長野・伊那市高遠町と言えば、言わずと知れた桜の名所。その花見客に長く愛されてきた和菓子がある。その名は「亀まんじゅう」。約150年続く人気の秘密と味を守る家族に迫った。

花見客に人気 老舗和菓子店の「亀まんじゅう」

高遠城址公園の「天下第一の桜」(長野・伊那市)
高遠城址公園の「天下第一の桜」(長野・伊那市)
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「天下第一の桜」と言われる伊那市高遠町の高遠城址公園の桜。2022年も多くの人が訪れた。この時期、花見客に人気の和菓子がある。かわいらしいカメの焼き印が押された「亀まんじゅう」だ。

作っているのは、その名も「老舗 亀まん」。この時期、店は忙しい日々が続く。

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん:
常に同じ味を作らなければいけないというのがすごく難しくて、皮ひとつでも季節とか温度とか時期によって配合が違ってくる。昔からファンでいてくれる方はすごく多いので、そういう人たちのために味は変えられない

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん
老舗 亀まん5代目・平沢源司さん

約10分ふかしてから、一つ一つに焼き印を押せばできあがり。ふっくらとした皮に、しっとり甘すぎないあんこがくるまれている。

買い物客:
あんこに風味があるんですよ。おまんじゅうが柔らかいので皆さんに好評で

買い物客:
おいしいんですよね、やわらかくて、昔からの味。お花見に来たら、亀まんでまんじゅう買って帰る。決まってるコース

創業は明治8(1875)年。実は意外なルーツがある。

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん:
「亀の湯」っていう銭湯だったんですけど、初代の主人が趣味でおまんじゅうを作ってお客さんにふるまっていたところ、「うまいから、まんじゅう屋をやればいいじゃないか」と言われたらしくて

2代目になってから銭湯をやめ、亀まんじゅう一本に。戦時中は営業できなかったが、戦後に3代目が店を再開。現在の場所に店を構え、桜の名所の「土産品」として定着した。

代々伝わる…あんこの製法

今は優司さん(62)・智美さん(62)の4代目夫婦と、源司さん(36)・里圭さん(29)の5代目夫婦が切り盛りしている。

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん
老舗 亀まん5代目・平沢源司さん

和菓子店に生まれた源司さん。実は東京・新宿の老舗ホテルでパティシエの経験がある。職場で知りあった里圭さんとの結婚を機に7年前、店に入った。高遠に戻る覚悟はずっとあったと言う。

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん:
生まれた時から「お前はまんじゅう屋だぞ」と言われて育ってきているので、まんじゅう屋しか考えていなかった。親の背中を見て育ったというか

代替わりも近づいているが、味の決め手「手作りあんこ」は今も、父・優司さんが担当している。

「手作りあんこ」は4代目・優司さんが担当
「手作りあんこ」は4代目・優司さんが担当

4代目・優司さん:
やっぱり北海道産のものが、小豆の皮が薄くて、あくが少ない

北海道産の小豆を年季の入った釜で2時間ほど煮る。

4代目・優司さん:
煮る時間は季節によってとか、(小豆の)新しいものと古いもので違う。1年通じて同じものを作るというのが難しい

煮て蒸らした小豆をこす作業は「企業秘密」。代々伝わる特別な製法だそうだ。裏ごしをしてさらさらの状態にしたら、砂糖、塩、水あめを加えて練っていく。
「砂糖」も撮影はNG。他の菓子とは違う特別な砂糖を使っていると言う。

4代目・優司さん:
一番はコクですね。(使っている)砂糖の純度が高いので、コクが出るけどさっぱりする。これ(亀まんじゅう)だけは、いろいろ特別なんですよ

お客に気に入ってもらえるものを

製法を固く守る一方、意外にも味は少しずつ変えているそうだ。

4代目・優司さん:
昔は甘いお菓子が好まれたんですけど、今はさっぱりした味の方が好まれますので、砂糖の分量、塩の分量というのは時代に応じて変えてはいます

優司さんの柔軟な考えがよく現れているのが、この「子亀まんじゅう」。

ひと回り小さい「子亀まんじゅう」(右)
ひと回り小さい「子亀まんじゅう」(右)

客のニーズに合わせ、ひと回り小さくしたもので、今は定番と変わらぬ程の人気だが、当初は昔からいた職人に反対されたそうだ。

4代目・優司さん:
老舗っていう名前でお菓子が売れる時代ではないと思うので、おいしい物を作るのは当たり前なんだけど、お客さんに気に入ってもらえるかは別のもの

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん:
ダメな時期、つらい時期を乗り越えてきたのは今の社長の力だと思うし、経営者という面ではすごく尊敬できる

柔軟な考え方は源司さんにも…。パティシエの技を生かしたパウンドケーキは、今や人気商品だ。

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん:
もともと、まんじゅう屋のクリスマスケーキというコンセプトで、ドイツ菓子のシュトーレンを参考にした。シナモンとかラム酒とか、スパイスの香りを楽しめる

これまでに、地元の酒蔵や日本茶専門店とコラボレーションした菓子も商品化。新たにオンラインショップも立ち上げ、予想以上に注文が入っている。

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん:
コロナになって、やっぱり高遠町も元気がなくなってきているので、活性化させたい、盛り上げたいなと

5代目・里圭さん:
地元のお客さんも多いんですが、全国もっと広めていきたいなと思います

5代目夫婦の働きぶりに4代目夫婦は…

4代目・優司さん:
好きにやればいいんじゃないか、思う通りに。お客さまの欲してるもの、ニーズに合わせるものをこれからはやっていくということで、もう私の出る幕ではないので

4代目・智美さん:
ひやひやすることもいっぱいあるんですけど、なかなか後継者がいなくなってくる時代で、うちの伝統も受け継いで続けてくれるっていうのはうれしいですね

伝統を守りながらも変化をいとわず…
その姿勢は、看板商品と共に、4代目から5代目へと受け継がれようとしている。

老舗 亀まん5代目・平沢源司さん:
「伝統の味」と言われることが多いんですけど、伝統の味にするのはお客さまの方で、お客さまがその家の伝統の味を「亀まんだ」と伝えてくれる。根本的なものは変えず新しいものを取り込んで、僕の世代の味の亀まんをつくっていければ

(長野放送)

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