家に居場所がない若者の行き場は・・・

4月7日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため政府の緊急事態宣言が東京などに出されました。感染者が日本一多い東京都は危機感を募らせ、都民に「徹底的な外出自粛」、多くの事業者などに「営業自粛」要請を出しました。公表された要請対象施設は多岐に渡り、具体的な営業種別に及びます。そしてその中にネットカフェ、カラオケボックスなども含まれました。

この発表を聞き、人一倍気を揉むひとりの女性がいます。
『NPO法人BONDプロジェクト』代表・橘じゅんさんです。

『NPO法人BONDプロジェクト』代表・橘じゅんさん

『BONDプロジェクト』は家に居場所がなく繁華街を彷徨する10代の少女や20代の女性たちのサポートをしている団体です。街に出て少女たちに声をかけ、少女たちが危険な犯罪に巻き込まれないよう話を聞き、必要とあればその日泊まる場所を探すサポートをするアウトリーチ活動、またSNSを通じて少女たちからの様々な相談にのる活動をしています。

人出が激減した渋谷の街

「あの子たちはどこで夜を過ごすのだろう・・・。家に居場所がなく行く当てがない子たちの多くはネットカフェやカラオケボックスで一夜を過ごしていました。それは決して褒められたことではありません。でも少なくとも周りの目がある場所で過ごせていましたが・・・」

心配そうに話す橘さん。新型コロナウイルスで社会全体が混乱する中、居場所のない少女たちの現状について電話で話をききました。

『BONDプロジェクト』のオフィス。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、拠点を2か所に分けて人を制限しながらも活動を続けています。

BONDプロジェクトのオフィス

少女たちからの相談ごとは家族のこと、学校のこと、友達のことなどそれぞれですが、ここ最近は必ず少女たちから「コロナ」という言葉が出てくるようになったと言います。多くの人が不要不急の外出を控えるようになり家にいることが多くなりました。普段仕事で家にいない人もテレワークや、休業となった人も多くいます。そして東京の多くの学校が休校を決めました。

そうなると家のなかに大人も子供も朝から晩までいるということになります。

関係性に問題のない家庭ですと多少の不便も命には代えられないと思い、この状況を受け入れるでしょう。しかしもともと問題を抱えていた子たちにとってはこの状態は耐え難いのです。

家にいることが命を削ること

「深刻なのは、日常的な虐待がある子たちです。すきを見て家を出ようと考えていた子も、親が常に見張っていて出られない状態になっています。また親のネグレクトで食事を与えられていない子は、以前はバイトで自分の食費を稼いでいましたがそのバイトもこのコロナの影響でなくったそうです。給食だけが日々の食の頼りだった子もいます。」

親が不在の時があるとしても、いつ帰ってくるかわからないのでびくびくして気の休まる時間がないという悩みも。家にいることが命を削ることになる危機に瀕している子たちが確実に今もいると、橘さんは訴えます。

「もちろん新型コロナウイルスに感染してしまったら元も子もない。できる限り外出を控えることでウイルスの感染拡大を防ぐことに異論はありません。でも、この社会の片隅には家にいられない子供たちや家にいることで命にかかわるような子たちが多くいることもわかってもらいたいんです。」

橘さんによるとそこまで深刻な状況にない子たちでも大きなストレスを抱える子は多く、SNS相談には、
「親がイライラしていて家にいるのがいやだ」
「夫婦げんかを見るのがつらい」
など、親に関する悩みを打ち明ける子も多いのだそう。親が我が子のストレスに気づいていないことも多いという。
「学校に行って友達に会うことで家での嫌なことを普段は耐えられていたのに、これからどうしたらいいのかという相談も多いです。」

SNS相談には若者からの様々な悩みが寄せられる

他に、「好きなライブに行っていたから家の嫌なことを我慢できていたのに・・・」など、多感な時期ならではの悩みも。思いつめてしまう前になんとかしてあげたいと、橘さんはじめスタッフはSNSや、ときには電話で毎日話し相手になっています。

「新型コロナウイルス感染症について直接の相談ではないのですが、新型コロナがもたらす様々な変化によって環境がより悪化した子たちも多くいます。家に居場所がないんです。」

