意外だったゼレンスキー演説
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の国会演説はたぶん物議を醸す内容であろうが、それに日本は大人の対応をするべきなのだろうか、などと勝手に心配していたのだが、昨日(3月23日)の演説は抑制が効いており日本への敬意と期待が込められたものだった。

ゼレンスキーは「アジアで初めてロシアに圧力をかけたのが日本だ。制裁の継続もお願いしたい」と日本への感謝を表したほか、ロシアによるチェルノブイリ原発攻撃の実態やサリン攻撃の可能性を指摘して日本人の共感を誘った。

演説を聞いた国民民主党の玉木代表はYouTubeで「数日前にゼレンスキー大統領が、ロシアが支配している地域のあり方について国民投票をしようと発言していたので、降伏モードに入ったのかと思っていたが、演説を聞くと降伏はないと確信できた」と語っている。ゼレンスキーの国民投票発言そのものがフェイクとの説もあるが、いずれにしても演説を聞く限りは「戦闘継続」を思わせた。
ただ気になったのはゼレンスキーが「戦後」について多く語っていたことだ。日本にウクライナの復興への協力を要請し、「国連が機能していない」と何度も指摘して日本の国連改革への関与を促した。

この戦争はゼレンスキーの勝利か
核も持たず、軍事力行使がほぼ不可能な日本に対して外交や経済での支援を求めるのは当然だ。だが武器弾薬の供与は無理にしても医療など「戦場」での協力を長期戦に備えて求められるのかと思っていたので、ゼレンスキーの日本への「あっさりした」要求は意外だった。
ロシアの武力侵攻からはや一カ月。ウクライナの首都キエフはまだ陥落していない。いくらなんでも遅い。もしかしたらこれはプーチンの負けでゼレンスキーの勝ちなのかもしれない。だからゼレンスキーはこの辺で「徹底抗戦」から「和平交渉」に舵を切るのも一つの選択肢ではある。

プーチンにしても、2014年の電撃的なクリミア併合の成功に比べ、今回の作戦がうまくいっていないことは自分でわかっているだろう。ロシア兵の犠牲の増加、各国からの経済の締め付け、そしてネットでもれてくる世界中からの「怒り」にロシア国民が気づき始めている。プーチンに残された時間はそう長くない。

我々が認めたくない結末
プーチンが生物化学兵器、あるいは核兵器で一気に戦況を変える確率は1割もあるのだろうか。だとしたら交渉である程度の「妥協」もやむを得ないと考えるのも自然な事かもしれない。

3/14の米国議会の演説では「911や真珠湾を思い出せ」と言ってウクライナ上空の飛行禁止区域設定を求め、3/17のドイツ議会では「ロシアは戦費調達にドイツを利用している」と名指しで批判したゼレンスキーだが、日本の国会での演説は静かで落ち着いた印象だった。
停戦交渉は、仲介しているトルコ政府によると、ロシアが要求するウクライナの中立化、非武装化、非ナチ化等については歩み寄りを見せているが、クリミアや東部の独立など領土問題については対立が続いているという。しかし玉木氏の言うゼレンスキーの国民投票発言がフェイクでないなら、領土問題も進展する可能性がある。

この戦争の結末は想像できない。と言うより民主主義国家にとっては力による現状変更がある程度認められ、侵略者(プーチン)が国際法廷で裁かれることはない、という結末は本来認められない。
だが一般市民、とりわけ子供に多くの犠牲者出ている現状では、一刻も早く戦いを止めなければならない。プーチンはともかく、ゼレンスキーにはその必要性がよくわかっているのではないか。
【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】