あなたはプレッシャーがかかる場面で、緊張するタイプだろうか?

あるいは緊張したとしても、そのプレッシャーとうまく折り合うことが出来るタイプだろうか?

実は意外な人物が緊張感と戦い、時には負けそうになっていることがある。

テニス界の最高峰、グランドスラムの女子ダブルスで3度の優勝を果たした杉山愛(46)さんもその一人だ。

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「特に初戦が苦手で、どんな大会でも、グランドスラムはもちろんなんですけれど、小さい大会でも1回戦っていうのは本当に緊張しました」

カメラを前に元世界ランキング1位の杉山さんは、実感を込めてこう語った。

17歳でプロに転向し、34歳で引退するまでに打ち立てた“4大大会・グランドスラムのシングルス連続出場62回”は、今も女子テニス界で歴代1位のギネス世界記録として刻まれている金字塔だ。

そんな世界的な記録を打ち立てた杉山さんが、現役時代にこの緊張感と向き合うために編み出したマイルールとはどんなものなのか? 

3月26日に放送された番組「アスリートのマイルール」から、世界で戦うトップアスリートたちが大切にしている「決め事」や「秘訣」をご紹介していく。

緊張感と付き合うためのルーティンは33個

世界的人気と、高額な賞金を誇るスポーツでもあるテニスだが、フルセットで戦うと3時間を超えるスタミナスポーツだ。消費カロリーなんとは2500キロカロリー超えると言われるほどだ。

そんな超ハードなスポーツで、長年世界のトップで戦うことができた杉山さんに現役時代のマイルールを聞いてみた。

「1日33個のルーティンがありました」

杉山さんから語られたのは、驚異的な数のルーティン。一体、どんなものがあるのか。

例えば毎朝起床して真っ先に行うのが、深い呼吸だという。

目を閉じておなかの下、丹田(たんでん)を意識しながら、鼻から深くゆっくり息を吸う。頭の中でポジティブなイメージを思い浮かべながら続けること30分。

そのほかにも一日に5度も組み込まれたストレッチや、筋肉への刺激、栄養の補給、ラケットの手入れ、セルフマッサージ、半身浴、日記を書くなど、朝起きてから眠りにつくまでに33個。そのジャンルは実に多岐に渡る。

なぜ、こんなに数多くのルーティンがあるのか?杉山さんはこう語る。

「ルーティンをやることで調子の波が小さくなることと、毎日やることで小さな変化に気がつけるということなんです」

「毎日やることで小さな変化に気がつける」これは何を意味するのだろう。

「私自身すごく緊張するタイプでした。その緊張をなんとかしたいのがあって、例えば試合がある日に呼吸をしていて、いつもの通りできない。すると呼吸によって、『あっ、自分が思っているよりも、緊張しているんだな』ということに気づかされるんです」

呼吸を通して、自分が緊張していることに気づく。

つまり毎日のルーティンひとつひとつを、自分を客観視するためのバロメーターにしていたのだという。

世界ランキング1位でも辞めたかったどん底の時代

テニスが消費カロリーの大きなスタミナスポーツであることは比較的よく知られているが、実はとてもメンタルコントロールが重要な競技でもある。

試合中、自分のプレーに納得がいかない選手がコート上で叫んだり、ラケットを叩きつける姿を目の当たりにした方も多いと思うが、世界のトッププレーヤーですら、緊張やアンガーマネジメントを怠ると、途端に勝てなくなるスポーツと言われている。

杉山さんがルーティンを始めたのも、こんな経験がきっかけだった。

「25歳の時にスランプを迎えたんですけど、そこからですね。実は当時ダブルスが絶好調で世界ナンバーワンだった一方で、私自身は“シングルスで勝負したい選手”でした」

「(シングルスの世界ランキングで)トップ20に入っていた時もあったんですけど、そこからどんどん落ちて行って、どん底で、テニスを辞めたかった事があったんですよね」

ダブルスで世界ランキング1位、そしてウィンブルドン制覇を果たしながらも、シングルスの成績が振るわないがために引退すら考えたという杉山さん。

そんな大スランプの時、ある出会いが彼女を変えたという。

「『100歳だからこそ、伝えたいこと』(サンマーク出版)という本なんですけど、正心調息法(せいしんちょうそくほう)という呼吸法がありまして、呼吸をしながら良いイメージを持つエクササイズになっていまして、これをやってみたら、すごく自分にあっていたんですね」

「その日の調子もよかったので、この日から自分のマイルールに加わりました」

『100歳だからこそ、伝えたいこと』(サンマーク出版)
『100歳だからこそ、伝えたいこと』(サンマーク出版)

この呼吸法との出会いをきっかけに1つずつ自分の体調や、精神状態をチェックするルーティンを増やしていったという杉山さん。

2003年には米国で開催された世界ツアー、ステート・ファーム・クラシックで、出場したシングルスとダブルスの両方で優勝。さらに翌年の2月にはシングルスの世界ランキングで8位に上りつめ、自己最高位を記録している。

そして気がつけば、1日に33個ものルーティンを日課とする生活が出来上がったのだった。

向き合うプレッシャーや緊張感も人それぞれ。あなたには毎日、何個のルーティンがあるだろうか?この機会に数えてみてはいかがだろう。