家に居場所のない女の子たちは家を出て街の喧騒でその心の隙間を埋めようとすることがあります。そのような子達に直接アプローチしてなんとか危険な目を回避させようと活動する『BONDプロジェクト』ですが、この新型コロナの感染拡大防止のための自粛で、彼女たちは街に来てもどこの店も開いていないためしばしば危険な手段で居場所を確保しようとするようになっています。

SNS相談にのるBONDプロジェクトのスタッフ

「前につながっていた(連絡先を知っていた)オジサンと連絡を取ってその人の家に泊めてもらっちゃった、っていう10代の子がいます。」そして、想像通りの結果になってしまったと、橘さんは焦りを隠さない口調で訴えます。
「その子の親?もちろんそんなこと知らないですよ、自分の子供がまさかって疑いもしないと思います。」

親に言わずに未成年が家に帰らないのはけしからんという意見があるのも理解できます。しかし家にはいられない、家に居場所のない子たちにそのようなことを諭すのは現実的ではない場合も多いでしょう。

性犯罪被害を回避するには

もちろん、自ら相談してくれる子たちには弁護士や女性相談センターなどとつないで、相応しい場所に保護するようにします。しかし家にいられもせず、信頼できる大人に相談もしない子たちが、犯罪、特に性犯罪被害にあわないようにどうしたらいいのでしょうか。

個人的に居場所の提供を申し出てくれる人もいてボランティアによるサポートも広がってきているとのことですが、この新型コロナウイルスによる社会的変化はいつまで続くのか分かりません。病魔を避けるとともにこのような子供たちにもしっかりと目をむけなくてはならないという初めての難しい事態を、私たち大人の責任で考えなくてはならないと思います。それも、ゆっくりはしていられません。

BONDプロジェクトのSNSには【#コロナに負けるな】とタグが付いています。
「生きて、また必ず会おうねという意味を込めました。それまで生きていようねって。‘予約’じゃないけど。」

橘さんによると、家に居場所を見つけられない子たちというのは自己肯定感が低い子たちがとても多いのだそうです。
「そのような子たちに、行動に責任を持ってとか、冷静になって自分も大切にしてとか言っても通じないんです。」

そういう子たちは自分の命を大切に思うことができません。
「だって、死にたいと思っていたからコロナで死んでもいいかなって」
「自分なんかどうでもいいや」
そんな声も聞こえてくると、危機感を強めています。

特定非営利活動法人BONDプロジェクト
LINE相談 @bondproject
https://bondproject.jp/

【取材後記】

BONDプロジェクトは東京都とも連携して活動をしていますが、この事態を受けて都からも連絡があり、橘さんは都も懸念を抱いているという感触を受けたといいます。

「ネットカフェ休業へ」というニュースのなかで、東京都はネットカフェ難民が4000人/日いると試算し、ビジネスホテルなどおよそ500部屋を借り上げて緊急事態措置のあいだネットカフェ難民の行き場を確保すると表明しました。そして必要とあればさらに確保を進めるとしています。

しかし家に帰れないような少女らが一時的に利用できるのかどうか。東京都の生活福祉課に電話取材しました。
「利用するには今はいくつかの要件を満たす必要があるけれど、緊急の場合はその限りではないかもしれないので各区市の窓口にまずは相談をしてほしい」とのことでした。

というのも、これはそもそもネットカフェで生活する人たちの自立を支援するための対策で、BONDプロジェクトのようなグループと都が進める「若年被害者モデル事業」とは担当課が異なり、そこまでのことはまだ話し合われていないようです(4月13日取材)。

また、橘さんからは以下のような指摘もありました。
「街の明かりが消え、人通りがなくなった今もコンビニやスーパー、ドラッグストアや医療従事者などは時間に関係なく働いています。そのようななか、帰り道に変な男たちに後をつけられて怖い思いをしたという女性たちに会いました。周りは閉まっているし、小道は暗く人の目がない、深夜の電車やバスもがらんとしている。助けを呼びたくても呼べない。性被害が増えてしまうかもしれないと懸念しています。ぜひ治安維持のため警察などによるパトロールを強化してもらいたいです」と。

【執筆:フジテレビ アナウンサー 島田彩夏】