとチャーハンありがとう たべにいくのたのしみにしてたよ いままでありがとう」

ご飯を食べ終わった客が、店での思い出や、閉店を惜しむ気持ちを書き残していた。

二代目店主・望月昇さん:
いやもう、言葉がなくて涙が出そうでした

もともとお店を継承させる考えはなかった望月さん。
しかし常連客からのメッセージに心を打たれ、蒲原館を栗山さんに託すと約束した。栗山さんの会社が蒲原館を引き継ぐことになり、ファンによって蒲原館は存続することになった。

営業再開に向け始動 新店長が挑む“味の再現”

営業再開に向け、新店長として抜擢されたのは、調理師の杉山味乃里さんだ。静岡市内のホテルなどで、20年以上働いてきた経歴がある。

新店長・杉山味乃里さん:
自分自身が(栗山社長の)話を聞いているだけでワクワクして、楽しいなと思って。自分も料理で地元の蒲原館を継承して、蒲原を盛り上げることに貢献できたらなと

最も難しい課題が、蒲原館の味を受け継ぐことだ。オープンまで約1週間と迫ったこの日も、人気メニューの仕込みを勉強していた。

杉山さん:
かえしは20g、20g...

望月さんの指導のもと、鶏がらや豚がらを煮込んで作るスープの仕込みから、チャーシューの切り方まで、地域の人に愛されてきた味を忠実に再現していく。

新店長・杉山味乃里さん:
味を受け継ぐのは本当に難しいことだと思うんですけれども、いろんな人の思いがある蒲原館だと思うんですよ。それも含めて「味」だと思う

望月さんが味の秘けつを新店長に伝える

運命のプレオープン…常連客の評価は?!

2022年2月。常連客や地元の人たちを招いたプレオープンの日を迎えた。
元店主の望月さんも、応援のため、厨房に駆けつけていた。開店後すぐに店内は満席になり、蒲原館のにぎわいが戻ってきた。

プレオープン のれんをかける新店長

常連客:
家族とよく来ていたので思い出がありますね

別の常連客:
閉店すると聞いたとき悲しくなっちゃって、なくなっちゃうんだと思ったら、またやってくれるということで、すごくうれしかった

にぎわう店内 客の目当てはやはりラーメン

店のにぎわいに、望月さんも一安心だ。

元店主・望月昇さん:
お客さん来ていただけて、ちょっとほっとしております。
Q.杉山さんにお店を託すが
多分大丈夫だと思います

注文が多い人気メニューはやはりラーメンだ。長年にわたって蒲原館の味に親しんできた常連客が、その味を確かめる。

常連客:
いい味でした、チャーシューも厚くておいしかった

別の常連客:
すごい懐かしいなと思って。やっぱりこの味だなと思って

男性客:
ちょっと違う。ちょっとしょっぱい

女性客:
(以前と)まったく一緒じゃないかもしれないけど、新しい蒲原館のラーメンですごいおいしいです。これからも来たいと思います

“思い出の味”引き継ぐ難しさ 愛される「蒲原館」を目指して

客のさまざまな反応。新店長の杉山さんはその声を大切に感じている。

新店長・杉山味乃里さん:
お客様にアンケートを書いてもらっているんですが、味が濃いとか、ちょうどよかったとか、それぞれなんですけれども。味を継承するというのは本当に大変だなと改めて感じました。今まで通り、地元の方や県外の方から愛される蒲原館でいきたいと思います

客の“思い出の味”を引き継ぐ難しさを実感したというが、それでも、目指すお店の形は変わらない。
常連客の支えによって復活した「蒲原館」は、これからもまちの食堂として、大勢の人たちのお腹を満たしてくれそうだ。

賑わう店内 その後無事、正式オープンを迎えた

蒲原館の味について元店主の望月さんは、新店長の杉山さんが自分なりの味を定着させればよい、という考えだ。杉山さんは「まずは今まで愛されていた味を、そのまま守っていくことが目標」と話している。

(テレビ静岡)

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